第3話 ミュード細胞

 金属性疑似細胞――英語にするとメタリックMetalicスードPseudo-セルCellだけど略す際の文字の拾い方でミュードMeudoになるそうな。


 そんな『ミュード細胞』で構成された兵器がさっきのワームとワイバーン。


 導入の利点はミュード細胞内に含まれる遺伝子とよく似たものを基に全体の形状を一気に生成し完成させる……量産兵器が欲しい時は嬉しい技術だろうね。


 金属で構成されてる事を除けば、筋肉繊維のような柔軟な変形機構の構築が容易になり、実際の動物と同じ瞬発力ある動作が可能ってのも確かに利点。


 少し前に遭遇した豹型メカの脚部分はこのミュード細胞技術によって構築されたから四足歩行の肉食動物と同じ事が出来ると考えていい。


 主な動植物や食べ物はキミがいた世界と同じだと思ってていい――


 そう言われてたね。


 にしてもさっきは三体目の敵でボス戦かと思ってて身構えてたけど……ルカもミサもトランサーを解除して警戒を解いていた。


 トランサーを解除すれば変身前の武器に戻り、凝ったデザインじゃない普通の銃になってたけど……あんなヤバそうなものを目にして落ち着いてるって事は。


「どうぞ」


 メイドさんがコーヒーを運んで来てくれて、周囲ではルカとミサがくつろいでる……要するにあの豹型メカは。


「んー、いつ飲んでも美味しいー!」

「ブレンドのレシピを考えたのはナタリーですが」


 ミサは真っ先にコーヒーを飲んだけど、やや乱暴にカップを置いてから顔を赤くして口を押さえて黙り込んでる……察してあげよう。


 そんな感じで、私とルカとミサの三人で同じテーブルに座ってて……もっと言えばここはあの豹型メカの胴体部の居住スペース……味方のメカだったわけだね。


「トランサーの説明はもう大丈夫でしょうか?」

「うん、ありがとう。えーと……」


 このメイドさんにトランサーの話をしてもらった後、ミュード細胞の話になって……何も飲み物を出してない事に気付いてコーヒーを取りに行ってくれてた。


 さて、このテラコッタのような髪色でいい感じに鮮やかなアメジストの瞳を持つ育ちのいい胸のメイドさんの名前は……。


「リズちはリズちだよ!」


 ルカが言ってくれたけど、多分リズさんかな? 


 リズちだと何だか名字っぽい気がしなくも無い。リズチ・カヤノ……ありだね。


「ありがとルカ。カテゴリーというのが特に興味を惹きました」


 トランサーとは銃を変身させて、それを発動体に能力を行使する事までを意味する言葉だけど……変身させられる銃の種類の対象がカテゴリー。


「アタシのはアサルトライフルの中でも大振りのものじゃないとダメで、小型過ぎると対象外になるんだけど……カテゴリーって大抵それくらい限定的なの」

「あたしは弾を連射出来る軽い銃だったら何でも対象に出来るんだけど……ここまでカテゴリーが広いのって珍しいのかな?」


「アタシのカテゴリーを含む上にサブマシンガンでもいいって本当に幅広いよね」「でも元の銃の威力をちょっと上げるだけでバリアの強度が変わった事無いし」


 ルカが自信無さげに話してると、さっきまで傍のテーブルで突っ伏して寝てた女子と言うには大人っぽい……紫の暗清色の髪を長く伸ばした女性が起き上がって、未だに眠そうなウルトラマリンの瞳を開きながら言って来た。


「ふわあ……でも現地で調達出来る見込みが高いカテゴリーって充分強みだと思うよ……リズぅー私には紅茶欲しいー」


 髪全体が凄いふわふわでお姉さんオーラやばい。


 それとプロパティーというのはトランサーの原動力とも言えるエネルギー要素の属性みたいなもので、私のはストロベリーでミサがライム……ルカはシアンの上位のブルーって言ってたね。


「それにしてもカヤちゃん、運がいいねぇ」


 女性の方がレイチェルって名前なのはさっきリズさんが紹介してくれたけど……私の名前がカヤっていうのは結構最初の方に出たから、レイチェルさん。寝てるようでしっかり会話聞いてたね。


「はい。危ない所を助けて頂きました」


 スタート地点からエネミー的な存在が出る何て知らされて無かったからね。


 ここは異世界です、言葉通じます、食文化同じです、この姿でスタートします。それを聞いた途端、あの場所に飛ばされたようなもん。


「いや、そっちじゃなくて。ナタリーはこの基地一番の料理好きなんだけど……」「食材には限りがあるから次の調達まで節約生活にしようって話になって」

「ここ一週間、栄養染み込ませたゼリーやシリアルだけの食事が続いてたの」


 ルカがあわや涙目で訴えるような口調で言った後、さっきのコーヒーを口にしながらリズさんが続いた。


「飲み物のバリエーションは損なわれませんでしたが……そして一連の節約生活は今夜の晩御飯を豪華にする為でもありました」

「うぅ……でもツラかったよー」


 ルカがそういう中、足音と共にミドルヘアの女性の方が近付いて来て、


「リソース管理は大事だよぉー」


 と髪型の印象にそぐわない、ふわふわした口調で言って来た。


 水色の髪にピンクゴールドの瞳……こっちもお姉さんオーラたっぷり。


 可愛いエプロン姿で、腕によりを掛けて料理してるから今夜を楽しみにしてね、と言って去ってった。


 ……とりあえず判った事がある。


 最初に平均値を知ってから各数値を見て行くと平均値とはかなり掛け離れた数値に出くわす時ってある……その上で言う、この基地の皆って――


 胸の平均値が高い上に、一人として下の方で掛け離れてない。


 私の数値帯だと……加わっても今更な感じかな?


 それから晩御飯になり、カレーしか無かったけど具材たっぷり……しれっとお米もある。しかもこの後はデザートまであるって言ってた。


「相談って何ですか?」


 食事と会話が進む中、そんな話の流れになったので私はいた。


「ほらルカ。さっき渡した紙に書いてある文、読んで」


 ミサがそう促すと、ルカは「え、えーと……」と言った後、棒読み全開の口調でこう言い放った。


「あ、あたし達の中で誰がリーダーだと思いますか?」


 ちょっと即答出来ない……安易に前線に出されてたルカとミサは違うのは確かだけど、常に裏方にいるのがリーダーって線で考えると、特に。


 リズさんのメイドポジはリーダーとは無縁のようで影の黒幕と考えるのは相場だし、ずっと寝てるレイチェルさんは普段は色々温存してるのだと考えればリーダーである可能性が跳ね上がる。


 ナタリーさんだってずっと料理してると称して一番大事な事をしてる可能性まであって三人とも候補として有力過ぎる。


「その紙の案を出したのは誰?」


 とヒントを貰おうとした私だけど。


「リズです」


 リズさんが即答……もう勢いに任せてレイチェルさんとナタリーさんのどっちかという事にしよう。そして直感も加えて私は言った。


「……レイチェルさん?」


 常に皆の動向が見れる位置にいるからって理由だけど……さて結果は。


「真剣に考えてくれたね」

「でもこれってイジワルな問題なんだよねぇー」

「ルカさん。正解を」


 レイチェルさんとナタリーさんが喋った後、リズさんがルカに促した。


「んーと、正解は……ね。はいミサちゃん」

「いないわ」


 そう来たか……レイチェルさんがこう言った。


「五人だけの傭兵団結成から一ヶ月くらい経つけど、保留のままなんだよね」


「あたしは元いた団がほとんど皆殺しにされた生き残り」

「ルカの組織を壊滅させたのってアタシがいた組織なんだけど……その組織も無くなっちゃたんだよなぁ」


「で、ミサちゃんとこの組織の雑用係に任命されて、ミサちゃんが色々面倒見てくれたの!」

「……アタシ、目の前でルカの仲間殺してたんだけど、その事ちゃんと言ったはずなのに何でこんなに懐かれてるのかしら」


「あの時は色々と輝いてたよ! ミサちゃん」


 そんな不穏な会話に続きリズさんが言う。


「リズは可愛い女の子たちにメイド服を着せて活動する組織があったらいいな、と自分で立ち上げたのですが……そんな不純な理由で出来た組織、先の抗争で早々と潰れても文句などとても」

「私も組織を持ってて結構大きかったんだけど……そういうデカイ組織同士のぶつかり合いが先の抗争だよ。別に何か凄い物を巡って争ってたわけじゃ無くて、ふとした弾みに前面衝突起きただけなんだけどねー」


 そしてナタリーさんがふわふわとした口調で言う。


「わたしは所属組織の一員だったけど、大変だったよぉー。全然お料理するヒマ無かったし、プログラム開発もじっくり出来なかったぁ」


 あー、なるほど……つまり。私は言った。


「リーダーの素質があっても今回はのんびりゆったり過ごして隠居生活を目指したい感じなんですね」

「あなた。やっぱり勘が鋭いわね」


 そういうミサの声も鋭いよ、と思ってる間にレイチェルさんが発言。


「組織を再興したいわけじゃ無いからね。命からがらここまで逃れたんだし、可能な限りゆっくりしたいよ」

「こうしてたまにガッツリお料理良作れるだけで幸せぇー……あと気ままなプログラム開発生活ぅー」

「女の子のメイド姿は可愛いですが、別にそれを至上としていたわけではないのです。こうして可愛い女の子たちのいる生活に身を置くだけで……潤います」


 まー、こうなるとこの後、どういう話の流れになるか薄々と……。


「でね。カヤちゃん」


 うん。


「あんたがよければ、だけど……」


 まぁ。


「この傭兵団のリーダーになりませんか?」


 最後の方が数名と言うかミサとナタリーさんが違ってたけど五人全員でそう言って来た。声は見事に揃ってたね。


 こんな風に大役をお願いされるってカヤノ時代は無かったなぁ……そういうポジションにいつも一歩及ばずか、もっと下の方にいた。


 大きな出来事が全然無くてやる気がで無かった。


 頑張ってればもう少し上に行く事が出来たかもしれないけど、そうする程の理由があるようには思わなかった。


 漠然と過ごし過ぎて、どんな学校生活を送っていたかまるで思い出せない。


 昔の私ならきっと断るような状況が来たけど、予想出来ちゃってたから心の準備は万端。私は、ゆっくりと口を動かし、


「じゃ、やってみるかな」


 と言った後、更に、


「ルカ、ミサ、リズさん、レイチェルさん、ナタリーさん」


 そう皆の名前を言って、こう続けた。


「これから、よろしくね」


 やる気を出して傭兵団のリーダーとしての務めを全うしよう。


 この五人の為なら、それくらいの事は出来ると思う……それくらいの事をしてあげたい。


 とりあえず、デザートは何が来るのかな。今日はそれを、楽しもう。

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