5-7 潜入レポート

 リュカは何か情報を掴んでいるといった風に、毅然とした態度で話し出した。

 クロエは部屋のソファに座り黙ってリュカの話を聞く。


「まずだな、僕は学園に対して楓花様と同じクラスへ海外からの編入といった手続きをとったのだが、それは何故か叶わなかった。その時点で、僕よりも強大な権力が楓花様の件に絡んでいる事を確信した」


『確かにリュカの話には説得力がある。先を聞いてみるか』


「仕方なく違うクラスから、楓花様の周りを探る事にした。ところが、ある問題が発生した……」



———リュカ登校初日



「えー。今日からこのクラスへ海外から編入してきた、リュカ・ミシェーレ君だ。皆、仲良くするように」


 リュカの容姿にクラス中の女子生徒がざわつく。

 リュカはかなりの美男子だ。この事態になることは必至だった。


 休み時間。案の定、リュカの席の周りには女子生徒が殺到した。


「リュカ君、私と連絡先交換しよー」

「リュカ君、私と写真撮って」

「リュカ君、今日放課後遊びに行こうー」


 まるでアイドルが転校してきたような人気ぶりだった。

 リュカは女子生徒の声をかき消すように、自分の机を強く拳で叩く。

 急なリュカの行動に静まる女子生徒達。


「僕に寄るな……」


 一瞬、静まり返った女子生徒達だが、クールで少しヤンチャな男子だと女子生徒達はした。この世代の女子達には、このくらいの方が逆にモテる場合がある。女子生徒達の熱気は更に加速した。


 その様子を見たリュカは自分のスマホのを女子生徒達、全員に見えるように見せる。


「えー? 誰、この女の人? 海外の女優さん? リュカ君、ファンなのー?」


「海外の女優だと……? この方をと一緒にするな!」


「え? だったらリュカ君の彼女……とか?」


 女子生徒達は彼女をとても大切にしている男子だと、リュカの事をに勘違いした。彼女を大切にする硬派な男。女子生徒達のリュカ愛は爆発寸前だった。


「僕の姉さんエンジェルだ」


「え?」


「この方は僕の姉さんだ! 姉さん以外は!》


 そう断言したリュカは沈黙する女子生徒達に追い打ちをかけるように、自分のスマホのカメラロールを出す。リュカのスマホに保存されているカメラロールの写真は、すべて様々なシチュエーション場面。その数、数千枚。女子生徒達も、これには流石にドン引きした。


 この1件を境に、リュカの周りは静かになった。



———



「と、僕は即座に事態の鎮静化をした」


『うわー』


 クロエは無言のままだ。事態を鎮静化させた後のリュカの行動が大事だ。


 リュカの次の行動に期待だ。


「問題はそれだけではなかった。それに関しては解決までに、かなりの日数がかかった」


『うむ。ここからが本題か……』



———リュカ登校2日目



 リュカは楓花の学園生活を陰から見張る事にした。

 楓花の周りに怪しい者はいないか、独自で聞き込みもした。


「この学園で力を持っている者はいるか?」

 

 リュカはクラスメイトにそう問いただした。

 クラスメイトの男子生徒は困った顔をしながら、リュカの問いに答えた。


「学園で力がある奴かー。あー、3年にそんな人いるな」


「誰だ?」



 3年D組、獅子島 孝雄ししじま たかお。通称”百獣の王”。

 百合園学園の頂上てっぺんに一番近い生徒だそうだ。


 リュカは獅子島の動向を見張る事にした。


 授業は当然のようにサボり、屋上で獅子島軍団と名乗る連中と昼間から麻雀をしているようだ。ただのヤンキーにしか見えないが、他生徒から恐怖される様子からリュカは標的を獅子島に決めた。


 まずは威嚇嫌がらせだ。


 学園に銃器は持ち込めない。エアガンでも駄目だろう。

 急な持ち物検査にも対応できるよう武器は昔のおもちゃ、ゴムバンドカタパルトのパチンコにした。これなら教師に尋問されても友人との戯れだと誤魔化せるだろう。ゴムバンドカタパルトのパチンコで事あるごとに陰からパチンコ玉で獅子島を狙撃した。


 獅子島への威嚇嫌がらせを1週間続けた。



 ……そしてついにその時が来た。



「おい! リュカって奴はいるか!?」


 急に1年の教室に乱入してくるいかつめの3年の先輩達クソ共、獅子島軍団だ。


 この情報網ネットワーク。1週間で威嚇相手を探し当てるなんて。



 間違いない。獅子島、コイツが密告者だ。



 素直に手を上げ、先輩達クソ共に連れられ屋上に行く。

 屋上には十数名の獅子島軍団。ど真ん中に獅子島がいる。



「おい!! てめぇ、俺に何の恨みがあるんだよ!? 毎日毎日、懲りずに俺の後頭部にパチンコ玉を当てやがって!! お前も百合学ゆりがく頂上てっぺん狙ってんのか!? ああ!?」


百合学ゆりがく頂上てっぺんなど興味ない。お前達に僕の目的を教える必要もない」


「なんだと? おい!! このクソガキ、やっちまえ!!」



 屋敷にいるバカクロエに素手は通用しないが、これでも米国の特殊部隊で格闘術を身に付けた。こんな奴ら素手で余裕だ。


 バタバタとなぎ倒されていく獅子島軍団。残るは獅子島のみ。


 確かにこれだけの人数を従えているだけあって、獅子島は強かった。

 何度、殴り倒しても不屈の精神と一般人にしては異常なタフさで何度も立ち向かってきた。


 そこから2週間弱、僕は獅子島と屋上で毎日タイマン1対1をした。


 不思議と僕も獅子島という男をおとこと認めるようになっていった。

 初日こそは集団でかかってきたが、次の日からは獅子島本人が僕を呼び出し、屋上でタイマン1対1。勝てる見込みのない僕に何度も挑んでくる姿勢。


 漢だと感じた。


 獅子島とのタイマン1対1生活、2週間目。


 初めて獅子島の右フックが僕の右頬にクリーンヒットした。

 漢のパンチだ。僕にダメージこそはなかったものの、ワザと倒れるフリをした。


 獅子島も僕の横に倒れる。

 2人並んで仰向きに倒れ、青空を見上げる。


「へへっ。リュカ、お前が本当の頂上てっぺんだ。あとは頼んだぜ」


「なに言っているんだ。孝雄、お前こそ頂上てっぺんの器だ。僕は孝雄に付いていくよ」


「リュカ……お前」



———



「おい。ちょっと待ちますの。その獅子島って奴が密告者なんだよな?」


「はぁ? クロエ、孝雄はただの熱い漢だぞ? ヤンチャな部分はあるが、そんな姑息な真似をするか」


 クロエは拳を強く握り、プルプルと震える。

 そしてその場にたまたまあったボールペンを握りしめ、リュカの眉間の部分を殴打する。その場に倒れ込み、眉間の部分を押えバタバタとのたうち回るリュカ。


「があああぁぁーっ!! なにする?! クロエ!!」


「お、お前……。この2週間、熱血ヤンキー漫画みたいな事しかしていない、と。楓花の密告者を放置して、青春を謳歌おうかしていた、と」


「違う! 俺と孝雄の間には確かなが……。!?」


 再びリュカの眉間をボールペンで殴打するクロエ。

 眉間の部分を押えバタバタとのたうち回るリュカ。


 クロエは1枚の紙とリュカから借りていたスマホを取り出し、すっかり忘れ去られていた存在、和尊わたるに電話をかける。


「よう。和尊か?」


「”え? クロエさん”」


「ダメもとで聞くが、何か分かったか?」


「”そうですね。あまり分かってはいませんが、少しなら……”」


『ちっ。このバカリュカより和尊庶民の方が役に立つとは……』


「それでもいい。お前の学年にリュカという奴が最近、編入してきただろう。知っているか?」


「”はい。色々との絶えない人なので知っています”」


『潜入捜査で他クラスで噂になるほど目立つとは……。このボケシスコンが……』


「明日、そのリュカと接触して学び舎を早退して、詳しい事を校門にいる私とリュカに話して欲しい。学校を早退しても和尊に迷惑かけないよう、ここにに言っておく」


「”は、はい。では、明日”」


 眉間の部分を押えバタバタとのたうち回るリュカの胸ぐらを掴み上げ、鬼の形相でリュカに釘をさす。


「おい。明日、私のの助手。如音 和尊じょん わたるという人物がお前に近付く。お前はそいつと早退して校門前の私のもとに来い。手続きはリュカがやれ。私の助手に迷惑をかけるなよ、リュカポンコツ


 リュカは眉間を押えながらクロエを睨みつつも、無言で頷く。

 クロエはリュカの目線を無視して、指の骨をボキボキと鳴らしながら考え込む。


『うーむ。確かな情報ではないだろうが、和尊はああ見えて意外と鋭い。このクロエ・ベアトリクスが直々に密告者を成敗してくれますわ……』







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