3-3 アカデミー・ブレイク

———作戦決行日




『いつも通り楓花は学び舎に行きましたわ。友達の件……は置いといて、ひとまずクルマですわ』


 クロエは珍しく(この世界に来て初めて)、早朝起床し色々と楓花下校作戦の準備を進めている。




———昨晩




 楓花をクロエなりに慰めたあと、クロエは楓花に素朴な疑問をぶつけた。

 楓花は何とか落ち着きを取り戻したようだ。


「楓花、とも……の件はとりあえず置いといて、歩いて帰るくらい楓花の自由にすればいいんじゃありませんの?」


 楓花は真剣な顔で、過去にも自分で歩いて家に帰ろうと試みたと話だした。


 楓花の話はクロエの想像をはるかに超えていた。

 楓花が歩いて帰ろうと試みたのは1年前、中学3年生の時だという。


 中学3年生の時、今と変わらず友達はいなかった楓花ではあったが、どうしてもみんなと同じように歩いて下校がしたかった。

 

 そう思い前日から自分なりに計画を立て、校門とは違う裏門……ではバレバレなので、校舎横から学園を抜け出した。


 高い塀で囲われた学園、どこか抜け道はないかと校舎周りをウロウロとしていたら、たまたま穴の開いている箇所を発見しそこから抜け出したのだ。


 脱獄犯さながらの作戦行動ではあったが、何故か外に出て数十秒で楓花専属の運転手に見つかりそのまま車へと連行されたのだった。


 クロエはその話を聞き、この世界に来て得た知識海外ドラマをフル活用して、ひとつの答えにたどり着いた。


「楓花! それはきっと、楓花の身に付けている物の中に追跡装置GPSが付けられていますのよ!」


 その後、普段楓花が学園に行くときに身に付けているリュックの中身や服や靴底、スマホなどくまなく2人でチェックしたが、どこにも追跡装置GPSなるものは見つからなかった。


 とりあえず複雑な構造をしている電子機器スマホは何か細工がされているとも限らないので、当日は家に置いていくということになった。


「うーむ。これだけしてもまだ安心できないですわ。もしや……!?」


 クロエは自室のベランダに出て夜空を見上げる。急に夜空を見上げるクロエを不思議そうに見つめる楓花。


「ク、クロエちゃん。急にどうしたの?」


「もしや……。衛星を使って!?」


 5日間、飯と風呂以外の時間は海外ドラマを見まくっていたクロエ。中世の騎士ものからゾンビもの、脱獄ものから最新犯罪ものまで全ジャンルを網羅していたクロエは、この世界の一般的な知識から専門的な知識までかなり詳しくなっていた。

 

 だが、これはあくまでも海外ドラマの中での話、や日本特有の作法などはクロエは知らない。


『楓花の家は貴族大金持ち。あり得ない話ではないですわ。もし衛星で楓花を追跡しているとなると……私のやり方アナログに頼るしかないですわ』


「楓花、私が何とかしてあげますわ。楓花はその……友達?どうにかしますのよ」


 先程、少しだけ優しさの感情が芽生えたクロエ。少し恥ずかしくなり楓花の顔を見ずにそう告げた。

 

 それを聞いた楓花は満面の笑みでクロエに抱くつく。


「クロエちゃん、ありがとう! うん! 私も私で頑張るね!」


「も、もう分かったから、私から離れますのよ!」


「えー。いいじゃん。お友達なんだし。大好きクロエちゃん」


 今回こそははたから見ても2人の間には微笑ましい空気が流れていた。







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