5-3 現代社会の産物
国から最警戒人物”コードネーム・ブラック”とされたクロエであったが、そのことは楓花の下校相手を外された事とは関係ない。
関係していたのはマスコミ各社、週刊誌や全国ニュースだ。
国際逮捕手配書が間違いであった事、機動隊員達が隊長を除き全員、クロエただ1人に
国の威信に関わるため、その騒動はすぐに国の上層部の圧力でもみ消された。しかし、どういう訳か匿名でマスコミ各社、テレビ局各社に一連の騒動の
もちろん国の上層部はそのことを嗅ぎつけ、各社に
現場付近にいた者達にも
警察が無能なのではない。
その1人が優秀すぎるのだ。
とても素人の仕業とは思えなかった。
どうみてもその手のプロ中のプロの仕業だ。
一般人に拡散された時点で、国は違う手に打って出た。
箝口令を解除して、この件は機動隊の野外訓練だと偽の報道を各社にさせた。
しかし、国民も馬鹿ではない。
野外訓練にしては市民が生活する街中での、実戦訓練。
しかも訓練にしてはたった1人に機動隊員がボコボコにされすぎだ。
これは何の訓練だとネットはもちろん、あらゆる場面で憶測が飛び交い最早、収集不可能な状況となった。
上層部は……。
「あー。もう、面倒くさいわー。もう堂々と公開して、国民の話題からさっさと消そうぜ」
そう、諦めたのだ。
情報化社会。
日々、様々な話題が尽きることなく湧き出てくる。
多種多様な話題の中で、一時は話題の中心になることは必至だが……。
人の噂も75日。
それも現代、情報量が溢れ返っている時代だ。
どんな大事件もそう話題は長続きしない。
もう、国民を誤魔化すのを止め、ありのままを報道させ勝手に噂が沈下するのを待つことにした。
マスコミやテレビはありのまま、堂々と事実だけを国民に伝えた。
こうしてクロエ・ベアトリクスは一躍、時の人となった。
人々の目に留まったのはクロエの美貌やその無敵の強さもあったが、実際のところはクロエの残念さの部分が人々の話題の中心だった。SNS上では常にクロエ関連の話題がトレンド入りをし、終いには残念な美少女というあだ名がついた。
校門前でいつものように楓花を待つクロエ。
轟の車から降りた瞬間から、クロエに大勢の人の目が集まる。
「おい。あれ」
「うおっ。あの金髪にあの顔、本物じゃん」
「ママー。あれー」
「コラッ! 見るんじゃありません!」
「俺、声かけようかな?」
「やめとけ。殺されるぞ」
「「「ああー。
周囲の声は、皆には幸運にもクロエの耳には届いていなかった。
『むっ。今日はやけに人の目が私に集中していますわね。はぁ、仕方ない……。これもこの美貌の定め。サービスしてあげますわ』
周囲の人だかりに向かってお得意のモデルポーズをとるクロエ。
人々に共通の意思が宿る。
(((うわー。やっぱり本物の
カラーン♪
カラーン♪
学校終業を知らせる鐘の音。下校をする生徒達もクロエに興味津々だ。
全員にお得意のモデルポーズをとり続けるクロエ。
「お待たせ、クロエちゃん。って? ええっ?」
クロエを取り囲む人だかりに驚く楓花。
楓花に気付いたクロエはモデルポーズを止め、楓花と下校をしようとする。
歩みを進める前にクロエは
「皆の者。今日はここまでですわよ」
人だかりに対してカッコよく片手を上げ、その場を去るクロエと楓花。
しかし、学園から轟の待つ車まで何十回もクロエと楓花の周りには人だかりができ、その度にクロエはモデルポーズをとった。楓花は呆気にとられるばかりだ。
人だかりができる度にクロエがモデルポーズをとるものなので、帰宅時間がいつもより1時間近く遅くなってしまった。
すぐにエマに呼び出される、楓花とクロエ。
楓花は不自然なまでに座高の高いエマが用意したソファに。
クロエはエマに適当に地面に座るよう言われる。
言われた通り楓花はソファに腰を掛け、クロエは地面に寝転ぶ。
「楓花様、今日はお帰りがかなり遅かったようですが?」
楓花は寝転ぶクロエに気を遣いながらも、少し困った顔をしながらエマに事情を話した。
「あの……。なんか今日、すごくクロエちゃんの周りに人が集まってきて……。それで帰るのが……」
人だかりができる度にクロエがモデルポーズをとる、そのクロエの行動が帰りが遅くなった一番の要因だが楓花はそこはクロエに気を遣い伝えなかった。
「そうですか。クロエの周りに人だかりが。どうしてでしょうかね」
エマの言葉にすかさずクロエが返事をする。
「エマ! 決まっているだろう! 皆が私の美貌にようやく気付いたのですわ! あーあ、いちいちポーズをとるのも疲れますわ」
「ほう。クロエは囲われる度にいちいちポーズをとっているのか?」
「当たり前ですわ! 私の美貌を惜しげもなく皆に見せつける! これぞ女騎士の、いや私の
「クロエ。あなたの美貌のせいで楓花様の帰りが遅くなったとでも?」
「その通りですわ! 私のこの美貌のせい……で?」
クロエの肩にエマが手を乗せる。そして優しい表情をして冷静な口調でクロエに語りかける。
「クロエ、あなたは確かに綺麗ですわ。で・す・が、あなたの責任で楓花様のお帰りが遅くなるのは認められません。楓花様のお帰りが遅いと、その分屋敷の者が不審に思います。ああーっ、あなたの美しさはどうにもならないですね」
『しまった……。私の美貌があだとなりましたわ……』
エマはクロエの肩に手を乗せたまま、優しい表情をして冷静な口調で話を続ける。
「と、言う訳でクロエの美しさが失われるまで、エマが楓花様の下校相手をします。今日のようなことが今後も続きますと、困りますので……。ぷぷっ」
「はあ?! それでは話が……。!?」
『
肩をガクッと落とすクロエ。エマはソファに座っている楓花に対して低姿勢をとる。
「楓花様。クロエと下校したいお気持ちは分かりますが、今日のようなことが続けば楓花様の下校自体が叶わなくなります。ここはエマで、ご辛抱を……」
楓花はソファに腰を深く腰を掛けたまま、足をぶらぶらとさせながら返事をする。
「う、うん。分かった。私はエマちゃんとでも嬉しいよ。いつか3人で下校できるといいな」
「では、明日からエマが楓花様をお迎えに参りますので。あ、あの……、前みたいな感じでも大丈夫でしょうか」
エマはソファに座っている楓花に対して相変わらず超低姿勢をとっている。楓花は笑顔でエマに返事する。
「うん! 前みたいな感じがいい!」
「……。ありがとうございます」
(ううっ。もう死んでもいい。……それと楓花様、あともう少しだけ足上げて。も、もう少しで楓花様の……)
楓花はソファを立ち上がり、着替えをしに自室に戻って行った。
肩を落として落ち込んでいるクロエに、エマは話しかける。
「話はまとまった。クロエはその美しさが消えるまで屋敷で待機だ。分かったか? 消えるまでだぞ……ぷぷっ」
そうクロエに言い残すと楓花の着替えを手伝うため、エマは楓花の部屋へと向かう。
『わ、私の美しさが衰えることなどあり得ない。だがその場合、楓花の
クロエは仕方なく、
クロエがこの件が、実はすべてエマの策略だということに気付くことはない。ここでもクロエの強大な
クロエはこの時点ではエマにまったく勝ち目はないが、2週間後エマの方から楓花の下校相手を譲り受ける事となる。
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