5-4 異現・最強コンビ
―――話はエマに楓花の下校相手を引き渡して2週間後の現在に戻る。
もう流石に海外ドラマを観続けることにも飽きてきたクロエ。
『もうそろそろ楓花が屋敷に戻り、私の部屋を訪れてくる時間ですわね。そうですわ……』
クロエは屋敷内にある高級そうな陶器の花瓶を
これは昔学校で流行った黒板消し落としの応用だ。
クロエの部屋のドアが開くと、ドアノブに
『ひゃははっ。楓花、早く帰って来ないかなー』
クロエはソファをテレビの方角から、ドアの方角に向けて特等席で頭上に花瓶が直撃する様子を見ようとワクワクしていた。
薄っすらと階段を上がってくる足音が聞こえる。
この時間帯に、この
ドアノブが少し動く。
クロエのテンションも最高潮になる。
ガチャッ
ガシャーーンッ!!
クロエはシラケた。
何故ならドアを開けたのはまさかのリュカだ。
それも素早い身のこなしで落ちてくる花瓶を
リュカは特等席でシラケた顔をしているクロエに怒りを向ける。
「クロエ……。これはどういうつもりだ?」
「あーあ。ただの悪戯ですわ。暇で暇で仕方ありませんの」
「クロエ。僕だから避けられたものの、もしドアを開けた人物が楓花様なら即死、もしくは重傷だぞ……」
「そんなにヤワではありませんわー」
まったく反省の色がないクロエにリュカは更に怒る。
「バカ者! 普通の者には大事だ! お前と一緒にするな!」
「ふーん。このくらいでねー。この世界の者は雑魚だらけですわ」
依然として反省をしないクロエに対して怒ることは、労力の無駄だと察したリュカは怒ることをやめ、クロエの部屋を訪れた本題に入る。
「エマちゃんと楓花様を知らないか?」
「んー? 今日はまだ見ていないですわ」
顎に手を当て考え込むリュカ。
真剣な表情で考え込むリュカに対してクロエは問いかける。
『うむ。考えてみればリュカだけが私の部屋を訪れてくることなんてあり得ませんわ。リュカはエマがいるところにいつもいる。これは何かあったな』
「リュカ、何かありましたの?」
「ああ。今日は学園で所要があり、エマちゃ……楓花様の下校を見守れなかったのだ。いつもはエマちゃんのサポートとして僕も陰から2人の下校を見張るのだが。何故か僕よりも先に帰った2人が何処にも見当たらないのだ。
リュカと同じように顎に手を当てて考え込むクロエ。
「おい、リュカ。いまから
「うむ。今回だけは
2人は屋敷を飛び出し、轟がいつも車を停めて待機している場所に向かう。
2人の予想通り轟はいつもの場所にいた。
轟は2人の存在に気付く。
「あっ。クロエさん、それにリュカ様も。どうされました?」
「轟、楓花様と姉さんはまだか?」
リュカは緊迫した様子で轟に詰め寄る。轟は少し困った顔をしながら答える。
「い、いえ。まだ、お見えになっておりません。今日はどこか寄り道に……」
「バカ者!!」
リュカが轟に対して殴りかかろうとする。
轟に殴りかかろうとするリュカの腕をクロエはガシッと掴み、リュカに落ち着くよう説得する。
「バカ者はお前だ、リュカ。叶夢似には何の非もないですわ。人に当たるな」
クロエに掴まれていた腕を振りほどき、クロエの正論に悔しがるリュカ。
「クロエ姉さん……」
元々クロエに対して絶大な信頼を寄せている轟。
義理人情に厚く男前な性格な上に、今回の仲間への思いやりの姿勢。
まさに
轟の中ではクロエの事は子分感覚というよりも、”ブラザー”と仲間感覚で接していたが、この件で轟は完全にクロエの子分になる事を決意した。
「叶夢似。恐らく緊急事態だ。私の第六感が楓花とエマの身の危険を感じている。私とリュカで2人の捜索に当たるが、叶夢似は叶夢似で自分にできる事をやってくくれ」
「はい! 俺は俺の昔の情報網をフル活用して2人を見つけ出します!」
「うむ。頼んだぞ」
「はい!」
轟を後にして走り出すクロエとリュカ。
もちろん2人に楓花とエマを探し出す当てなどない。
クロエとリュカが去ったあと。
轟は車を近くのコインパーキングに停め、ある人物に電話を掛ける。
「おう、
クロエとリュカは全速力で走りながら、当てもなく楓花とエマを探している。
『叶夢似は使えない奴ですわ。しかし、元蛮族の族長。恐らく私の勘ですが、楓花とエマがいなくなったのは蛮族の仕業。蛮族を探し出すには同じ蛮族を利用する他ないですわ。リュカに殴られる叶夢似を見てみたかったですが、ここは仕方ありませんわ』
走りながら
「おい、リュカ。何をしているのだ?」
「エマちゃんの匂いを探っているのだ。エマちゃんの匂いなら半径1キロメートル以内なら嗅ぎ分けられる」
『げっ! マジか。キモい……。いや、ここまでくれば称賛すべきか』
「リュカ、半径1キロメートル以内ならエマの居場所が分かるのだな?」
「当たり前だ」
クロエはリュカの言葉を聞くと、リュカを背負う姿勢をとった。
クロエは170センチ台の身長、リュカはギリ160センチの身長。
クロエの馬鹿力もあってリュカを背負って走ることなど、造作もない事だ。
「なんの真似だ?」
明らかに先程よりもイライラした様子でリュカがクロエに尋ねる。
「背に乗れ。このままだと遅い。私がリュカを背負って走ってやる」
「エマちゃん以外の女の体なんか触れられるか!!」
「いいのか? このままだとお前の大事なエマが手遅れに……」
リュカはギリギリと歯ぎしりをしながら、クロエの背中に乗った。
ボソボソとクロエの耳元でリュカが
「僕はまだ成長期だ。背の高さなんざ1年以内にクロエを抜くからな……」
リュカの話を無視して、リュカを背負いながらクロエはクラウチングスタートの姿勢をとる。
「リュカ、ちゃんと捕まってますのよ! 腕力と嗅覚に全力をつぎ込め!」
「わ、分かった……」
クロエの全身から眩い黄色の光が放たれる。
「
ピシャーッ!!!ドゴゴゴゴーンッ!!!
クロエがいたコンクリートの地面が落雷のような耳をつんざく音と共に大きく陥没する。
主に素早い敵との対峙で剣技と合わせて神速の剣技を喰らわせるために使われるが、クロエは学び舎時代の購買のパン競争に勝つためや、自分から逃げる者を追いかけるためにこの技を使っていた。
雷が地表に落ちる速さは平均で秒速200キロメートルと言われているが、クロエの鍛え抜かれた
人知を超えるスピードの乗り物に生身で乗っているようなものだが、こちらも人知を超える身体能力を持つリュカ。そんなリュカであってもクロエにしがみついているのがやっとだが、エマの事だけを思い五感を嗅覚に集中させる。
「ク、クロエ! 次を左だ! エマちゃんの匂いの形跡がある!」
「ういー」
直角に曲がる光の塊。
あまりの速さに街の人間達には、一瞬だけ眩しくなりその後、突風が吹いた程度にしか感じない。
「!? クロエ!! その角を右だ!! エマちゃんの匂いだ!!」
「ういー。おっと」
クロエは
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルッ!!!
まるでタイヤのドリフト音のようだが、ドリフト音よりも何十倍も物凄い音を立てて停止するクロエ。クロエの足元からは爆煙が出ている。
直角に曲がった先には古びた倉庫があった。
いまはもう使われていないようだが……。
中からは大勢の男の声。
声質からして野蛮な者達のようだ。
「うーむ。中の様子が知りたいな。ん? 天井には窓があるな……」
クロエはリュカを手招きで呼ぶ。
「リュカ、いまからお前を
リュカは不服そうな顔をしながらクロエに言われた通り、自分の片足をクロエの手に置く。スマホを胸ポケットから取り出し、クロエにそれを渡す。
「ほら、これで天井から倉庫の中の様子を連絡する。あと僕を投げるのはいいが、僕はまだ成長期だ」
クロエはリュカの言葉を無視して、リュカを野球のボールを放り投げるように天井に向かって投げた。リュカは天井に無事着地したようだ。すぐにリュカから渡されたスマホが鳴る。
「リュカ、どうだ? 中の様子は?」
「”エマちゃんと楓花様を発見した。まだ危害は加えられていないようだ。だが……”」
「ん? なんだ?」
「”連中、”サイバー・パンク”と呼ばれる有名な半グレ集団だ。極悪非道の限りを尽くして警察も手を出せないでいると聞く。人数は4~50人くらいいる。ん? 武装している者もいるな”」
「4~50人くらいの
「”ああ、4~50人はいる。全員喧嘩のプロだ。武装している者もいる。雑魚共だがエマちゃんを傷つけた。万死に値する。すぐにやるか?”」
「ひひひっ。リュカよ、倉庫から逃げ出す
「”了解。全員、ハチの巣だ”」
クロエはロングヘアを2つ結びにし、以前
そうすると勢いよく倉庫の扉を蹴り破った。
そして海外ドラマ?の真似をして喧嘩開始の口上を述べた。
「てめぇら!! いい加減にしやがれ!! このクロエ・ベアトリクスが相手になってやる!!」
こうして一方的な大乱闘が開戦した。
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