7-5 破壊神の業火
エレーヌは全長2メートル近く大きくなった、エレーヌの棍棒”ヴァルカンメイス”を大きく振りかぶった。”ヴァルカンメイス”からは赤色の炎のようなモノが渦巻いている。
クロエはリュカを含め付近にいる全員に、エレーヌの側から死ぬ気で逃げるよう叫びながら、クロエ自身も猛スピードでエレーヌから距離をとる。
「ちょっ! お願い! やめますのー! 聞いて欲しいですのー!」
エレーヌは相変わらず問答無用といった表情を浮かべ、炎が渦巻く”ヴァルカンメイス”を、身動き1つとらずその場で目にも止まらぬ速さで振り下ろした。
「
エレーヌからクロエまでの距離は500メートル以上。
エレーヌが”ヴァルカンメイス”を振り上げて振り下ろすまでの時間、クロエの走力だけでエレーヌから逃げられた限界の距離であった。
その距離でもエレーヌが”ヴァルカンメイス”を振り下ろした瞬間、クロエの体に物凄い風圧を感じる。クロエでさえ普通に立っているのがやっとだ。
『このバカ者! 本当にやりましたわ! この風圧、その後にはあれがすぐに来ますわ。もう避けている暇はありませんわ。なんで……。こんな事のために……うっうっ』
クロエに向かって猛スピードで突進してくる、”ヴァルカンメイス”から放たれたお釈迦様のような風貌の炎の化身。クロエに向かって炎の化身が拳を振り下ろす。
ドッゴゴゴゴゴォーーーンッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴワォンッ!!
凄まじい轟音を立てて、炎の化身はエレーヌの”ヴァルカンメイス”に戻る。
クロエのいた場所、爆心地は業火の渦が巻きあがり、爆心地を中心に半径数百メートルの地面は何メートルも陥没する。
「クロエ!! 少しは根性、叩き直されたか!? だいぶ手加減してやったけど、痛かっただろう!!」
クロエのいた場所は赤色の炎で覆われている。
エレーヌは炎に向かってそう叫んだ。
!?
徐々に鎮火していく炎の中で、ゆらゆらと不自然に揺れているクロエの影を見つめるエレーヌ。
「何が手加減だ? あんなもの直撃したら、大怪我をする上に丸焦げになりますわ」
瞬時にエレーヌの背後に周り、エクスカリバーminiをエレーヌの首元に向けるクロエ。エレーヌは首元にある剣をモノともしない様子で言葉を吐き捨てる。
「はん!! お得意の
「エレーヌのせいで、貴重な
「確か、その技……。1日1回が限界で、もう出せなかったよなぁ。私はクロエやソフィアとは違う。同郷のよしみで少々加減はしてやるが、技の出し惜しみはしないぞ」
首元の剣を無視して、エレーヌがまた”ヴァルカンメイス”を振りかぶる。今度は先程とは違った青色の炎が”ヴァルカンメイス”の周りを渦巻く。
「
「ス、ストップですわ!! エレーヌ、周りを見ますの!!」
ギリギリのところで最新鋭の戦闘機への被害は免れたが、武器を貯蔵している倉庫は先程のエレーヌの一撃で壊滅的なダメージを受けている。倉庫は無残に倒壊し、倉庫に貯蔵されていた武器も辺りに散乱している。壊れている武器も多数ありそうだ。
エレーヌはすぐ攻撃を止め、散乱している武器のもとに猛ダッシュで駆け寄る。
そして壊れた武器を抱きしめ、大粒の涙を流して泣いている。
「ああー!! 我が愛しの武器たちよー!! すまない!! すまないー!!」
エレーヌのもとにより、クロエはエレーヌの肩に静かに手を置く。
「エレーヌよ。エレーヌの技はどれも攻撃範囲が広すぎですわ。このまま戦いを続けていたら、エレーヌの大好きな武器が粉々に壊れてしまいますわ」
エレーヌは静かに抱きかかえていた武器を置く。どうやら自らの力で、愛する武器を破壊してしまった事を後悔しているようだ。先程とは違い、落ち着いた様子でクロエの言葉に耳を貸しているようだ。
「エレーヌのお気に入りの
無言で頷くエレーヌ。最新鋭の戦闘機の解体など、クロエの咄嗟のウソだ。いくら百合園家でも、それは叶わないとクロエでも分かる。が、この事態を収集するには、これ以外方法は無いとクロエは判断した。
リュカはリュカで偶然、エレーヌに破壊された武器は百合園家で弁償できる範囲であったので、基地の責任者を呼び損害をすぐに弁償する代わりに、今回の件は本国には内密にするようにお願いをした。
すぐに今回の損害を弁償をしてもらえるという事と、
クロエはリュカを呼ぶ。そしてエレーヌに聞こえないようにリュカの耳元で小さく囁く。
「な、なんとか説得しましたわ。エレーヌが御執心の
「わ、分かった」
リュカは何処かに連絡をすると、すぐ基地に百合園家のプライベートジェット機が来た。リュカ、クロエ、エレーヌはプライベートジェット機に乗り込み、屋敷に帰る事にした。
プライベートジェット機内で、クロエ、リュカ、パイロット達は心の底から願った。
(……。どうか、無事に屋敷までたどり着けますように……)
クロエ、リュカの目の前で、自分の赤ん坊を抱きかかえるように、何かを抱きかかえているエレーヌ。エレーヌは米兵の目を盗み、基地にあった
パイロット達も含め、誤爆しない事を心の底から願った。
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