7-4 【武器娘】エレーヌ・スミス

 物凄い速さで日本列島を横断する光の球。

 光の球の正体は、もちろんクロエの雷走ボルトだ。


『クソッ。ソフィアめ』


 ソフィアとのじゃんけんに負けたクロエは、泣く泣くリュカの指定した場所に同じ世界出身の者を迎えに行っていた。だったので、楓花の下校相手はソフィアに任せた。楓花の下校相手に関しては、ソフィアは快諾した。


 あっという間に基地のような場所についた。

 広大な敷地に最新鋭の戦闘機などが並んでいる。


 広大な敷地内で意外と簡単にリュカを見つけた。

 リュカの先にはクロエの世界と同じ容姿の屈強な男達が集まっており何やら皆、一様に困っているようだ。


「おい! この大型の筒はなんだ!?」


「こ、これは地中貫通型爆弾MOPです……」


「ち、地中貫通型!! 撃ってもいいか!? 撃ってもいいかな!?」


「ダ、ダメに決まってるじゃないですか!」


 クロエは屈強な米兵数名に取り押さえられている、プレートアーマーを纏った女性を凝視する。


 屈強な男達、数名をモノともしていない様子だ。

 周りの事を考えもせず、武器にだけ執着している。



 クロエもソフィアも男勝りな部分はあるが女性、人の目を気にするところがある。この世界の者達の目を気にして自身に擬態化ミメティスムなるモノを掛けて、この世界の者に合わせた服装をしている。


 しかし、その女性はクロエ達と同じ形状の赤紫色のプレートアーマーを人目を全く気にする事なく身に纏ったままだ。

 

 クロエはソフィアと出会った時、同じ世界出身の者には擬態化ミメティスムは通用しないと思っていたが、その女性は擬態化ミメティスムなるモノは掛けておらず、この世界の誰の目で見てもプレートアーマーのままだ。


 恐らくこの女性の性格からして、プレートアーマーが最先端のファッションなのだろう。



 屈強な男達は皆、クロエよりも背が10センチ程高い。しかし、その女性も男達と同じくらいの背丈をしている。


 クロエには見覚えのある、女性のヘアスタイルにしては短いマッシュショートの赤髪で目の上ぎりぎりまでの前髪、その下に見えるローズクオーツのような甘いピンク色の瞳。これだけでクロエにはもう誰かは分かる。

 

 さらにダメ押しで筋肉質の体、きわめつけは特徴的な褐色の肌。

 間違いなくクロエの世界の”ドワーフ族”だ。


「こ、これはなんだ? 変わった形の剣だな?」


「う、うわっ。それはアサルトライフルM27 IARです。あまりいじらないで……」



 ズドドドドドドドドドドドドドッ!!



 男達の制止を振り切り突如、引き金を引く”ドワーフ武器オタク”。慌てて逃げ出す屈強な男達。リュカは咄嗟に回避行動をとり、クロエはエクスカリバーで銃弾を弾く。


 クロエは武器をあさり、興味津々にいじり回している”ドワーフの女”に大声を出す。


「おい!! エレーヌ!!」


 エレーヌと呼ばれた”ドワーフ族”は聞き覚えのある声に振り返り、ドカドカと大股でクロエの方に近付いてくる。


「おお!! クロエじゃん!! 何してんだ!?」


「それはこっちのセリフですわ」


「ここは何処なんだ!? まさか噂に聞く異世界とかいうやつか!?」


「まぁ、そうですわね。あと、エレーヌ。声、よく聞こえているから声の大きさを下げて」


「ああ。すまん。そうか、ここが異世界か。迷信ではなかったのだな」


 エレーヌは周りをグルグルと見回すと、すぐ最新鋭の戦闘機の方に向かおうとする。クロエはエレーヌの肩を掴むが、エレーヌはクロエをモノともせず歩を進める。エレーヌに全身を引きずられながら、クロエは無理矢理に話を進める。


『ちっ。この武器馬鹿。武器の事になると、とんでもない力を出しますわ。エレーヌが一旦こうなれば、ですわ』


「エレーヌ、まさかあなたも”ベアトリクス”の叙任じょにんの儀式を受けていましたの?」


「そうだ。クロエとソフィアが急にいなくなって、次期”ベアトリクス”が私に決まったのだ。それよりも……あの、金属の翼竜はなんだ、はぁはぁ」


『どんだけですわ。もう”ベアトリクス”だらけではないか。あの叙任の儀式がやはりキーか。あのクソジジイムーン教皇、もう教皇を引退しろ』


「止まりますの! エレーヌ・スミス!」


「なんだぁ? 私はあの翼竜を近くで見たいのだ」


 エレーヌは一旦、立ち止まったが目線はクロエではなく戦闘機に向いたままだ。

 クロエは少し離れて様子を見ていたリュカを近くに呼ぶ。


「どうした? クロエ」


「リュカ、エレーヌの事はもうここに放って置きましょう。この武器馬鹿は私にもどうにもなりませんわ」


 腕を組んで考えるリュカ。確かにクロエ、ソフィア以上の問題児に見えるが、楓花との約束もある。流石のリュカも頭がパンク寸前だ。


「……なんとか、説得できないか? クロエ達の世界の事を楓花様が心配されているのだ。一旦、屋敷に招いてクロエ達の世界の事を聞き出さねば」


「むむ。確かにエレーヌもですわ。これでこの世界に将軍が3人。あちらにはもう2人しか将軍が残っていませんわ。リュカ……、リュカも武器に精通していたな?」


「ああ。屋敷の地下にある武器庫には、僕のコレクションがあるが……」


「もう、ありませんわ。リュカ、分かりますわね?」


 リュカはクロエの言葉の真意を理解したように無言で頷く。


 先程からクロエはでエレーヌの進行を阻止しているが、これも時間の問題だ。はぁはぁと息を荒立てながら、着実に戦闘機の方に歩を進めている。


「エ、エレーヌと言ったな? 僕はリュカ・ミシェーレ。僕のいる屋敷には、この基地よりも高性能な武器が


 エレーヌはピクッと反応し、歩みを止めた。リュカの肩をガシッと力強く掴むと、はぁはぁと息を荒立てながらリュカに問いただした。


「リュカと言ったな? それは本当か? あの金属の翼竜みたいなのもあるのか?」


 地中貫通型爆弾MOPに似たような武器はが、流石に百合園家と言えど最新鋭の戦闘機までは用意がない。リュカは誤魔化すことも考えたが、このクロエとソフィアにも似た異次元の強さ。ウソだと分かった時の怖さも考え、正直に答えた。


「エレーヌが興味を示していた貫通弾みたいなモノはあるが、申し訳ないがあれ戦闘機はない」


 肩を落とすエレーヌ。その様子を見たリュカはエレーヌに追い打ちをかける。


「だ、だがエレーヌよ。あまり大きな声では言えないが、小型の武器に関してはここ基地よりも。これは本当だ、実際に来て見てもらっても構わない」


「おお! リュカよ! 余程の武器好きと見える! 我が同志よ! 分かった! リュカの屋敷に行こう!」


 リュカと固い握手をするエレーヌ。一件落着といったところだと、リュカは安堵した。しかし一筋縄ではいかない行動に出るのがクロエの世界の将軍。



「その前に、あの翼竜をさせてくれ!!」



 もちろん不可に決まっている。


 自国の兵器でも当たり前に駄目だが、他国の兵器の解体など論外だ。国際問題、最悪、日本の信用が地に落ちてしまう。その結果、日本は世界で孤立し、その先の展開を考えるだけでも恐ろしい。


 再びズンズンと歩を進めるエレーヌ。

 リュカではどうする事もできず、クロエに助けを求める。

 クロエはもうどうなってもいいと、諦めムードに入っている。

 そんなクロエにリュカは叫ぶ。


「おい! アイツを何とかできるのはクロエだけだ! クロエはと、楓花様に報告をすると親友の楓花様が悲しむぞ!」


 一気にやる気になるクロエ。親友パワー恐るべし。

 リュカも咄嗟の判断だったが、間違いではなかったと再び安堵……。


「おい! エレーヌ・スミス! のどこがいいんだ! さっさと屋敷に行きますわよ!」



……だと?」



 エレーヌの赤色の髪の毛がザワザワと逆立ち始め、ローズクオーツのような甘いピンク色の瞳がどんどん濃い鮮やかなピンク色に変わっていく。


 そして腰に差していた小ぶりのメイス棍棒を抜く。

 メイス棍棒は抜いた途端、どんどん大きくなっていく。


「おら! クロエよ! 私の愛する武器をよくも侮辱したな! 我が”ヴァルカンメイス”で、お前の根性叩き直してやらぁ!」


「いやいや。あれは武器じゃなくて飛行機とかいうヤツで……」


「問答無用!! あの攻撃的なフォルム!! 翼と胴体には大型の筒など付いている!! あれは立派な武器か兵器だ!! 覚悟しろやぁ、クロエぇ!!」


『え? ウソだと言って。誰かお願い。こうなったエレーヌはまさに。私にはどうにもなりませんわー』



 180センチ以上あるエレーヌと同じくらいの大きさになった、エレーヌの棍棒、”ヴァルカンメイス”。あんなものが直撃したら、いくら頑丈なクロエだとしても命の保証はない。



「ちょっ! エレーヌ! 謝りますわ!」


「問答無用だって言ってんだろうがぁ!!」







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