7-9 人間界の異変

「く、栗栖君……。栗栖君!!」


「エマッ!!」


 石化した栗栖とクロエ達の様子を少し離れたところから見ていた、楓花が心配になって石像とクロエ達のもとに寄って来ようとする。その様子を見たクロエは咄嗟にエマに対して声を荒げる。


 クロエの緊迫した様子からクロエが何を言おうとしているのか察したエマは、楓花を両腕で抱きしめ楓花を石像のもとに近付けなくする。楓花は不安の表情を浮かべている。楓花の不安を少しでも和らげてやろうと、クロエは楓花に柔らかいトーンで説明をする。


「この石像は楓花のクラスメイトの玉……栗栖という人間で間違いありませんわ。私達の世界の呪いを解くポーション回復薬でも解除ができない程、強力な呪いを掛けられていますわ。楓花にも何が起きるか分からない。エレーヌに解析させますが、今は離れていますの。分かりますわね? 楓花」


「う、うん。分かった」


 クロエ、ソフィアが石化した栗栖の前で、腕を組み考え込んでいると屋敷の門が開いた。


 皆が一斉に門の方を見る。屋敷に戻ってきた者はエレーヌだ。

 エレーヌにソフィアが話かけようとするが、すぐにエレーヌの異変に気付く。


「エ、エレーヌ、その傷はなんや? あとは……」


 エレーヌの姿を見た全員が驚愕の表情を浮かべたが、楓花の体に両腕を回していたエマが血相を変えてエレーヌのもとに駆け寄る。


「リュカ! リュカ! 返事をして! リュカ!!」


 エレーヌの背負っていた者はリュカだった。それも誰の目で見ても分かる程の瀕死の状態だ。一刻を争う状態にある事は、あの楓花でさえ分かる。楓花の表情から、エマのようにかなり取り乱している事は分かるが、エマに解放されてもその場で立ち尽くしている。


 茫然と立ち尽くす3人と取り乱しているエマに対して、エレーヌが一喝する。


「すぐ医者を寄こせ! この世界の医者にはがな! 早くしろ! 間に合わなくなるぞ! 私は私で持てる力すべて使ってリュカを蘇生する!」


 エマはすぐに自身のスマホを取り出すが、スマホを片手に動揺して冷静さを失っているエマに変わり、ソフィアが強引にエマからスマホを奪い百合園家専属の医者に電話を掛ける。



 リュカを半殺しにしたうえにエレーヌにまで傷を与えるとは……。



 エレーヌは自身の部屋にしている地下の武器庫に駆けて行った。エマは皆の間を駆け抜けていくエレーヌの後を全速力で追って行った。


『この世界にいったい何が? 玉子の石化にリュカのあの状態。エレーヌにまで傷をつける者が、この世界にいるなんてあり得ませんわ』


「おい。ソフィア」


「ああ。これは只事ではないで。この世界で確実に良からぬ事が起きているのは確かや」


 とりあえずクロエは石化した栗栖を背負い、ソフィアと楓花を連れてエレーヌの部屋に向かう事にした。楓花を連れて行ったのは、確実に楓花にも危険が迫っているため、楓花を自分達の守れる範囲外に出すのはマズいとクロエもソフィアも考えたからだ。


 数分後、百合園家専属の医師団が屋敷に到着した。エレーヌの応急処置もあったが、精鋭の医師団であってもリュカが助かる保証はないだろう。


 医師団が必死にリュカの蘇生にあたっている、数分の間だけエレーヌを部屋の外に呼び出した。


「なんだ! いまは一刻を争う状態だぞ!」


「まぁ、ちょい待ち。それは分かっとる。でも、こっちはこっちで緊急事態なんや。これ見てみい」


 エレーヌに石化した栗栖を見せる。エレーヌは栗栖の状態を確認すると、屋敷に着いてからずっと険しかった顔つきが更に険しくなる。


ストーン・ポーション石化回復薬は……。もちろんだろうな」


「そうですの。これは”人間族”や”魔獣”、”魔族”の仕業ではない。考えたくはないですが……。。でもそうなると、この石化を解くには犯人を殺すか、もしくはあの極悪女に頼むしかないですの」


「そうだな。悪いが私にはどうにもできん。では私はこれで……」


「待ちますの。状況は分かっていますの。でも、戻る前にリュカとエレーヌに何があったのかを聞かせて欲しいですの」


 クロエの言葉に疑問の表情を浮かべるエレーヌ。


「なんでだ? 後でそれは……」


「いや、いまや。間違いなく楓花の身にも危険が迫っとる。この石像を上空から、楓花めがけて投げつけてきた者がおる。そんなことが出来るのは、この世界の人間やない。もしかすると、リュカを瀕死にしてエレーヌに傷を付けた者と関係あるかもしれん」


「教えますの。リュカとエレーヌに何がありましたの?」


 エレーヌはすぐにリュカの蘇生にあたりたいが、この180センチ以上ある大きさの石像を上空から投げつける事のできる者がいるという事。楓花の身にクロエ、ソフィアでも手を焼く危険が迫っていることは間違いないと感じ、何があったのか楓花も含め3人に話す事にした。


「ああ。では、いま話そう。だが、私が相手した者と楓花を殺そうとした者、それは同一人物ではないと思うが。の者という点では、多分だが間違いないな」



 エレーヌの話を聞き、クロエ、ソフィアの嫌な予感が当たった。

 冷や汗をかく2人。”人間族”、”魔族”、”魔獣”の類なら、どれだけだったか。



 楓花はクロエ達の世界の事は大まかには聞いたが、詳しくとまでは知らない。


 だが、いつもの余裕がまったく無い3人の様子を見た楓花は、この事態がこの世界の人間の仕業ではない事、只事ではないと感じた。




 何故この世界にクロエ達の世界の悪の元凶、使がいるのか分からなかった。一体、どうやってこの世界に来ているのか。この世界に来て何をしようとしているのか。そして何故、大勢いる人間の中から1人の人間、楓花の命だけを狙うのか。クロエ達の謎は深まるばかりだった。







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