第五話「ぼうっとするな、若騎士ども! これから総攻撃を仕掛けるぞ!」

   

 光はすぐに弱まり、僕は目を開ける。

 すると、周囲の景色は一変していた。仲間の騎士たちの向こう側には、青い空が広がっている。

 峡谷の袋小路ではなく、遥か遠くまで見渡せるような高台に移動していたのだ。

「転移魔法……」

 口に出して呟く騎士もいたが、そうでなくても皆、同じことを思い浮かべただろう。

 魔法が使えぬ僕でも、知識としては知っている。高位の魔法使いのみが使える、特殊な魔法だ。低レベルの魔法使いでも、あらかじめ魔法陣を用意したり、一人ではなく複数で協力したりすれば、発動は可能だという。

 今回の場合、アルファ隊の全員を転移させるほどの威力なのだ。それこそ、大勢おおぜいの魔法使いが参加するだけでなく、地面に魔法陣を描いておくような仕込みも必要だったのではないだろうか。


「ぼうっとするな、若騎士ども! これから総攻撃を仕掛けるぞ!」

 ゼダン隊長の号令で、ハッとする。

 彼の視線に合わせて見下ろせば、眼下に広がるのは、先ほどまで僕たちがいた袋小路。小さな広場に、ケムラス軍がなだれ込む姿だった。

 もちろん彼らの足元は見えないが、おそらく広場の大地には、転移の魔法陣が描かれていたに違いない。わが軍は、魔法使いたちをガンマ隊として安全な場所に確保しておいたから、僕たちアルファ隊も無事に転移できたわけだが……。

 ケムラス軍は、そうはいかない。こちらの部隊が姿を消したことで、先頭の少数は追撃失敗を悟ったはずだが、事態を把握できない後続は止まらなかった。

 後ろから押される形で、ほぼ全軍が、峡谷の小さな広場に終結してしまう。


「今だ! ありったけの攻撃を叩き込め! 魔法が使えぬ者は弓矢を使え! それも持たぬ者は投石だ!」

 ゼダン隊長の指示に従って、総攻撃が始まった。

 炎魔法や氷魔法など、強力な攻撃魔法が、次々とケムラス軍に叩き込まれる。ガンマ隊が待機していたのは、この崖の上だったのだ。

 改めて周りを見回すと、嬉々として炎魔法を連発するエミリーの姿もあった。彼女は回復魔法の使い手であり、攻撃魔法は苦手という噂だったのに。

 ガンマ隊だけではない。ベータ隊の者たちも、ここで待っていたらしい。眼下のケムラス軍に対して、ありったけの矢を浴びせている。弓装備がなく剣しか使えない騎士たちは、力を合わせて、重い岩をゴロゴロと落としていた。

「おい、俺たちもやるぞ!」

 名も知らぬ騎士に肩を叩かれ、僕もアルファ隊の仲間と一緒に、落石攻撃に加わるのだった。

   

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