7-2 異世界解説
「わ、分かりましたわ。私のこれから話す中に出てくる”人間族”は、あくまでも私の世界の人間達の事。楓花達は気を悪くしないで欲しいですわ」
楓花に続き、エマ、リュカも息をのんで小さく頷く。クロエはそれを確認すると自分のいた世界について語り出した。
「私の世界は……」
———クロエ、ソフィアの世界
クロエ達が生まれる以前の話。
絶大な力を持つ神々が納める平和な世界だった。
人間、エルフ、ドワーフ様々な種族が種族間の争いもなく、和気あいあいと暮らしていた。国というものは存在しておらず、各々好きな場所で好きなように暮らしていた。
だが、ある日突然……。
———その平和は崩壊した
神々の中から反逆者達が出たのだ。その神々の中でも絶大な力を持つ者を”堕天使”、その下の者は”悪魔”と呼ばれた。
絶大な力を持つ神々の戦い。
戦いは世界中で天変地異を引き起こす程の
元は種族間の争いはなく、穏やかに暮らしていた多種多様の種族。
神々の中から反逆者達が出たのと同じように、種族の中にも堕天使側につく反逆種族が出た。
堕天使側に付いたのが大きく分けて、”魔族”、”獣人族”、”巨人族”。
そしてクロエ達の世界でも人口が最も多かった、……”人間族”。
神側には大きく分けて、元々神々に仕えていた種族、”天使族”、”妖精族”、”小人族”。それに加わり”ドワーフ族”、そして人間に次いで人口の多い”エルフ族”が付いた。
神々の戦いは神側の勝利で一旦、終戦したが地上に残された種族間の争いは、終戦してかなり月日が経つ今でも継続して続いている。
更に状況は悪いことに敗れた堕天使達は力を失いつつも、”堕天の王”が不在の中、日々着実に力を取り戻しつつある。
力を取り戻しつつある原因は”人間族”の力だ。
”人間族”は堕天使達の力を取り戻すため、日々堕天使達に生贄の血というものを与え続けている。
何故”人間族”は、そこまでして堕天使達の力の復活に力を注いでいるのか。
堕天使達に一番、魅了されたのが”人間族”であったからだ。
元々人口の最も多い”人間族”、種族の中で最も知力に優れ、優秀な
”人間族”はその力を利用して”魔族”、”獣人族”、”巨人族”などを従えて、クロエ達、神側に付いた種族にも攻撃を仕掛けた。
神側にも
”人間族”は多種多様な種族の中でも、最も純粋な種族であったが、その分魅了もされやすかった。堕天使達に魅了された”人間達”は皆、凶悪そのもので神側に付いた種族は”人間族”に太刀打ちできず、海に浮かぶ孤立した大陸に追いやられた。
その大陸に築かれたのが”大国アレクサンドロス”。クロエの出身国であり、神側に付いた種族の最後の楽園。海の向こう側に広がる広大な大陸はすべて”人間族”を中心に、”魔族”、”獣人族”、”巨人族”、堕天使側に付いた種族が支配している。
自身の責任を感じた神々は聖なる光の幕を大陸に張り、アレクサンドロス全体を守り堕天使、悪魔を含め、堕天使側の種族が簡単に攻撃を仕掛けて来られないようにした。
それにより神側についた種族は、アレクサンドロスの大陸内では何不自由なく生活ができている。
しかし”人間族”に自由を奪われた屈辱を忘れる事が出来ないエルフ族を中心にした種族達は国王、アレク王の名のもとに自分達の自由を取り戻そうと、100年に1度だけ大陸の外に出ては堕天使側との大戦を繰り広げている。
先の大戦では王の
———
「と、いった感じだ。私達は自由を取り戻さんとする
クロエ達の世界の惨状を知り、沈黙する楓花とエマ、リュカ。
話から自分達も同じ人間のようだが、確かにクロエが話の最初に断った通り自分達とは。いや……。
———この世界でも人間の歴史を振り返ると、人間は
楓花はスカートの裾をギュッと握り、真剣な眼差しでクロエの目を見て話し出す。
「だったら……。クロエちゃん達、元の世界に帰らなきゃ。きっと、みんな困っているよ……」
『うーむ。こんな重たい話をした後に、この世界の方が楽だという理由だけで、私もソフィアも帰るのを諦めているとは言えないしな……』
ソフィアを睨んでソフィアに助け舟を求めるクロエ。
ソフィアもソフィアでクロエと同じ事を考えていたのだろう。
珍しく額に汗を浮かべながら、頭をポリポリと掻きながら話し出す。
「うーん。私らも知らん間に、この世界に来てて帰り方、全然分からへんしなー。いやー、困った困った……はは」
苦しい言い訳……。
だが、2人とも本当に帰り方が分からないのは事実だ。
楓花がそれもそうかと俯く。エマもリュカも沈黙する。
沈黙する中、クロエが口を開く。
「い、一応、私ほどの実力ではないですが、まだ3人の将軍が向こうの世界にいますし、こっちから仕掛けない限り堕天使の軍がアレクサンドロスに入ることはできませんわ。堕天使達も力が弱まったままですし、向こうは向こうで大丈夫ですわ」
「おい、あんた。実力なら私も他の3人も同じか、それ以上やろ? それにその中の高利貸しに関しては、誰も手も足もでんやろが。ただ全員が全員、中身に多少の問題ありなだけで、あんたが姑息な手段を使うて”ベアトリクス”の座を手にしただけやろ。しかも、私を含め他の将軍からしたら、あんたが一番残念やと思っとるわ」
「キーッ! 中身に問題ありな時点で”ベアトリクス”失格ですわ! しかも、それを巧く利用するのも実力! 残念上等ですわー!」
取っ組み合いの喧嘩に発展している2人を尻目に、楓花はエマとリュカに相談する。
「ねぇ、本当に大丈夫だと思う?」
楓花の問いにエマは首を傾げながら答える。
「ま、まぁ、あの2人のこの世界での
リュカもエマの答えに頷きながら楓花に答える。
「僕も姉さんに同感です。2人とも壮絶な世界から来たわりには、落ち着いているように見えますので、心配の必要はないかと。もし楓花様がご心配でしたら、個人的な憶測ですがクロエやソフィアのように、この世界に転移してきた者がこの世界に他にいると思われます。その者達から、あの2人よりも異世界の情報が詳しく聞けるかも知れません。しばらく僕は屋敷を離れる事になりますが、それでも宜しければお調べしますが」
リュカに手を合わせてお願いの
「リュカ君、ごめんね。無理のない範囲でお願いしてもいいかな?」
「はい。お任せください。多分、あの2人のように多少問題を抱えている者達だと思うので、意外とすぐに見つかるかと」
「そっか。なら、明日からお願いします」
「はい」
相談する3人の背後でついに、剣を抜く2人。かなり大きな部屋だが、2人に暴れられたら
猛獣の檻に楓花を投げ込むようなものなので、エマとリュカはすぐ楓花を止めようとしたが間に合わない。
「2人とも!! いい加減にして!!」
楓花の大きな声にクロエは剣を下げる。クロエは楓花に親友宣言をして以来、どうも楓花にだけは弱い。その様子を見てソフィアは爆笑する。
「だははははっ! 天下の”クロエ・ベアトリクス”が楓花の言いなりやわ!」
「ソフィアちゃんもダメだよ!」
楓花に睨まれてソフィアも剣を下げる。ソフィアも楓花の事を、かなり気に入っているだけあって楓花にだけは弱い。
天女の世代の2人の将軍、しかも2人とも女騎士の最高位”ベアトリクス”まで上り詰めた実力者。その2人を言葉だけで従わせる楓花。
父親と同じ覇王の
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