第7話 ドワーフ降臨!

7-1 ”人間族”

 楓花ふうかとクロエが親友になり少し月日が経った。


 クロエは毎日、楓花を迎えに行き仲良く手を繋いで帰る。

 下校途中、楓花は相変わらずその日あった出来事を楽しそうにクロエに話す。

 クロエはこれまでとは違い、楓花の話にきちんと興味を持っているようだ。


 帰宅後は全員でクロエの部屋に集まる。


 ソフィアとも何とかうまくやっているクロエ。ソフィアとの同部屋も慣れたものだ。


 最近ではソフィアが見つけてきたアニメをクロエも気に入り、ソフィアと並んで観ている。楓花は勉強、エマは楓花の家庭教師。リュカは読書。


 平和な日常が流れていた。


 勉強を終えた楓花は、クロエとソフィアの間に入り一緒にアニメを観る。


 2人がハマっているのは転生モノのアニメだ。自分達もいわば別世界から転移してきた身だ。どこか通ずるものがあるのだろう。どっぷりとファンタジーの世界にハマり、ここは合ってる、ここは違う、と時々2人は議論を重ねている。


 楓花がアニメに出てくるキャラクターをクロエとソフィアに尋ねる。


「この”ドワーフ族”って、クロエちゃん達の世界にもいるの?」


 楓花の問いにクロエが答える。


「ええ。”ドワーフ族”はいますわよ。鍛冶職人など顔に似合わず手先が器用な部分もこのアニメに合っている。でも……、こんな小さなオッサン達ではありませんわ」


「えー? クロエちゃん達の世界の”ドワーフ族”ってどんなのー?」


「うーん。背丈は私以上の者が多く、ゴリゴリの筋肉野郎が多くて、肌は褐色かっしょく。男も女も全員が職人気質で、鍛冶のみならず建築や錬金など幅広くモノづくりを行っている。それに最近では魔道具の研究も行っていると聞きますわ。うーん、雰囲気はこの世界の何処かで目にしたような……」


 腕を組んで考え込むクロエ。一部始終を聞いていたソフィアは何かを思い出したかのように、ソフィアが毎週買っている漫画雑誌を取り出し、その表紙を楓花に見せる。


「男ならこんな感じやな。大体の雰囲気はあっとるで」


 漫画雑誌の表紙を飾っていたのは、海外の人気ダンス・ボーカルグループの”M SOUL BROTHERS”、通称”エム BROブロ”だった。


 楓花もお嬢様とはいえ、年頃の女子高生。”エム BROブロ”のファンだった。


「ええー! 凄いイケメンじゃん!」


 クロエとソフィアは首を傾げる。エマとリュカはもちろんだ。

 クロエとソフィア、交互に楓花に話かける。


「そうか? 年柄年中、日焼けに邁進まいしんしている連中だぞ? 上下関係にも異常に厳しいしな」


「それに全員が筋トレ大好きな連中や。事あるごとに筋トレ。女も筋トレ。最早、”ドワーフ族”ではなく、”筋トレ族”とも呼ばれとるで」


「ああ。でもムキムキの体格に似合わず色々と器用で、国の音楽祭ではで優勝もしていたな」


「せやったわー。あのキレッキレッの舞踊、技で剣舞を使う私でもビビったわー」


 楓花はプルプルと肩を震わせながら、顔を赤らめて言い放った。


「え!! それってすごくカッコいいじゃん!!」


 クロエもソフィアもポカーンと口を開けて楓花を見る。


「ま、まぁ、好みは人それぞれですわね」


「せやなー。イケメンに分類されるんやろ」


 楓花はプイッとそっぽを向きながら、更にクロエの世界の事を尋ねた。


「”エルフ族”は? 私、エルフ大好きなんだ。神々しい雰囲気があるというか、女神というか。やっぱり森の奥に住んでいて、弓矢の名人とかなの?」


 クロエとソフィアは頭に疑問符を浮かべて、両者声を合わせて言った。


「「は? これ」」


「え?」


「「だから、これ。見れば分かるだろやん?」」


 クロエもソフィアも自分自身の方を指差している。信じられないといった顔をしている楓花に対してお互い髪をかき上げ、各々自分の耳を見せる。


 クロエ、ソフィア共に耳の形がエルフそのものだ。


 各々、耳にお気に入りのピアスやイヤーカフを付け装飾をしているが……。

 空想上のエルフのイメージ通り、耳が縦に尖っている。



「アー。ソウナンダー」



 急にロボットのような片言で返事をする楓花。

 楓花の目がになる。

 


 クロエ、ソフィア共に大好きな楓花だが、何故か楓花の憧れているモノのひとつが瞬間だった。



 そんな楓花を見て、クロエもソフィアも首を傾げる。


 クロエがブツブツと念仏を唱えながら身動きひとつ取らなくなった楓花に話かける。


「ん? ところで楓花も雰囲気から、この世界の”天使族”か”妖精族”でしょ?」


「え? 私はだよ」


 クロエもソフィアも先程までの柔らかい雰囲気とは打って変わり、一気に表情が曇る。クロエが楓花の肩に手を置き、真剣な表情で再度尋ねる。


「楓花、それは冗談ですわよね? いくら楓花とはいえ、あまりですわよ」


 クロエの真剣な表情に楓花も困惑の色を浮かべる。そして静かに口を開く。


「え……? この世界にはね、動植物以外は人間しかいないよ? エマちゃんもリュカ君も人間だし、他のみんなも人間だよ……」


「そ、そうか……」


 クロエはソフィアのもとに行きボソボソと相談している。


「おい。皆、とはどういう事だ? 確かに人間と言われれば皆、人間に見えるが。おい、何故これまで私は気が付かなかったんだ」


「知らんがな。クロエの方がこの世界長いのに、いままで一度も気付かんかったんか? まぁ、確かに私らの世界の””とは、どう見ても違うな。これは気付かんかもな」


「そうだよな。まったく。蛮族みたいなのはいるが、私達の世界の””は誰からもしないしな。皆、”エルフ族”か”他種族”かと思っていた」


「せや。ここは別世界なんや。私らの世界の”人間族”とは同じ人間でも、全然ちゃう生き物や。私も周りが人間だらけなん、気付かんかったわ」


 楓花がボソボソと相談している2人に近付き話かける。

 エマもリュカもただ事ではないと、近くに寄って来る。


「そういえば、クロエちゃんの世界の事……。私、何も知らない。クロエちゃん、ソフィアちゃん、2人の世界の事を聞いてもいいかな?」


 クロエとソフィアはお互い目で合図して、慎重に自分達のいた世界の事を楓花達に話し出す。


 

 楓花がクロエ達から聞いた内容は、この世界では考えられないモノだった。

 それこそファンタジーと神話が混ざったような、想像を絶する厳しい世界だった。







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