4-5 我は最強のライデンジャー

「やっぱり私には決められないよ。だから日替わりでも週替わりでも交代制でいいから、クロエちゃんとエマちゃん、どちらとも下校したい……よ」


 楓花は目に涙を浮かべながら、唇を震わせながら必死に言葉を絞り出した。

 その言葉を最後に俯いてしまう楓花。

 


 楓花は深く俯いているため、両者クロエとエマから禍々まがまがしい空気オーラが発せられていることに気付かない。


「「ダメ!!」」


 2人の言葉が重なる。楓花は俯きながら体をビクッとさせる。



 楓花の甘い蜜をずっと吸っていたい腹黒クロエ。

 楓花に歪んだ愛を向け、楓花のすべてを独占したい変態エマ。



「楓花、絶対にそれは許しませんわ。貴族の下校相手は1人と決まっていますのよ」


「え? みんなは大勢で下校してるよ?」


「楓花のようなレディお嬢様庶民負け組は違いますの!! 楓花のような家系の者は付き人は1人と決まっておりますの!!」


 これまでの人生で世間をまったく知らなかった、箱入りお嬢様世間知らずの楓花。クロエの言葉を疑いつつも半ば信じかける。


 クロエの言葉の真偽を確かめるためエマに目線を送る。


 エマは楓花の目線に少しだけ体を仰け反らせながら、すぐ体勢を持ち直し言葉を発する。


「楓花様、エマもこの女と同意見です。楓花様の下校相手デート相手1人だけというのがです」


 エマにも断言され、言葉を失う楓花。次第にどんどん潤んでいく瞳。


 エマとは長い付き合いだが、今回の件をキッカケにエマとも打ち解け友達が増えたと心の底から喜んでいた楓花。これまで友達なんて1人もいなかったのに、ここに来て急に友達が2人に増え、その内の1人を選ばないといけないとは。


「ご、ごめん……っ!!」


 悲しみに耐え切れなくなり、涙を流しながら部屋を飛び出していく楓花。

 

 パタパタという足音が聞こえていた時間と何処かのドアを閉める音が聞こえたことから、どうやら楓花は楓花の部屋から程近い距離にあるトイレお手洗いに逃げ込んだようだ。


 なら、楓花を心配してトイレまで迎えに行くところだが……。



 クロエ、エマ両者ともに、楓花がいなくなった事を絶好の機会チャンスととらえた。


「おい。お前、邪魔なんだよ。この変態クソ女」


「あ? お前こそ楓花様の前から消えろよ。この寄生虫クソ女」


 楓花がこの場にいない事を良いことに、女の醜い舌戦が繰り広げられる。


「お前、これまでずっと楓花の側にいたくせに何もしていなかったではないか。この役立たずクソ女」


「ああ? 私には私なりの事情というものもあるのだ。この脳筋クソ女」


「それは楓花の家柄が云々うんぬんという、くだらん理由か? クソ女」


「そうだがそれのどこが悪い。エマはエマなりに楓花様をお守りしてきたのだ。それに女のエマに玉なんかついてないわ。お前こそ実は玉がついているのではないか。クソ女……。あ、クソ男か」


「ああ!? 上等だ!! 貴様!! おもてにでろ!!」


「上等だよ!! 表でも裏でも出てやるよ!!」


 クロエ、エマ両名は勢いよく立ち上がり、楓花の部屋の外を出ていく。

 両者歩きながら、お互い体当たりを繰り返している。



 ひとりぼっちでしくしく泣いている楓花をトイレに残して。



 やがてクロエはエマに連れて来られるがまま意図的に誘導されて、道場のような場所に来ていた。


「おい!! ここで決闘でもしようってのか!?」


 エマはクロエの言葉を無視し、着々と何やらをしている。


 防具こそは着けていないものの、はかまみたいなものに着替えている。

 エマの手には薙刀。それもがついた本物の薙刀だ。


「おいおい!! 私は丸腰ではないか!?」


「リュカ! をクソ女に!」


 存在感がなさ過ぎて陰キャラすぎていつからいたのか分からなかったリュカが、クロエに向かって何かを投げる。


 ……クロエがキャッチしたのは、刃渡り30センチくらいの


「バカ者!! なんだこれは!!」


 エマはワザとらしく首を傾げる。


「お前に渡したのは。試しにその柄の部分のスイッチを押してみなさい」


 エマに言われた通りに、剣の柄の部分のスイッチを押す。



「”我は最強のライデンジャー!!”」


 ……。



「それはの雷神のつるぎ。エマはハンデで薙刀でいいですわ」


 どこからどう見ても小学生低学年の少年が持って遊ぶだ。


『このクソアマ……。なにがハンデだ。どう考えても真剣しんけんが付いている薙刀と玩具の剣。私の方が不利ではないか……。あっ、そうでしたわ』


「では、参る!! やあぁーーっ!!」


 威勢のいい掛け声と共に、エマがクロエに向かって薙刀を振り下ろす。


 中学生の薙刀部の子の方が断然強いのではないかと思わせるような、エマの薙刀使い。ヘニャヘニャとした力の入っていない腰使い、それと同じようなヘニャヘニャとした薙刀の軌道。極め付けは、本人が怖いのか薙刀を振り下ろす時、本人は目を閉じている。


「やぁあーーっ!!」


 クロエはあくびをしながら薙刀を避ける。


『やはりエマ……。威勢だけの女私が嫌いなタイプの女。相手になりませんわ』


「やぁああっ!!」


 クロエは鼻先をかきながら、ゆっくりと薙刀を避ける。


『今日の晩飯は何かしら?』


「やあっ!!」


 最早、薙刀がクロエの体の方に向いていないので、クロエはボーっとする。


『その後、海外ドラマを……』


「おりゃーっ!!」


 クロエの頭上に蚊が止まりそうな速度で薙刀が振り下ろされてくる。


『これ以上はの無駄ですわ!! ここは私の世界の天使族偽善者達が使っていた技を!! 確か体を少し浮かばせて……』


 クロエはクロエの世界に住む天使族の技を、見様見真似で試した。

 クロエは少しだけその場でジャンプした。


無重力ノー・グラビティ!!」


 エマはで薙刀を振り下ろしていたので、一連の流れがよく分かっていないが初めて手ごたえがあった。エマの振り下ろした薙刀の先に少しだけ重量を感じる。クロエに直撃したと確信し目を開けるエマ。



 !?



「なんだと……?」


 クロエがエマの振り下ろした薙刀の上に立っている。


『やはり見様見真似では天使族のようには飛べなかったか……。でも自身の体重をまったく感じませんわ』


 クロエはエマの振り下ろした薙刀の上を高速で走るようにエマの方まで渡りきり、エマの頭を玩具の剣で軽く殴った。


 かなり手加減をしたつもりであったが、エマはその場で気を失い崩れ落ちるように倒れた。



「”我は最強のライデンジャー!!”」



 と、一応勝利宣言のためにクロエは柄の部分のスイッチを押した。


「さらば。口先だけの女邪魔者


 その場で気を失って倒れているエマを無視して、楓花のもとに戻ろうとしたクロエ。



 パシュッ



 極小の音ではあったが地獄耳のクロエ、咄嗟に音に反応し音の鳴った方角を向いた。乾いた小音と共に光の速さで鉄の球がクロエの顔面めがけて飛んでくる。


 クロエは常人を遥かに凌ぐ動体視力の持ち主であったが、突然の出来事でその球を顔面に当たる寸前のところで躱すのが精一杯だった。


 球はクロエの頬をかすめた。

 頬からは微量に血が流れ、クロエの髪が何本か床に落ちる。

 

 鉄の球の正体は目で追えた形状から、海外ドラマに度々登場する銃の弾丸であるとクロエは脳内変換する。


『むむ。これがこの世界に存在する短銃ピストルとかいう道具から発射される弾丸バレットか……。思ったより速いな』



 パシュッ



 まただ……。

 クロエは今回は素早く前転して弾丸を躱す。



 パシュッ

 パシュッ



 まるでクロエが前転し終えた先を狙っていたかのように前転し終えたクロエの顔面に向かって、弾丸が2発飛んでくる。


『くつ! これは回避不可!』


 持っていたで剣技を繰り出す。


第3の暗殺サードアサシン剣技、聖騎士突きセイント・トゥシュ!!」


 クロエの放つ光速の剣技によって、2発の弾丸は打ち落された。

 玩具の剣の剣先が光速で飛んでくる弾丸の威力に耐えきれるはずもなく、ボロボロに欠けている。


「ちっ。いまのは討ち取ったと思ったのだが……。あぁ、……」


  見覚えのある光沢のある空色のミディアムヘアの男が、気絶しているエマを抱え、エマの顔を見つめながらボソボソと呟いている。


「お、お前は!! リュカ陰キャ!!」







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