5-8 真実はいつも思い込みから

 轟の運転する車で、楓花の学園終わりの1時間前にクロエとエマは学園の校門前に着いた。エマを連れてきたのは楓花の下校相手を今日だけしてもらうためだ。


 純粋な楓花をこういった争い汚い争いに巻き込みたくないという、クロエなりの配慮だった。


 エマはどういった訳……かは分かっているが、拉致の1件以降クロエの言う事は聞いてくれる。ただ1つ厄介なのが、異常な程クロエの体に触れてこようとする。


 轟とエマを車に残し、クロエは校門付近に行く。

 当初の予定通りリュカと和尊がそこにはいた。


「よっ! 和尊。久しぶり」


「あ、クロエさん。お久しぶりです」


「早速で悪いが本題を……」


 和尊が周りを頻りに気にしているようなので、学園から離れた路地裏に3人で移動する事にした。


「よし。ここなら大丈夫ですわ。和尊、話せ」


 和尊は一呼吸おいて、真剣な面持ちで話し出した。


「楓花さん、つまり僕のクラスメイトに怪しいと思う人が1人いました」


「ほう。それはどういった奴だ」


「名前は栗栖 桜強くりす おうじ。クラスの中心グループの1人です。……つまり、ヒエラルキートップの通称、”カリスマ団”の1人です。楓花さんとは小学生の時から、ずっと同じクラスらしいです」


「ヒエラルキー?」


 黙って横で和尊の話を聞いていた、リュカが口を開く。


「そういうものが学生の間にはあるのだ。クロエに分かり易く言うと、クラスの奴らが雑兵ならば、そいつ達は雑兵をまとめる将軍達だ」


「うむ。そういうものが学び舎にも……」

『ん? 私の学び舎時代にも……』


 を思い出そうと腕を組むクロエ。


 それを無視して話を戻す和尊。


「あの……。その……、いまは関係のない話は、置いといてですね。栗栖君、どうやら偽名らしいのです」


『いや、王子桜強なんて大層な名前、普通偽名だろ』


「偽名だけで怪しいとは判断できないんですが……。この学園には有名な人も多くて、偽名を使う人もので。一応、クロエさんの耳に入れておこうと思いまして」


「……。分かった。で、和尊、そいつの本名は分かりますの?」


「はい。クリストファー・アイザック・アームストロングです」


「うむ。クリストファー・アイザック・アームストロングだな?」


 無言で頷く和尊。和尊から聞いた名前を頭の中で反芻するクロエ。


「クリストファー・アイザック・アームストロング……。英語表記で、Christopher・Isacc・Armstrong……」


C・I・A中央情報局だと? 一流の諜報員スパイではないか! これは決まりですわ!』


 クロエは和尊から聞いた人名を浅い知識海外ドラマで無理矢理、脳内変換させた。暴論だが脳内で結論付けたクロエは不敵な笑みを浮かべる。


 リュカはクロエが絶対良からぬ方に考えていると思い、不敵に笑うクロエに話かける。


「いや。クロエ、まだ決まりとは。それに何故そんなに犯人がみたいな顔をしている?」


「バカ者!! そいつに決まっていますの!! そいつを今日呼び出しますわ!! 和尊はご苦労!! ここからは戦士の闘いですわ!!」


 和尊はクロエとリュカに頭を下げ、その場を足早に去って行く。

 無理なこじ付けにも関わらず高笑いが止まらないクロエ。

 そんなクロエに付き合わされるのはと思うリュカ。



(あーあ。まぁ、いいや。これは百合園家自体が絡んでいる事案。僕はそういった理由で戦いには参戦できないと言い、バカクロエからのところで静かに見守ろう……)







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