第4話因縁の終わりと!北京ダック!!
「麻婆豆腐太郎ぉぉぉぉぉぉ」
「私はスーパーファントムのズヴァイババヴァー」
「ヴア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝」
「お前がクックスデュエルに出て俺を負かせなければ!こいつの魂は即、煉獄行きだ!」
あれから暫くの時が経ちアルドとハンメイは迫るクックスデュエルに向け準備を進めていた。
これは大体その準備が終わり後は指定された時間を待つのみとなった時期での話である
「アルドォ、そろそろこの目隠し外してくれないかい?ここが大体ガルレア大陸ってことは分かるんだけど流石に港町リンデからぶっ続けで目の見えない状態なのはきついよォ。」
「ごめん、流石に俺もリンデから始めるのは正直無理があったと思う。でももうすぐ着く筈なんだ、もうちょっとだけ待っててくれ。」
「早くくしてくれよぉ、秋の匂いしかしないよぉ。」
「待ってくれ後ほんとにもうちょっとなんだよ。いや待てよ…もう外していいと思う。
やっとの思いで目隠しを取ったハンメイの目の前にあったのは高い壁と堀に囲まれたアジアンテイストな帝国だった。
AD300年 辰の国ナグシャム
「あの一軒以来ずっと辛そうにしてたからさ、クックスデュエルも控えてるし故郷に一旦戻ってハンメイに活気を取り戻してもらおうって考えたんだ。」
アルドの気使いを無碍にするのも悪い思いつつもハンメイは返答する。
「実はね、私の故郷はナグシャムじゃない、南方大陸にあるナグシャムからやってきた移民の築いた町が私の故郷だよぉ…。」
それを聞いたアルドはもう俯くしかなかった。
「なんか…ごめんよ。」
「別にいいんだよぉ…」
ナグシャムの中に入る二人の間に気まずい空気が流れる。どちらも話題を振ることができず、かといって何かをしにいくこともできず、梅雨の雲のように停滞した空気の中二人は福楽苑の中に入った。
「それじゃあ….私の昔の話でもしよぉかぁ。」
空気に穴をあけ最初に話題を振ったのはハンメイだった。
「あれは今から六…いや十年前の事だったかなぁ…少なくとも私がまだ小さくて兄さんとの関係もまだ良好だったころの話だよぉ。あの頃の兄さんは私にとっては何でもできる理想のお兄さんだったんだぁ。よく周りの人からも思い出の味を完璧に再現してくれる神童だとか、とても物覚えが良くて助かるだとか言われていて褒められていたのを憶えてるよぉ。そんなことばかり幼いころから聞いてたら何時しか大人としての称賛しか頭が受け付けなくなって子供の割には凄いみたいな意味を婉曲した称賛が只の主張の激しい子供をあしらう為の子供騙しに聞こえるようになっちゃったんだぁ。だから私はとにかく上を目指した。少なくとも…同年代の子を引き離せるように。」
「辛いこと…話させちゃったな。」
「いいんだよぉ。こういうのはちゃんと口に出して話した方がいいって言うし。
話を戻そうかぁ。実力を上げるてゆくと何度も停滞期っていうのが私を苦しめた。何回か行き詰まることがあってその度に周りに劣等感を感じさせられたねぇ。だから私は一種の逃げを選んだ。兄さんと同じ土俵に上がらないっていう形でねぇ。」
「ハンメイ…それは逃げじゃないと思う。自分の気持ちが荒まない場所に一歩踏み出したってことじゃないかな?」
アルドはハンメイが自罰的な言い方で自分を傷つけているように感じ辛くなっていた。昔のハンメイの行動を逃げの一言で片づけてしまえばそれは今のハンメイを否定することになると思った。
「ありがとう。でも、今は私の話を最後まで聞いてほしいんだぁ。」
ハンメイは再び語りだす。
「既に流派の基礎の部分を会得していた私にとって自己流で何かを試すって言うのはそこまで苦なことじゃ無かったよぉ。あの道を選んでからは何だかんだ言って実は楽しかったまでもあるねぇ。そんなある日師匠…いや、お父さんに話す機会があった、今の自分は『華形広東流』の後継ぎとしてどうなんだって。叱責を受けると思ってたけど実際には違った、寧ろ褒められたんだよぉ。『華形広東流は新しい技法を研究し、ものにし、分派しながら発展していったから一つの流派としては長い歴史を持つけど分派一つ一つに目を向けると短い歴史になる』って。前に蛇骨島で話したことは実はそういうことだったんだねぇ。
こういうこともあって私の心の中には一つの考えが浮かぶようになったんだよぉ。兄さんに故郷を任せて自分は旅をするっていうねぇ。」
アルドはハンメイの話が大分いい方向に向かっていることを感じ少しホッとする。
「だけど本当に辛かったのはここからだよぉ。ついに私は家族に放浪の旅に出ることを打ちた。そしたら両親は許しても兄さんだけはそれに真っ向から向かって大反対してた。旅に出ることそのものに反対してたわけじゃなくて今までため込んでいたものが一気に爆発したみたいで何が起こったのか分からなかった。にしても兄さんがあんなことになってるとは思わなかったけどねぇ。」
アルドにはもう何も言え無かった。
「でもいいんだよぉ。後はもうやるべきことをやるしかないからねぇ。」
過去を吐き出しハンメイとアルドはクックスデュエルへと向かった。
BC20000年 時の塔 最上階
「ハンメイ、逃げなかったみたいだな。」
クックスデュエルのために待ち構えていたニィウホウは言う。
「アルドの命がかかってるのに逃げ出す訳がないだろぉ?それに…」
「それに?」
「兄さんの過去に何があったのかちゃんと明かしてもらわないと、いけないからねぇ!」
「それではクックスデュエル今一度クックスデュエルのルールを説明する!至極簡単だ!選手二人が同時に料理を作り審査員、この場合は私とアルドが料理を食す!そしてこの原始胎をベースに作ったスキャナーに審査員がおいしいと感じていると判断された方の勝利となる。但し自分の味覚に嘘をついた審査員は爆殺四散する!以上がルールで調理時間は1時間。それでは用意につけ!」
ニィウホウとハンメイはそれぞれ調理台の前に立ちアルドとズヴァイババヴァーは設営された観客席に座る。
「それではクックスデュエル!スタート!」
ズヴァイババヴァーの勢いのいい掛け声とともにクックスデュエルが始まった。
ハンメイとニィウホウが思い思いにそれぞれの料理を作る中アルドはズヴァイババヴァーに質問する。
「なんでおまえはあの時俺の命を奪わなかったんだ?」
「それではハンメイをおびき寄せてニィウホウと戦わせることができないだろう?人質を取るのは交渉を円滑に進めるためのスパイスだ。やり残したことがある状態でしぬことになればニィウホウも浮かばれまい。」
「やけにニィウホウに肩入れしてるみたいだな。」
「異国趣味のようなものだ。私は他のファントムとは目の付け所が違うのだよ。あいつが放つ劣等感は凄まじいものだった。それを哀れに思い私は彼に役目を与えたのだ。」
アルドはハンメイとの会話を思いだし違和感を覚え再び尋ねる。
「劣等感?ハンメイは何でもできる兄さんに憧れてたって言ってたぞ。」
「それは大分ハンメイの主観が混ざっているようだな。こちらの情報と食い違う。おっと、ついに完成したようだな。」
制限時間丁度ぴったりで料理が完成する。
ニィウホウが運んできたのは肉とにらが織り成す青椒肉絲であった。
「これが本家本元の華形広東流の味だご賞味あれ。」
ニィウホウはハンメイが何を作ったのか一切見向きもせずもうすでに勝ったかのように皿を出す。
「旨味が染み出してくる。やはり肉とは良いものだ。」
「タレがぎっとり効いてて高密度な味だ!」
お互いに公平な審判である。アルドはハンメイの料理がこれを超えると信じ望みをかける。
ハンメイが持ってきたのは乾焼蝦仁つまりはエビチリであった。
「私は何といってもこれをチョイスするよぉ。」
「やはりお前は華形広東流への裏切りを重ねるのか。邪道に手を染め悪びれるつもりもないなど…」
「まぁ兄さんは見ていなよぉ。」
そういいながらハンメイはさらに置いた。
「ほう、エビチリとは辛みと海老の触感で勝負するものだと思っていたが…良いな。」
「これは!そうかジャバタケが入ってるのか!エビチリの辛さにジャバタケのうま味が非常にマッチしてる!ご立派ぁ!」
アルドとズヴァイババヴァーは好評であった。「スキャナーからの結果が今届いた。悪いが勝者はハンメイだ。」
ズヴァイババヴァーの宣告によりついにクックスデュエルに決着がつきアルドとハンメイは歓喜しニィウホウは絶望する。
「やっと、因縁に決着がついたのかな。」
「待て!まだ終わってないぞ!」
ニィウホウはハンメイに対し叫ぶ。
「有無は言わせん!ここまで来たなら道ずれだーーーーッ!」
突如としてニィウホウは発狂し、闇のオーラを纏って爆発する。そこにはニィウホウはもうおらず、ケンタウロスの胴体を後ろに持ってきたような化け物がいた。
「何がどうなってるんだ!」
「こんなことは言いたくないけど蛇骨のあいつとは訳が違う!もう倒すしかないよぉ!」
兄と妹の悲しきバトルが始まってしまう。
悲惨な戦いであった。化け物はアルドを足で翻弄しハンメイはもう何が何だか分からず憲法を繰り出すしかなかった。
倒れる化け物。その死に際に微かに粒子状のニィウホウが現れる。
「おあああ、何故だ…」
「なんでって、こっちが聞きたいよそんなことぉ!いったい何が兄さんをそこまでさせるのぉ!」
「お前が…羨ましかったんだよ…お前は…少し目を離した隙に…余りにも早く成長していった…怖かったんだ…だがお前はその才能をオリジナルに使った…もしかしたら私の流派への拘りとお前の才能への嫉妬が…いつの間にか混ざっていったのかもしれない…な…」
「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあん!」
ニィウホウは粒子と化してきえていった。
「さて、お前の相手は俺だ!ズヴァイババヴァー!リユース・ゼノ・プリズマを返せ!お前の名前なんてズヴァーで十分だ!」
ハンメイに代わりアルドがズヴァーを追い詰める。だが、彼からは何の焦りも見えない。寧ろ余裕さえ放っているようであった。
「なかなか威勢がいいみたいではないか。いいだろう、お前達に特別私たちがやってきたことを教えてあげよう。曲がりなりにも私もファントムではある訳だ。混沌に世界を傾けるという目的は奴らと同じこと。だが私が変えたのはそのアプローチ、今までの失敗は基本、星の抑止力によって為されてる。つまり、猫さえ何とかすればいい訳だ。そこで私はニィウホウの手を借りてアルド、お前を抹殺することを計画したのだ。だがあの巨大兵器を見て悟ったよ、これは勝てない、と。そこで私たちは計画を変更することにした。リユース・ゼノ・プリズマのゼノ・プリズマが近くにないといけないという弱点を突いた正面からの戦法を採用したのだ。」
「そんなことをさせてたまるか!」
「させて堪るかだと?私を誰だと思っている?もう1時間20分前に実行したよ。」
BC20000年 時の塔 外
あの時と同じく空が引き裂かれ割れ時層回廊が出現する。前の時には無かったバリアが張られた状態で。
アルドはバリアに向かってオーガベインを放つが傷一つしか付かなかった。
「こうなってしまえば後は此方の物と言う物だ!」
ズヴァーはそう言って再び現れた時層回廊に向けて消えていった。
「一体どうすればいい!」
そう悩むアルドの後ろにハンメイが現れ、言う。
「私にいい考えがある。」
「ハンメイ!どこから聞いてたんだ?」
「あいつが巨大兵器がどうのこうのって言ってたところからだよぉ。オーガベインで少しひびが入ったなら一つ提案があるんだよぉ。」
AD300年巳の国イザナ 港
「あいつの子孫が今も生き残ってるならきっと陸地からでも応えられる場所にいる筈だよぉ。」
アルド達はジオ・ベインを回収するためにイザナまでやってきた。
「喋れるサメはいるか⁈オーガベインの為に役目を果たす時が来たぞ!」
そうアルドが呼ぶとサメの魚影がやって来るのが見える。
「います!一世一代の大仕事!やり遂げて見せますよ!」
AD300年 ガルレア大陸 東の海
オーガベインを刺しアルドはジオ・ベインを起動する。そうするとむこうから次元戦艦が見えてきたのでジオ・ベインは次元戦艦の翼に飛び乗りそのまま時層回廊に突っ込む。ハンメイの言ってた提案とはこれの事だったのだ。ジオ・ベインは特大サイズのオーガベインを複製し前に構えると次元戦艦と共にエネルギーを溜めビームを発射し回廊のバリアを打ち破った。
「作戦大成功ぉ!」
「お前達⁈一体何故ここにいる⁈」
ズヴァーの問いにアルドはジオベインから一旦降りて答える。
「お前を止めるためだ!ズヴァー!」
「小癪な真似を!」
ズヴァーはそう言うと戦闘態勢となりアルドとハンメイに襲い掛かる。
これが最後の戦いだ。ズヴァーは多種多様な魔法を繰り出すが二人もそれに負けじと着々とダメージを与えてゆく。そしてこの中で一番最初に倒れたのはズヴァーであった。
「ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!」
「これで終わったな!」
「いや!まだ終わってはいない!この時層回廊は私の権限でしか消滅しない!これを消し去る手段は永久に失われるのだ!」
「それは如何かなぁ!」
自分が消えれば回廊は消えないと豪語するズヴァーに対してハンメイが待ったをかける。
「何の心算だ?」
「お前は知らないだろうけど私は一度、蛇骨島で華形広東流には混沌の存在を料理にする技があるって言ったことがあるんだよぉ。」
「つまりどういうことだ!」
「お前を食せば権限は私に移るってことだよぉ!」
「ヤメローーーーーーーーーーーッ‼」
抵抗も虚しくズヴァーはアヒルの肉となり超高速で調理されていく。混沌の北京ダックの完成だ。
「頂きます!」
ハンメイは出口に向かって飛ぶ次元戦艦の上で華形広東流の力で展開したテーブルの上に乗せた混沌の北京ダックを食してゆく。
「ごちそうさまでした!」
混沌の北京ダックを食し混沌の力と権限を手に入れたハンメイは合わせた手で念じる。
「今こそ消え去れ、時層回廊!」
そう言うと時層回廊はきれいさっぱり消え去った。
「今度こそ本当にハンメイの因縁に決着がついたんだな。」
「過去との因縁に決着がついたならこれからは未来へ歩んで行きたいねぇ。」
こうして時空を超えたアルドとハンメイの物語は幕を閉じるのだった。
ハンメイのグルメ探求記 ジョルジュ モリソン @georgesmorrison
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