3-5 時速36キロメートル

『これで邪魔者は去りましたわ。あとは楓花か』


 轟が校門を去ったあと、クロエは校門から少し離れた木陰に隠れて楓花を見守ることにした。


「おい。あの子、すげー美人じゃね?」


 クロエの背後から若い男性2名の声が聞こえる。


「うわっ。本当だ」


 クロエは男性の声がを装いつつも、若い男性達の方に少し体を向ける。


 男性側に体を向けたのは自分の容姿に絶対的な自信があるクロエが、自らの美貌を更に男性にアピールするためだ。


『うひゃひゃ。どうだ? この美貌? 惚れるだろう?』


 あくまでも男性の声は聞こえていない前提設定だが、男性達に向け明らかに雑誌の表紙のモデルのようなポーズをとっている。


「でもさ……」


 男性達の声のトーンが明らかに落ちた。


 クロエはポーズを決めながら、聞き耳を立てる。

 地獄耳なクロエだ、ポーズを決めながらでも鮮明に男性達の声は聞き取れる。


「あれって……コスプレだよな?」


「今日、どこかでイベントあったんじゃね?」


「だよな。……ところで俺たちの会話、あの子聞いてね?」


「ああ。それ俺も思った。自分の容姿をにアピールしだしたよな」


「きっとあれだ。が残念な部類の……」


「うわ。いくら美人でも俺、……。って、うわっ!」


 男性達の前に、不良顔負けの目つきガンを飛ばすをしたクロエが立つ。

 男性達はいきなり自分達の前に現れた、怒気丸出しのクロエに恐怖する。


「あ、あの、俺達になにか……?」


 声を出した男性の方にクロエが視線デスビームを向ける。


 男性はクロエの威圧感に押され、その場で尻もちをつく。


「貴様ら。レディミス・パーフェクトに向かって何を言った?」


 尻もちをついた男性はクロエの威圧感で声も出せずにいる。

 もう1人の男性はその場をダッシュで去った。


「お、おい! 見捨てるなよー!」


 涙ながらに自分を見捨てて逃げていく男性に、尻もちをついている男性が叫ぶ。


「わ、わりぃ!!」


 逃げる男性は見捨てた男性の顔を見ずに声だけ発して、全力ダッシュをしながら逃げる。



(俺は高校時代、陸上の短距離で国体にまで行った男。あの女、只者ではない雰囲気をしていたが全力で逃げる俺には追い付けまい。友よ、すまない……)



 ……え?



 100メートル10秒台で走る男性に対して、クロエは腕を組んだまま息ひとつ切らさず男性と並行して走っている。



 ……そんな。バ、バカな。



 すぐクロエに取り押さえられた男性は尻もちをついている男性のもとに連れて来られる。男性達は少し揉めていたようだが、クロエの無言の圧にすぐに大人しくなる。


「さて……貴様ら。どう料理調教してやろうか」


 正座する男性達に対して、クロエは指の骨をボキボキと鳴らしながら見下す。


 あまりの迫力に男性達は2人同時にクロエに土下座する。


「「ゆ、許してください!! 何でもしますから!!」」


「ほう。なんでもか……?」


「「はい!! お金でも何でも!! お願いですから殺さないで!!」」


『うーむ。金はいまはいらない金持ちの家にいるのだから困らないですわ。そうだ……』


「おい。貴様ら」


「「はい!!」」


「私はある極秘任務のため、この場を離れられない。任務が終わるまで貴様らには私の世話パシリをしてもらおうか」


「「喜んで!!」」


「あー。のどが渇きましたわ。気の利かない世話係パシリ共ですわ」


 クロエの言葉を聞き、男性達は無言ですぐ立ち上がり、1人は近くのカフェ、1人は近くの自販機に走って行った。


『うむ、これでいい。これで楓花の護衛も少しは快適になりましたわ。それにしてもこの格好、やはりこの世界では誤解を生むようですわね。ここは……』


 クロエは手を高く上げ、呪文を唱えだす。


 クロエの手からは淡い光が放出されクロエの全身を包んでいく。


第7の暗殺セヴンスアサシン擬態化ミメティスム!!」


 擬態化ミメティスムとは、潜伏スキルの一種で自身の姿が他人から見ればその場に合った姿TPOに瞬時に変身することができる能力であった。

 クロエからすれば物理的に着替えている訳ではないのでクロエ自身から見れば自身の姿は騎士の姿のままだ。


「「はぁはぁ。お、お待たせしました……」」


「うむ。ご苦労」


 先程の男性達が沢山の飲み物を抱えて帰ってきた。

 

 クロエに飲み物の好みを聞くと、また理不尽に威圧されそうだったので男性達は黙って様々な種類の飲み物を買ってきた。


 クロエは男性達の飲み物の中から、炭酸飲料の500ミリリットルペットボトルを手に取る。そしてそれを10秒で飲み切る。


 男性達はその人間技とは思えない行動に唖然とする。


 次にカフェのコーヒーを手に取る。

 これは俗に言うトールミディアムサイズであったがそれも10秒以内に飲み切る。


 男性達は目の前にいるのは女性の皮を被った地球外生命体なのではと恐怖する。


 またしてもカフェのコーヒーを手に取る。

 どうやらクロエはカフェのドリンクが気に入ったようだ。


 決して貴族の出ではないクロエであったが、クロエの性格同様クロエの舌にも長い物には巻かれよ高級品を見分ける精神が宿っていた。


 150円くらいで買えるペットボトル飲料には満足せず、するカフェのドリンクに満足した。


 クロエはドリンクのカップを片手に楓花の見張りを再開する。

 男性達は自身の財布を片手に涙目になりながら、クロエの姿が変わっている事に気付く。


「あ、あの……」


「ん? なんだ?」


「着替えられたのですか?」


「……そうだが」


「そのワンピース、とてもお綺麗です」


 男性達は各々顔を赤らめてクロエを褒めてきた。


 目をキラキラとさせている。

 まるで女神を見るような目をして。


『ふーん。私のいまの服装はワンピース姿なのか。……ここは。いま一度、私の美貌を』


 再度クロエは男性達に向け、雑誌の表紙のモデルのようなポーズをとった。

 ポーズをとる拍子に持っていたドリンクのカップを地面に投げ捨てる。

 

 まだ半分以上残っていたカップの中身のドリンクは無様に木のとなる。


 男性達はの美少女と化したクロエに、称賛の拍手を送った。


 クロエもまんざらでもない様子でモデルポーズを続ける。


 男性達は揃いも揃って涙を流した。


『ふふふっ。男達に涙を流させる程の私の美しさ。この美貌ヴィーナスに感服せよ』


 男性達は涙を流しながらクロエを見つめる。


(うう。俺達の金が……。しかももしたドリンクを平然な顔で地面に捨てやがった……。俺達はいつまでコイツサキュバスのパシリをやらされるんだ……)







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