8-3 人狼トリオ

———屋敷の敷地内



「おらっ!! いつまでも高い所から見下みおろしてんじゃねぇよ!!」


 ソフィアはエキドナの攻撃を、自身のいた枝の上から他の木の枝に飛び移り避ける。エキドナは元は二本足であったが、現在は下半身が毒々しい斑点模様のついた緑色のアナコンダのように変貌している。エキドナの変貌した体を見て、エキドナを見下みくだすようにソフィアは言葉を吐き捨てた。


「あら? 怒らせてもうた? キモい体しよってからに。私、蛇苦手やねん」


 エキドナの伸縮自在な蛇の下半身の攻撃は、ソフィアが先程までいた木を1撃でなぎ倒した。破壊力はあるようだが下半身を大きく振りかぶった攻撃しかできないエキドナ、この程度はソフィアの敵ではない。



 ガルゥゥゥ……。



 !!



 ソフィアは突如、背後で聞こえた狼の唸り声に反応し、咄嗟にエクスカリバーを抜く。背後から現れた人狼1匹の爪での攻撃に対して、剣でガードをする。


 剣でガードをしている間に、ソフィアの両側から2匹の人狼が現れ同じように爪でソフィアを攻撃してくる。


 3匹の人狼はエキドナほどの攻撃力はないがその分、かなりの素早さに加え厄介な事に3匹の連携は見事だった。


「ちっ。玖の舞きゅうのまい睡蓮すいれん


 1匹の人狼の攻撃を剣でガードし、2匹の両側からの攻撃は水の層を何層にも張った睡蓮すいれんでガードする。


 3匹の人狼はソフィアへの攻撃を深追いする事はなく、すぐに各々攻撃がガードされると素早く屋敷内の雑木林に姿を隠した。すかさず蛇の下半身で、スルスルと木を伝いソフィアの上部まで移動してきたエキドナがソフィアに蛇の下半身を振り下ろす。


 エキドナの攻撃を剣でいなすと、ソフィアはまた違う木の枝に飛び移る。


 そこからはまた同じ攻撃だ。1匹の人狼が素早くソフィアに攻撃を仕掛け、ソフィアの死角を狙って2匹の人狼が攻撃を仕掛ける。決して深追いする事はなく、ソフィアに自身の攻撃がガードされると、すぐソフィアのもとから離れて身を隠す。


 ……そしてエキドナの蛇の下半身を使った、振り下ろしの攻撃。


(厄介や。エキドナは雑魚でも3匹の人狼が厄介や。元は。余程、戦い慣れとるんか。私の反撃を受けないように、的確に隙のある時だけ攻撃を仕掛けて逃げる。ヒットアンドアウェイか……)



 !!



 1匹の人狼がまた背後から攻撃を仕掛けてきた。ソフィアはここはどちらかが隙を見せるまでの消耗戦だと感じていたが……。


 1匹の人狼が剣に鋭利な牙でかじり付く。死角から出てきた2匹の人狼も睡蓮すいれんに牙を立て噛り付く。先程までとは違い、ソフィアをその場に固定しようとしているようだ。


「なるほどな。私の体を固定して、コイツらごと私にその汚い下半身で攻撃するつもりかいな。だが、残念やな……。睡蓮華すいれんげ


 鋭利な刃物と化した睡蓮すいれんの花びらが、2匹の人狼の体を貫く。

 が、2匹の人狼は体を貫かれたのにも関わらず、睡蓮すいれんに牙を立てたままソフィアの体を1カ所に固定したまま、両側から離れない。


「ソフィア!! 討ち取った!!」


 エキドナが長く太くさせた蛇の下半身をソフィアに対して振り下ろした。

 エキドナの全力の攻撃の破壊力は、相当のものなのだろう。

 ソフィアの睡蓮すいれんの水の層がどんどん削られていく。


「アホか。玖の舞きゅうのまい裏睡蓮うらすいれん。私の棘は痛いでぇ?」


 先程、2匹の人狼に放った睡蓮すいれんの花びらから鋭利な棘が出現し、エキドナの下半身を次々と刺していく。


「ぐわああああっ!! 痛えぇ!!」


 エキドナは自身の下半身に刺さる、睡蓮すいれんの花びらから放出される鋭利な棘の痛みに耐え切れず攻撃を中断する。それを見た3匹の人狼も、またソフィアから距離をとる。


 木の上から地面に落ち、自身の下半身、蛇の部分を押えてのたうち回るエキドナ。

 その姿を見てやはりエキドナ単体では、敵ではないと感じるソフィア。


「厄介なのは……。ッ!!」


 ガルゥゥッ!!


 1匹の人狼がまたもソフィアの死角から攻撃を仕掛けてくる。

 ソフィアはその攻撃を剣でガードをする。念のため、体の両側に先程よりも分厚い睡蓮すいれんを張る。


「お前ら強いなー。 それなのに何で、こんな雑魚にペコペコ頭を下げてんねん……。って、はぁ?」


 1匹だと思っていた人狼が3匹に分裂する。

 1匹が3匹に分裂したのではなく、1匹の背後の死角に2匹の人狼が重なっていたのだ。見事な連携にソフィアであっても気が付く事はできなかった。



 ガウウウウウウッ!!



 3匹同時の蹴りの攻撃。

 息ピッタリな不意打ちの攻撃に、流石のソフィアも睡蓮すいれんのガードが間に合わず、ガードしていた剣ごと体が雑木林から屋敷の庭園まで、数十メートルも吹き飛ばされる。すぐに体勢を立て直すが、蹴りのダメージが思っていたよりも重い。



(ちっ。舐めとったわ。”魔獣”の人狼の相手ならした事はあるけど……。こいつ等、元は人間で知力があり、それもかなりの戦闘の達人。それも3匹同時に相手となると……しんどいで。エレーヌには屋敷の守り任せとるしな……。どないしよ)



 3匹の人狼は雑木林から出てきて、ソフィアの周りをトライアングル状に囲む。

 エキドナも雑木林の中からズリズリと蛇の下半身を引きずって出てくる。


 3匹のソフィアへの対応の仕方から、ソフィア相手の戦闘に慣れてきたようだ。

 次は的確にソフィアの隙をつき、トドメの1撃はエキドナに任せるといった構えを各々がしている。


「エキドナ……。女1人に男4人は卑怯やろ?」


「うるせぇ! 確実にお前ら将軍を1人1人殺していくんだよ! どうせ俺は蛇だしな、卑怯上等なんだよ! 蛇様はよ!」


「……やから蛇は苦手やって、言うてんねん」


 エキドナは勝ち誇ったように口角を上げると、3匹の人狼に手で合図をした。

 3匹の人狼は、何やら新しい陣形を組んでいるようだ。

 

 ソフィアの目でも、動きを追うのが精一杯の速さで陣形を素早く組み始める人狼達。人狼達にだけ気を向けている隙にエキドナの1撃をモロに喰らえば、一気に形勢は逆転する。



 人狼達が新たな陣形を組み終わりソフィアに攻撃を仕掛けようとした瞬間……。



 突如、ソフィア達の背後の雑木林の木々がなぎ倒されていく音が聞こえる。


 瞬間、3匹の人狼とエキドナは一気にソフィアのもとから、吹き飛ばされる。

 竜巻のような巨大な風の渦が3匹の人狼とエキドナを襲う。


 1匹の人狼が風の渦を抜けようとするが、又しても背後の雑木林の中から今度は黄色の光の一閃がその人狼の体を突き抜ける。その人狼は全身に人の目に見える程の高圧電流が走っており、もだえ苦しんでいる。


 ソフィアは咄嗟に背後の雑木林を振り返る。


 雑木林の中から2人の上下黒色のスーツスタイルにサングラスをかけた、参龍達と同じ身なりの2人の男が現れる。


 

 ソフィアは自慢の洞察力で状況を瞬時に理解して、安心したかのように大きくため息をつく。そしてその2人に対して不満をあらわにしながら、少しだけ毒づく。



「おい。あんたらを助けに来るなら、少しだけ遅いねん。楓花にチクるぞ、ほんま」












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