第2話 お父様降臨!

2-1 女騎士はお年頃

 楓花ふうかと固い友情(?)を結んだクロエは、楓花に手を引かれるがまま屋敷内に入り楓花の部屋に案内された。


 部屋には木製のデスクと座り心地の良さそうな椅子、キングサイズのベッド、大きな本棚、棚びっしりの本、高級そうな絨毯の上に、これまた高級そうなローテーブル、大きな姿鏡、可愛らしい人形が数体、その他、必要最低限は揃っていたが広大な部屋の割りには、楓花の部屋はどこか寒々としていた。


「ここが楓花の部屋ですの?」


「そうだよ。ここが私の部屋なんだー」


「とても広いですわね……」


 楓花は頭を傾げ、不思議そうな顔をしている。


「そうなのかな?」 


「え、ええ。ま、まぁ、私の部屋の半分くらいの広さですけどね」


『私の実家の全部屋を合わせても、この部屋の広さには遠く及ばないですわね……将軍として王宮内に与えられている私の部屋よりも断然広い……』


 楓花は目をキラキラと輝かせながら、クロエの方を見てくる。

 視線が痛い。


「ええ? クロエちゃんのお部屋そんなに広いの?クロエちゃん凄い!」


「ま、まぁ。私の屋敷には、この部屋よりも大きい部屋が何部屋もありますわ」


『屋敷なんてないですわ……私にあるのはボロボロの実家と王宮の1室のみ……』


 楓花は相変わらず目をキラキラと輝かせている。

 楓花の視線がまるで矢で射抜かれるようにクロエの心に刺さる。


「クロエちゃんのお家見てみたいな」


『ひっ! これ以上は無理ですわ。このままこの話題を続けていると私のメンタルが持ちませんわ。全力で話を変えますのよ』


「そ、そんなことよりも楓花、あなたの事を教えてくださいますの!?」


 楓花は急に指先をモジモジといじりながら、顔を少し赤くしている。そして先程までとは打って変わって小さな声で自己紹介を始めだした。


「あ、改めまして……百合園 楓花です。百合園学園ゆりぞのがくえんに通う高校1年生です。あ、あと私の家族は……」


「ちょ、ちょっと待ちますのよ。楓花、学園とは何ですの? あと高校1年生というのは?」


 楓花はまた首を傾げ、不思議そうな顔をしている。そして丁寧に説明を始めた。


「学園と言うのはね学校で、勉強をするところ。それでね高校1年生というのは、その学校に入って1年目ということなの。日本にはね、年齢が上がるにつれ、小学校、中学校、高等学校、大学と進学していって、私はいま高等学校の1年生なの。巧く説明できなくてごめんね……」


 クロエは腕を組んで、楓花の言葉を頭の中で整理する。


『ほう。学校と言うのは私の世界の学び舎か? 私の世界の学び舎の仕組みとは違うみたいだが。年齢が上がるにつれ進学していくと言っていたな。楓花は上から2番目の高等学校に通っている。私には楓花は子供のように見えるのだが。この世界の学び舎はの内に卒業するものなのか?』


「楓花、歳はいくつですの?」


「え? 15歳だよ」


 楓花の言葉を聞いたクロエは膝から崩れ落ちる。

 膝から崩れ落ちたまま、その場で頭を抱えるクロエに楓花が必死に声を掛ける。


「ちょっと、クロエちゃん! 大丈夫!? クロエちゃん!」


『15歳だ……と? 幼く見えているとはいえ、ではないか……っ。茶色の髪色の緩くウェーブしたミディアムヘア、顔のつくりは私の世界にはいないが、大きな目をしていて全体的にこれはこれで可愛さを感じる。背丈は150cmくらいか。それでも15歳な訳がないだろう。15歳なんて赤ん坊の歳だぞ……』


 クロエは頭が混乱状態にあるまま、無理矢理立ち上がる。

 そして何かが吹っ切れたように笑顔でパシパシと楓花の肩を弱く何度か叩く。


「い、いやー。楓花は冗談ジョークが好きなのですね。それでも楓花、15歳というのは盛りすぎですわ。いやー、冗談にも程がありますわ」


 本日3度目。楓花は頭を傾げ、困惑した表情をしている。そして恐る恐るクロエに尋ねた。


「私、本当に15歳だよ? ……クロエちゃんは何歳なの?」


「私の歳? ピチピチのですわ」


 物凄いドヤ顔をしながら威張るように自分の歳を楓花に告げるクロエ。

 今度は楓花が膝から崩れ落ちる。


「楓花、どうかしましたの?」


 楓花は困惑した表情を浮かべながらクロエに再度尋ねてくる。


「クロエちゃんの方こそ……冗談だよね?」


「何を言っていますの?どっからどう見たってピチピチの150代でしょ?」


 自分の容姿を自慢アピールするかのようにクロエはモデルのような姿勢ポーズをとる。

 そのクロエの姿を見た楓花は力なく立ち上がり、クロエの両肩に優しく手を置く。


「クロエちゃん……155歳なんてだよ?」


 クロエの頭の中に楓花のという単語が重くのしかかる。


? いま楓花、おばあちゃんって言いましたの? この世界では私はですの?』


 クロエは死んだ魚の目をして部屋の天井を見上げる。

 楓花はクロエに気を遣いながら小さな声でクロエに説明をする。


「ちなみにね……日本では20歳で成人、平均寿命は80歳くらい、100歳まで生きれる人は稀だよ……」


 天を仰いだまま反応がなく、見る見る目から生気を失っていくクロエに対して、楓花は一生懸命励ましの言葉を掛ける。


「あっ! でも、クロエちゃんの世界とは違うよね! クロエちゃん、どっからどう見ても私と同世代みたいだし、とても綺麗だし! クロエちゃんは全然おばあちゃんじゃないよ! 年齢なんて関係ないよ!」


『そう。その通りですわ。ここは異世界。私のいた世界とは何もかもが違う。例えこの世界では私の年齢がおばあちゃんだとしても、見た目は全然おばあちゃんではない』


 クロエの性格は生まれ持っての楽観主義者ポジティブ思考だ。

 思考の切り替えが早く、些細な事は全く気にしない。それは戦う騎士にとって立派な資質だった。

 悪く言えば、自分に都合の良いように物事を解釈できる、ご都合主義な性格だった。


「そう! そうですわ! ここは私には異世界! 見た目はピチピチの若い女! 年齢なんて些細な事、関係ありませんわ!」


「そうだよ! クロエちゃん! 年齢なんて関係ないよ!」



「「はははははっ!!」」



 クロエは目に少しだけ涙を浮かべながら、無理矢理バカ笑いをする。

 楓花はそんなクロエに合わせるように、とりあえず声を出して笑う。


 2人の笑い声が部屋の中をむなしくこだまする中。


 グオオオーッ!!


 突如、聞こえてきた猛獣の雄たけびのような物音で一旦、2人の会話はお開きとなった。







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