7-10 真っ赤

———数時間前



「リュカ! これはどういった構造で弾丸が発射されるのだ!?」


 もう2週間だ。

 2週間ほぼ寝る間を与えてもらえず、ずっとエレーヌの相手をしているリュカ。

 ため息交じりに武器の説明をしようとするリュカ。その時……。



 トゥルルルルルー♪



 リュカのスマホが鳴った。着信相手を確認すると、少しだけ柔らかい表情をして電話に出るリュカ。


「”おう。リュカか?”」


 電話相手の声が着信相手では無かったため不審に思うリュカ。


「誰だ? それは孝雄たかおのスマホだろ?」


「”わ、わりぃ。俺は獅子島ししじま軍団の滝川たきがわというもんなんだが……。リュカ、た、孝雄が……”」


「ん? 孝雄がどうした?」


「”さっき、息を引き取った……”」


「なんだと!? 孝雄は何処にいる!! 何があった!!」


 リュカの様子を見ていたエレーヌも、リュカの様子から只事ではないと察する。


「”い、ま……。俺達はみんな……院に……”」


「おい!! 聞き取りづらいぞ!!」


「”……リュカ!! 全力で逃げろ!! ガハッ!!”」


「おい!! 返事をしろ!! おい!!」


 電話の向こう側では、滝川という人物のうめき声だけが聞こえる。応答があるまで声を掛け続けるリュカ。やがて滝川とは違う人物がスマホを拾ったようだ。


 ガサガサと雑音が聞こえる。


「”お前、リュカ君?”」


 口調にはラフさを感じるが、声質が残酷で氷のような冷たさが電話越しにでも伝わってくる。


「誰だ……。貴様?」


「”貴様? まぁ、いいや。獅子島君、死んじゃったー。獅子島君てば、最後までリュカがお前を倒すとか言ってたなー。獅子島君が命を懸けて守った、こいつら全員の命を助けたければ学園の屋上に来いよ。本当にリュカ君が強いのか確かめてやるよ。来なかったら……”」


 電話越しから悲鳴のような声が聞こえる。どうやら、先程の滝川の声のようだ。


「すぐ行く。だから今すぐ止めろ」


 電話越しから先程よりも、大きな悲鳴が聞こえてくる。どうやら電話の相手は話が通じる相手ではないようだ。


「すぐに向かう。頼む。止めてく……下さい」


「”最初からそう言えよ。だったら屋上で待ってるねー”」


 電話相手はそう言い終えると、電話を一方的に切った。誰かは知らないが、簡単に人殺しをするような奴だ。リュカもの武器を持った。


「エレーヌ、すまない。すぐに戻る」


 そうエレーヌに言い残すと、リュカは部屋を出て行った。

 エレーヌは数分間、リュカ抜きで武器を解剖していたがリュカの動向が気になりリュカの後を追った。




———1時間後、百合園学園屋上



 リュカが屋上に着くと、黒色のパーカーのフードを深く被った1人の人物が片手にの髪の毛を掴み立っていた。


「お前か?」


 フードを深く被っており顔がよく確認できない。身長はエレーヌと同じくらい、180センチ以上ある男だ。しかしオーバーサイズのパーカーで詳しくは分からないが、エレーヌのようにガタイが良いという訳ではなく、どちらかと言うと細身の体形だ。


「お前? 口の利き方がなってないな。


 パーカー男はリュカに対してそう言うと、屋上の端までいき片手に持っていた男を屋上から宙ずりにした。まだそのパーカー男が、片手で宙ずりにしている男の髪の毛を掴んでいるため、その男が落下する事はないが……。


「お、おい……(まさか……ウソだろ?)」


 深く被ったフードの端から、パーカー男の口元がチラッとだけ見えた。この状況を心の底から楽しんでいるようだ、口角は上がり切っている。



「さいならー」



 パーカー男は何のためらいも無く、男の髪の毛を離した。もちろん掴まれていた男は何の抵抗もすることなく、屋上から落下していく。ドシャッという音だけが聞こえてきた。


 リュカはためたいも無く、持参していた銃を抜きパーカー男に発砲する。

 

 目の前にいるパーカー男は獅子島を殺し、目の前でためらいも無く1人の人間を殺した。間違いなく狂った殺人鬼だ。殺したって文句は言われないだろう。


 何発も発砲するが、パーカー男の動きが速すぎてかすりもしない。

 あのクロエでさえリュカの弾丸を避けるのに苦労したのに、まったく弾がパーカー男に当たる気配がない。



 使うつもりは無かったが、リュカは特殊に改造したショットガンを取り出した。

 サブでグレネードの弾も数発撃てるものだ。


 パーカー男は徐々にリュカとの距離を詰めてくる。詰めるといっても、攻撃をしかける素振りを見せず、ただリュカの発砲する弾を避けながらジリジリと歩み寄っているようだ。


 パーカー男との距離が数メートルになったところで、リュカはグレネードの弾を発射した。ポンッという音を立てて発砲されたグレネード弾はパーカー男に直撃し、辺り一面土埃が舞っている。リュカは得意の五感を活かして、パーカー男の気配のする辺りにトドメと言わんばかりにショットガンを続けて発砲した。


 普通の人間ではない気がしたが、これだけの攻撃を受ければ何らかのリアクションはあるはずだ。そう思ったが、パーカー男は何事もなかったかのように土埃から姿を現しリュカの方に歩み寄ってくる。


 リュカは全身に悪寒が走った。

 恐怖心から何発もパーカー男に向けてショットガンの弾を喰らわせる。


 パーカー男はもうリュカの弾丸を、体で弾を喰らいながらリュカのもとに歩み寄って来る。着弾した場所からは大量の出血がパーカー男の体に見られる。にも関わらず、パーカー男にはまったく痛がっている様子はない。まるでゾンビのように弾を喰らい続けても、確実にパーカー男の標的であるリュカのもとに歩みを進める。


 リュカは恐怖で頭がおかしくなりそうだった。各国の特殊部隊で訓練を積んできたリュカ、戦場にも何度か赴いたことがある。そんなリュカが平常心を失った。


 パーカー男との距離、数センチ。パーカー男の顔がようやく見えた。

 赤色の髪色、絵画のような異次元に整った顔、トパーズのような黄金の瞳。




「あああああああああーっ!!!!!」




「なんだぁ。獅子島君さぁー。リュカ君もじゃん」




 リュカの空色に綺麗に染まった天然の髪色が、パーカー男の一言で真っ赤に染まった。







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