7-6 ”ドワーフ族”の特性
クロエ達が屋敷に戻った頃には、もう楓花は学園から帰宅していた。
クロエの部屋で、ソフィアとエマの2人といつものように談笑をしている。
クロエは自室のドアを開け、力尽きた様子でソファに腰を掛け天井を見上げる。
珍しくリュカも疲れた様子で、ドア付近に腰を掛け俯く。
2人共、今日は大変な1日だった。
普通の人間であるパイロット達とリュカは死を覚悟した。あのクロエでさえ、大怪我は必至と覚悟した。
1人、高揚した顔つきで爆弾の解体に当たるエレーヌを除いて、プライベートジェット機内の緊張感は凄まじかった。全員が一歩間違えれば即死の、まるで爆弾解体の現場に立ち会っているような気分だった。
2人が無言の様子を心配する、楓花とエマ。ソフィアだけは何があったのか、何となく察しているようだ。
数分後、
「おい! 我が同志、リュカ! 休んでいる暇はないぞ! 早速、同志のコレクションを見せてくれぃ!」
あまりに急な出来事と、急に部屋に乱入してきた大柄の女性の威圧感で声が出ない楓花とエマ。クロエはもう無視をする事にした。クロエの部屋のドアにしがみつき、いつもの冷静さを失い必死に涙目で助けを求めるリュカ。助け舟を出したのはソフィアだ。
「お、おい。エレーヌ、久しぶりやんか? 私らに挨拶もなしかいな?」
ソフィアの声に反応するエレーヌ。ズカズカと大股でソフィアに近付く。
「おお! ソフィア! なんだ! お前もクロエと同じ場所にいたのか!」
「そやそや。あとエレーヌ、声大きいて。そんな大きな声出さんでも、ちゃんと聞こえとるわー」
「お! おお、すまん。鍛冶場や建築現場での生活が長かったもんでな。つい……」
「分かればええて。まぁ、ちょい座りぃや。話あるさかいに」
「いや、いまはダメだ。私は今からリュカのコレクションを見せてもらうのだ。そんな時間はないぞ」
深くため息をつくソフィア。エレーヌは座る事をせずに、ドアにしがみついているリュカを無理矢理にでも連れて行こうとしている。クロエよりも冷静なところがあるソフィア。咄嗟に思いついた事を、楓花を手で差しながら冷静にエレーヌに話す。
「いや。エレーヌ、それはあかん。そこにおる、楓花って言うんやけどリュカの
楓花はエレーヌの威圧感と、職人気質な気性の荒さにすっかり怯えてしまっている。エレーヌはソフィアの言葉を聞くと一旦、リュカを解放し楓花のもとに歩み寄る。
「ほう。楓花と言ったか? 本当にリュカの主で間違いないのか? こんなに小さいのに……”妖精族”か”小人族”か何かか?」
楓花は一旦、ソフィアの方を確認する。ソフィアは楓花に大丈夫だと小さく頷く。
「は、はい。私はリュカ君にお世話をしてもらっています。あと……、私は”人間”です」
楓花の”人間”という単語を聞き、咄嗟に”ヴァルカンメイス”を抜こうとするエレーヌ。エレーヌが”ヴァルカンメイス”を抜く前に、ソフィアとクロエがエレーヌの首元にエクスカリバーを当てる。
「おい? どういうつもりだ? 将軍ともあろう者達が、”人間族”の味方かぁ?」
「違いますわ。エレーヌ、よく考えるですの。確かに楓花、いやこの世界にいる者は全員”人間族”ですが、ここは異世界。私達の世界の”人間族”とは全くの別物ですわ」
「ソフィアもその様子から、クロエに同感って訳か?」
「せやな。私らも最近、それについて知ったところや。この世界には”人間族”しかおらんくてな。でもな、裏を返せば最近まで将軍ともあろう私もクロエも、その事にまったく気が付かんかった。その意味、エレーヌでも分かるやろ?」
「うむ。私達が憎むべき存在である”人間族”に気付かないなんてことは、あり得ないな。しかも、私達は実際に多くの”人間族”と対峙した事のある将軍達。まったくとなると、私達の知る”人間族”とは別物か」
エレーヌは頭の中で整理すると、”ヴァルカンメイス”から手を離した。それを確認するとクロエ、ソフィア両名も剣をエレーヌの首元から離した。
武器の事となると暴走するところはあるが、エレーヌも異世界の将軍にまで上り詰めた者。そこまで愚かではない。自身の置かれている状況を判断し、楓花に話を聞く姿勢をとった。
「楓花、悪かった。私達の世界の事は2人から聞いているのか? もし聞いていれば、先程の私の行動は悪く思わないでくれ」
楓花は180センチ以上あるエレーヌを、見上げながら笑顔で答えた。
「うん。全然、気にしていないよ。エレーヌさん」
「うむ。主にしては優しい子だな。だが、話をするにも少し楓花の背が低いので話づらいな。目線を合わせるため、しゃがむにも今はプレートアーマーが邪魔でしゃがみづらい……」
エレーヌのプレートアーマーは胸部の部分の形状は、クロエ、ソフィアと似たアーマーにしては軽装装備。
しかし下半身部分がクロエ、ソフィアはスカートタイプにロングブーツで、前から見れば太ももの部分が露出しているのに対し、エレーヌは下半身もガッシリと中世の騎士のようなアーマー装備をしているので、しゃがみ続けるのは辛かった。
その様子を見ていたクロエが、エレーヌに提案する。
「エレーヌ。楓花を怖がらせたお詫びで、例のアレやればいいですの」
「えー。あれ、疲れるんだよなー。でも、確かに詫びなきゃなー。よしっ! むんっ!!」
どんどん縮んでいくエレーヌの体。身長は楓花よりも少し低い140センチ代の身長になった。
「どうだ? 楓花? これで話しやすくなったぞ」
「エ、エレーヌちゃん!! 可愛いー!!」
エレーヌに抱きつく楓花。エレーヌの元の見た目は、エマと同じく少し楓花には年上のお姉さんみたいな顔をしていたが、身長が縮むと共にエレーヌの顔までもが幼児化した。
「可愛いとはなんだ! 私はこれでも将軍で最年長の182歳だぞ!」
エレーヌの歳を聞いてもクロエの時点で、この世界とクロエの世界の者は全く違った寿命を持つと知っていた楓花は大して驚かなかった。
クロエがエレーヌに抱きついている楓花に、”ドワーフ族”の特性の説明をする。
「楓花。エレーヌは”ドワーフ族”ですわよ。”ドワーフ族”は身長を自在にコントロールする事ができますの。まぁ、エレーヌくらいの身長になってくると、最小で100センチくらいまででしょうけど」
「え? エレーヌちゃん! ”ドワーフ”なの!? 余計に可愛いー!」
興奮した楓花が完全に落ち着くまで、しばらく時間を要した。
そういえばクロエ達の世界の”ドワーフ族”の男が好みだと、楓花が言っていたのをクロエとソフィアは思い出した。目の前のエレーヌが女でも、”ドワーフ族”は楓花の何かに刺さるのだろう。
「あの……。エレーヌ……。僕にもその技できるか?」
「いや。これは技ではなく”ドワーフ族”の特性で、他種族には無理だ」
自身の身長にコンプレックスがあるリュカは、静かにエレーヌの言葉で落ち込んだ。
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