4-4 リア重機関銃

―――楓花争奪戦後鋒、クロエ



 カラーン♪

 カラーン♪



「あ、クロエちゃん。お待たせ」


「よっ。楓花」


 学校を終えた楓花に対し、片手を上げ親友のように振舞うクロエ。

 それに対してハイタッチをする楓花。

 

 そして……。


 奇しくもクロエと同じ木陰から、見守るエマ。


「キーッ! あの女、楓花様と馴れ馴れしい!」


 昨日のエマの姉妹スタイルとは異なり、カップルリア充スタイルで歩き出す2人。


 身長差が20センチくらいある2人。

 楓花がクロエの腕に自分の腕を回す。



 ガサガサッ



 エマはに頭突きをする。

 エマの頭突きの衝撃で木の葉っぱが地面に落ちる。


「あのクソ女。エマも楓花様とカップルのように歩きたい! 腕回して欲しい!」


「……どうでもいいけどこの木、幹の部分がね」


 クロエはいつも通り、金色のロングヘアをストレートに下ろしている。

 恰好は第7の暗殺セヴンスアサシン擬態化ミメティスムによって今日は黒色のオーバーサイズのジャケットに白Tシャツ、デニムとボーイッシュなスタイルをしている。


 容姿は完全な女性だが、昨日のパリジェンヌのエマとは対照的なスタイリングだ。クロエの背は男性並みに高いうえ、クロエ自身の美貌も相まって普通の男性よりもスタイリッシュに見える。


 はたから見れば、歌劇団の男役と女役だ。


 まるでミュージカルの世界から飛び出してきたような2人組を昨日と同じくすれ違う人間、男性はもちろん女性までもが振り向いて2人を目で追っていた。


 特に昨日と違ったのは男性よりも女性の方が2人に興味を持っていたところだ。


「クソッ。やりますね。ん? 寄り道か?」


 2人はゲームセンターに入っていった。


 エマは2人の後を追ってゲームセンターに入る。ゲームセンター内では何やら子供達が騒いでいる。


「やべー! クイーンが来たぞ!」

「マジか? あのドラムクイーンが!」


「ん? クイーン? 何のことだ?」


 エマは子供達に交じり、騒ぎの中心に向かう。


「な!?」


 クロエがあるゲーム機を見事なバチさばきで高速で叩いている。

 その後ろで楓花が嬉しそうに、ゲーム機から流れる音楽に合わせて手を叩いている。


「おい。あれは何というゲームだ」


 エマは近くにいた少年に尋ねた。


「あー。あれ? ”親父オヤジの太鼓”だよ。音楽に合わせてバチで太鼓を叩くリズムゲ―ムだよ」


 エマが少年に尋ね終えた時、周囲の盛り上がりが最高潮になる。


 エマはそれと同じ熱気を感じたことがある。

 休暇で海外の巨大フェスに行ったときの事だ。


 周囲の盛り上がりは、まるで海外のエレクトロニックダンスミュージックEDMの巨大フェスで有名DJが登場した時くらいの盛り上がりだった。


 ゲームセンター内の少年達が奇声を上げ騒がしくなる。


「おい!! クイーンがゲーム会社がウケ狙いで作った曲”Don☆Hotei(ドン☆ホテイ)”に挑戦する気だぞ!!」

「しかも、最高難易度の雷親父ゼウスモードよりも上の裏モード、星一夫ほしくにおモードで!!」

「伝説だ!! 伝説が始まるぞ!!」

「お前、なに言ってんだ!! クイーン、それは無理だ!! 下町の王、リョウサン竜さんでも無理だったんだぞ!!」


 少年達の声を無視して、クロエはゲームスタートのボタンを押す。


 ゲーム開始直後から人間の目では追えないスピードの譜面がゲーム画面に現れる。ゲーム会社がどういった意図で制作したのか詳しくは分からないが……。きっとプログラマーがナイトメアモード深夜テンションで制作したのだろう。


『ふふふっ。子供達ガキ共よ』


 クロエはバチを手のひらで何回転かさせる。


 伝説の曲”Don☆Hotei(ドン☆ホテイ)”は楓花の大のお気に入り曲だ。


 ゲーム機から音楽が流れるなり、楓花のテンションはすぐ最高潮に達した。

 普段の楓花からは考えられない程、子供のように飛び跳ねて喜んでいる。


『これぞ騎士の力ベアトリクス!! 第3の暗殺サードアサシン剣技連撃聖騎士突きアサルト・セイント・トゥシュ!!』


 最早、こちらも人間の目では追えない神速しんそくの連撃。

 ノリノリの楓花以外の誰もが呆気にとられている間に曲は終わった。


 画面には”SSSちゃぶ台返し”の文字。

 

 クロエはゲーム機を背にしてバチをカッコよく後ろに放り投げる。

 バチがゲーム機の定位置にすっぽりとハマると同時に、周りからは大歓声が起きる。


「やべー!!! フルコンボだ!!!」

「クーイーンッ!!! クーイーンッ!!!」

「ちゃーぶ台!!! ちゃーぶ台!!!」


「ふっ。帰りますわよ。楓花」


「えー。クロエちゃん、まだ”親父オヤジの太鼓”しようよー」


 楓花はまるで、欲しいぬいぐるみをUFOキャッチャーで採ってもらえるよう彼氏にねだる彼女のようだった。


「遅いと叶夢似が困りますの。帰りますわよ」


「はーい」


 楓花は頬をムスッと膨らませ、クロエの腕に自分の腕を回してゲームセンターを後にしようとする。



 その時……。


「あ、あのー」


 何人かの少年達がスマホを片手に楓花に声を掛ける。

 揃いも揃って顔を赤らめている。


「あのー。一緒に写真を撮ってもらえませんか?」


 少年達の突然の申し出に困惑する楓花。


 実は楓花、他を圧倒する可愛いロリ容姿から少年達の間からは天使エンジェルと呼ばれ大人気だった。


 ちなみにクロエもクイーンと呼ばれ少年達からは大人気だが、それはあくまでもゲームの腕前の話。クロエがゲームをするときにする殺意の目つき神ゲーマーの気迫から、少年達から影で殺意のクイーン闇堕ち女王と呼ばれ恐れられていた。


「え? 嬉しいんだけど、私と写真を撮ると確かみたいなものが発生して……。だからごめんねっ」


 そう少年達に言いペコリと頭を下げると、楓花はクロエと共にゲームセンターを後にする。


「え? いまの嘘だよな?」

「撮影料なんてなー? はははっ」


 少年達は揃いも揃って、楓花にやんわりと断られたと笑い飛ばす。


 その時、背後から今日はスーツスタイルのエマが冷酷な口調で少年達に告げる。


「本当だ。楓花様の1回のキャスティング料金ギャラは、庶民のお前達の両親が謎の労働施設で死ぬまで働き、お前もそこで働き、お前の子供も、その孫も、またその……が働いても払えんぞ」


 エマの放つ冷酷な雰囲気から、少年達はその話を信じ皆ツバを飲み込む。


「や、やめときます」


「まぁ、待て。少年達」


 突然話しかけてきた冷酷な雰囲気のエマに恐怖し、その場を逃げ出そうとする少年達をエマは冷静な口調で呼び止める。


あの女クロエとなら逆にお前達に、これ1万円札をやろう」


 エマは去ろうとする少年達に1万円札を何枚もちらつかせる。


「ええ? そんな大金を?」


 少年達庶民達にとって1万円は大金だが、百合園家大金持ちにとっては紙切れレベルだった。


「ただし……」


 エマは胸ポケットから何枚か印刷用紙を取り出し、少年達に配る。

 印刷用紙には国際逮捕手配書レッドノーティスと記されている。


「この紙にあの女クロエの写真を貼り付け街中にばら撒け。それがこれ1万円札の条件だ」


 少年達は即答した。


「やります」


 少年達はゲームセンターを後にしたクロエ達を猛ダッシュで追いかける。


「クイーン、写真いいですか?」

「クイーン、こっち向いて下さい!」

「クイーン、こっちもお願いします!」


『ん? やけに人気だな……。あの女エマの差し金か?」


 クロエは一瞬、少年達を怪しんだが自身の持つ強大なナルシシズム自己愛の精神が、すぐその思考を放棄させた。


『この美貌、当然の事だろう。だが、自分が怖い。こんな幼い少年達でさえも虜にしてしまうとは。私の美貌は最早、だ。でも、この美貌に生まれてきてしまったのだから仕方がない。哀れな少年達よ、ヴィーナスは手には入らないが、せめて写真ぐらい撮らせてやろう。さぁ、どんどん撮るがいい』


 クロエは、お得意のモデルポーズを少年達に対して自慢気にとる。


 少年達は超高速でシャッターを切りまくる。

 少年達の意思には皆、共通のものが宿っていた。

 


 すべては1万円大金のため。



 次の日、クロエは街どころか市も県も越えて日本中で指名手配される事になる。


 国際逮捕手配書に、でかでかと載ったモデルポーズのクロエ。


 国際指名手配犯なのに、写真写り。

 マスコミ各社はこの何ともを面白がり、週刊誌に載せた。

 それにより電車のつり革広告にもクロエの姿が。

 全国ニュースにも、事件としてその話題は大きく取り上げられた。


 クロエの美貌も注目されたが、それ以上にクロエのが話題となった。

 異世界の日本で”クロエ・ベアトリクス”は一躍、時の人となった。



 話は戻り少年達に写真を撮らせまくったクロエは上機嫌に鼻歌を歌いながら、楓花と共に轟の車に乗った。そして轟の車でいつも通り屋敷へと帰った。


 屋敷に戻り、楓花の部屋に集まったクロエ、エマ、そして動向を探っていたリュカ。


 遂に審判の時。


 姉妹百合設定のエマか。

 カップルリア充設定のクロエか。


 2人の熱視線ラブコールを全身に受けながら、楓花が重い口を開く。







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