3-6 百合園 楓花には近付くな!
一通りポーズを決めたクロエは満足した様子で、男性達を
クロエなりの慈悲であった。
『
男性達に買ってこさせた大量の飲み物を足元に置き、再び木陰に隠れた。
カラーン♪
カラーン♪
学園から高貴な鐘の音が聞こえる。
その数分後に多数の生徒が学園から出てくる。
『……。お? 楓花ですわ』
多数の生徒に交じって1人トボトボと歩く楓花の姿を確認する。
楓花は校門付近まで来て、周りをキョロキョロと確認すると安心したような顔をして校門の端により、校門の柱に背中を預ける。
『なるほど。待ち伏せですわね』
何名かの楓花と同世代くらいの生徒が楓花の目の前を通り過ぎる。
やがて、これまた楓花の同世代くらいのグループが校門付近に集まってくる。
楓花はオドオドした雰囲気で、柱から離れそのグループに近付こうとしている。
『おお。楓花、そのグループと下校というものをするのだな』
しかし、クロエの予想は外れ楓花がグループに近付く寸前で、グループは校門をくぐり談笑しながら帰って行く。
再び柱の方に戻る楓花。
どうやら落ち込んでいるようだ。
また、別のグループが校門をくぐろうとしている。
再度、決心したように楓花はそのグループに近付こうとするが、また話しかけられずグループは談笑しながら帰って行く。
それが何度も続いた。
クロエはというと。
『なにやってますの、楓花!! そこですわ!! いま!!』
『あー!! そこ!! 楓花、行きますの!! あー!! ちくしょう!!』
木陰から楓花を缶ジュース片手に応援するクロエの姿は、プロ野球観戦に来てビール片手にひいきのチームを熱心に応援するオッサンそのものであった。
『お?』
徐々に下校していく生徒が少なくなっていく中、2人組の男子が楓花の前を通過しようとしていた。
楓花は意を決したようにズンズンと2人組の男子に近付き話しかけている。
『おお。今日一番ですわ。積極的ですわ。まずはグループ意識の高い
楓花は必死に2人組の男子と話をしている。
……しかし、2人組の男子は楓花を置いて校門をくぐり帰って行く。
残された楓花は1人、その場に俯いて立ち尽くしていた。
もう下校をする生徒の姿はない。
聞こえてくるのは各々の部活動の威勢のいい掛け声だけ。
……楓花。
ブシューーーッ!!
クロエは手に持っていた缶ジュースを握りつぶす。
「それでさー、昨日の”ハレ・トーーク”でさ……」
!?
「2人とも、動くな……」
2人組の男子は木陰から飛び出してきたクロエに瞬時に拘束された。
1人の首元には食器用ナイフ、もう1人の首元には刃物のように平たく握りつぶされた空缶。
「ひっ! なんだよ、あんた」
「……た」
「は?」
「なんで楓花の誘いを断った!!?」
クロエの怒りの咆哮。
思った以上に力が入り、空き缶を完全に潰してしまった。
クロエの咆哮に呼応するように、平たい刃物のような形状をしていた空き缶は粉々に砕けた。
それをキッカケに空き缶で拘束していた方の男子は走って逃げていった。
先程も見た光景だ。
男性は意外と薄情だ。
特にこういった危機的場面では、正義感溢れる男性でもない限り大抵は逃げる。
しかし、裏を返せばこうした分かりやすくサバサバとした仲間意識が男性のいい所でもある。逆に女性の場合は仲間意識が男性よりも強い分、人によっては困惑する場面もある。
一瞬の隙を見て同じく逃げ出そうとする、もう1人の男子の首元の食器用ナイフを少し力を入れて首元にめり込ませる。
所詮、食器用ナイフだ。
力を入れすぎたりしない限り切り傷にはならない。
それも武器の扱いに長けたクロエだ。
怒りで少し我を失っているとはいえ、そこは間違えたりしない。
「おい。まだ私の質問に答えていないだろう。次、逃げようとすると首に大きな切り傷ができるぞ」
「ひぃぃ……」
『ちっ。こんな腰抜けに何故、楓花が傷付けられなければならないのだ……』
「おい。早く言え。なぜ? どうして? 楓花の誘いを断った? 楓花は良い子だろう? 嫌われているのか?」
「……ます」
「なに?」
「楓花さんは……本当に良い子だと思います……」
「なっ……! だったら何故、楓花を避けたのだ!?」
「百合園……」
拘束した男子が何か言おうとした時、背後から人の声が聞こえた。
このままでは騒ぎになりかねない。
クロエは男子を拘束したまま、人影のない裏路地に向かった。
裏路地に入ったクロエと男子、クロエは何か話そうとした男子の拘束を解いた。
そしてその場にへたり込む男子と目線を合わせるように、片膝をつき男子に話の続きを聞いた。
「百合園と言ったな? 楓花の家の名前だがそれが何か?」
男子は観念したように話の続きをした。
「さっきも言ったけど、楓花さんはとても優しくて良い子だと思います。少し大人しいけど。楓花さんを嫌っているクラスメイトは誰もいません。でも……」
「百合園か?」
男子はコクリと小さく頷いた。
「この学園の理事長が楓花さんのお父さんなんです。もし楓花さんに近付きでもしたら……」
「なんだ……?」
「この学園を退学になるんです!!」
「なに?!」
その後も男子から学園について可能な限りの情報を聞いた。
噂のような不確定な要素もあるが……。
小中高一貫校の
全国から金持ちの子供や幼い頃から才能がある子供を優先的に在籍させているらしい。
噂が広まったのは、いつからかは分からないが。
噂では百合園 楓花に近付いた子供は翌日退学処分になるらしい。
だから誰も楓花には近付かない……。
「少年。手荒な真似してすまなかった。これは謝罪だ。あと頼みがある」
クロエは男子に持っていた飲み物を全て渡した。
男子は「こちらこそ、すみません……」と言ってきた。
どうやらこの男子生徒、名前を
和尊に電話番号を書かせたのは学園内を探らせるためだ。
今後、情報提供に協力して欲しいと。
絶対に和尊に迷惑を掛けないと約束をした。
『学び舎の最高権力は楓花の父上。確かに恐ろしい男でしたが、そんな娘が悲しむようなことをするとは到底考えられませんわ。あの溺愛ぶりから絶対にあり得ませんわ。身元不明の私でさえ楓花の友人だと知った瞬間、楓花と同じ屋敷に住まわせたくらいですもの』
クロエは学園の方向に向かって鼻を突き出しクンクンと匂いを嗅ぐ仕草をする。
クロエは(認めたくないが)この件に関しては、
『どうも臭いですわね。この件は……。おっと一番大事な事、忘れていましたわ』
クロエは学園の校門方向に向かって、足早に歩みを進めた。
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