第3話人工知能と転機の麻婆豆腐!
???????? 謎の場所
「今の状況、かなり手詰まりになっているんじゃないか?」
「ああ、今の外部委託的かつ放任主義的なプランで計画を進めるとなると私たちは必ずアルド抹殺の部分で失敗することになる。」
「これまでに2回も襲撃に失敗している訳だ。差し詰め今の我々はツーストライクの野球選手、おそらく次失敗すればハンメイに正体を看破され即刻アウトになるかもしれんぞ。」
「それだけは絶対に避けたい訳だ。つまり思い切ってプランBで動く必要がある。」
「ほぉ、プランBとはどういうものだ?」
「そうだな、至極単純かつ大胆でありえないほど速いものだ。」
ÅD1100年 曙光都市エルジオン シータ区画
「よし!これでハンメイのナンバー登録が完了したな。」
アルドとハンメイは未来での活動範囲を広げるためにシティズンナンバー登録に来ていたのだ。
「じゃあ早速この時代の食文化を見に行こうじゃあないかぁ!」
そんな希望は一瞬で崩れ去ることになる。
「ヴァーーーーーー」
「なんだこれはぁ!」
「こっちから聞こえるぞ!」
猶予はない、人の命の危機が迫っているかもしれないのだ。だが、エレベーターを昇ると助けるべき存在はおらず、狂喜乱舞の雄たけびを上げる青年がそこにはいた。
「ヴァーーーーハハハハハハ!ついにぃ、ついに完成したぞォ‼」
人命救助のつもりでやってきたアルドとハンメイを尻目に青年は完成したという発明品に祝福を与えている。
「ヴァーーーーハハハハハ!ん?あぁ」
彼は我に返り何事もなかったかのように客人へ応対する。
「さぁようこそ!大・大・大天才‼ヴォロネス様のラヴォラトリーへ!」
「大・大・大天才ィ?」
「いったいその大天才がなんだってこんな咆哮を上げてたんだ?」
ヴォロネスは心底自分語りをしたそうににやけ指を鳴らし言う
「私は大天才だなんて器に収まるほどの存在ではない、大・大・大天才だぁ。そして今私の手の中にあるのが『リユース・ゼノ・プリ
ズマ』だ!」
「まさかこんな小さい球にゼノ・プリズマが入ってるのか⁈何の為にそんなことを⁈」
アルドからすればゼノプリズマは未来人の生活の必需品とは分かっているがそれと同時に余りにも不安定であり下手に弄ろうものなら世界を滅ぼしかねない物でもあった。それが一般人の作った模造品だというならなおさらだ。
「まぁ君がゼノ・プリズマを小型化させたらなにかとてつもないことが起こるって言うなら分からなくもない。だけどこれは正確にはゼノ・プリズマじゃない、ゼノ・プリズマの放つ微細な廃棄物を再利用して動く夢のエネルギーだよ。ゼノプリズマの稼働している場所でさえあればこれ以上にクリーンでエコなものはそうそう無いね!そしてこいつを私のアンドロイドに組み込むって訳さ。」
アルドはそっと胸をなでおろす。
「それじゃあ何も問題はないってことか。」
「それにここにそのアンドロイドの体があるってことだよねぇ?」
「ふっ、まさかこの私がまだボディを用意できてないとでも?
スゥ―― 大当たりだ。」
ヴォロネスは完成品を見せることができないことに不甲斐無さを感じているのか二人から目を逸らす。一瞬の沈黙が辺りを包み込んだ。
「対調理補助特化型アンドロイド 麻婆豆腐太郎 現在品質試験に向けて制作中です….」
「今対調理特化型って言ったぁ⁈」
ハンメイにとって沈黙の空気は彼女の発言を抑するものでは無かった。そしてヴォロネスも自分の発明に興味を持ってくれたことが嬉しかったのか再び語りだす。
「私の設計通りに作るならボデイに麻婆豆腐太郎のAⅠをインストールして動力源のリユース・ゼノ・プリズマさえ組み込めれば完成さ。」
「ハハッ、君のこと気に入ったよぉ。で、足りない部品はどこにある?」
「ハンメイ、こいつの事手伝うのか?」
「色々と興味がわいたからね。アルドも手伝うでしょぉ。」
「もちろん!」
今までの人生の中で人に好意を抱かれたのは初めてなのかというくらい涙目になっているヴォロネスは友のために情緒を整え言う。
「ありがとう。足りない部品なら廃道ルート99に予約してた商人がいる筈だ。私はここで麻婆豆腐太郎のAⅠの最終調整をしてるよ。」
AD1100年 廃道ルート99
ルート99は相も変わらず寂れ、がれきが散逸し日差しの一つも吹きやしない。だが一つだけいつもと違う点がある、フードを被った商人の姿だ。
「待っていたよ。お客さん。」
「それはどうも。俺たちはヴォロネスから商品の受け取りを頼まれて来たんだ。」
商人はアルドとハンメイをまじまじと見ながら部品を取り出す。
「ほう、まあいいお望みの物だ、金の取引は事前に済ませてある。あとは好きにするといい。」
そういうと商人は駆け足でその場を去っていいった。
「んーー」
「どうかしたか?」
ハンメイはあの商人のしぐさに違和感を覚えていた。なにか自分たちに悟られたくない何かを隠したいという念が商人からは感じられた。
「いや、多分気のせいだねぇ。気のせいだよぉ。」
だがそんなことよりアンドロイドだ、用事も終わったので二人はヴォロネスのラボに戻ることにした。
AD1100年 ヴォロネスの家
「持ってきたぞ‼部品‼」
「私もちょうどセットアップ完了‼ナイスなタイミングだ!」
アルドから足りない部品を受け取りヴォロネスは早速組み立てに取り掛かる。
「にしても助かったよ、どうしても必要なパーツの規格の多くが廃盤になったせいで危うくプロトタイプすら作れなくなる所だった。」
そんなことを話しているうちにパーツの取り付け作業が終わり蓋が閉まる。
「これでおしまいoK。さぁ目覚めよ!麻婆豆腐太郎!」
ヴォロネスの呼びかけに応じ麻婆豆腐太郎内部のリユース・ゼノ・プリズマが振動し目にオレンジの光が宿る。
「おはようヴォロネスさん只今起動しました。」
「やったな。」
「やったねぇ。」
「成功だ….成功だぁ!ヴァーーーーーーーーハハハハハハハハハハ‼」
この状況ヴォロネスが回っているので文字通り歓喜の渦である。
「これよりプロジェクトは最終段階に入る!残るは品質試験のみだ!」
「やりました!」
こんな状況だがヴォロネスは一旦狂喜乱舞を止め二人に話す。
「ここから先は太郎の実践的な最終調整に入る。だから、とてもデリケートな状況になる訳でその…. しばらく二人だけにしてほしいんだ。」
「ヴォロネス….」
「だがその代わりに試験会場のIDAスクールの時計塔の公会堂には必ず来て欲しい。私から私のパトロンへの大事な約束だ。」
「もちろん君の勇姿、見届けさせてもらうよぉ。」
「俺も合格できることを祈ってる。」
二人は彼のラボから去っていった。彼に信頼と祈りを寄せて。
AD1100年 ホテルニューパルシファル アルドの夢
「今回は拙者の人間体を見せるでござる。」
そうサイラスが言うと体が発光しエルジオンにミサイルが撃ちこまれる。
「ヴア˝ァ˝ア˝ァ˝ア˝ァ˝‼」
間髪入れず時層回廊が開き人々がおかしくなり光る猫を追いかける。おかしくなった人々を撒いた猫が目の前にとびかかった!
AD1100年 ホテルニューパルシファル
「うわあああ!」
まだ外も暗いというのにアルドは湧き上がる謎の感覚から悲鳴を上げ起き上がる。
「アルドォ、まだ夜中だよぉ。」
「あぁ、ごめん。」
そう返したはいいがアルドの心の中の不安感はまだ残ったままだった。まるで予言を突き付けられたかのようでとても気が気では無かった。
AD1100年 時計塔 公会堂ロビー 試験の日
「待ってたよ二人とも。」
「お久しぶりですね。」
「麻婆豆腐太郎か⁈随分とぬるぬる喋るようになったな。」
これもラーニングの賜物だろうか、麻婆豆腐太郎が前と比べて人間らしくなったように見える。
『ヴォロネスさん、ヴォロネスさん。時間になりました至急試験会場までお越しください。』
ヴォロネスと麻婆豆腐太郎を呼び出す放送が響く。麻婆豆腐太郎の初陣が今幕を開けた。
AD1100年 時計塔 試験会場
扉を開けると、この試験の審査員と思わしき人物が試験の準備をしていた。
「かなりいい設備が整っているみたいだねぇ。ヴォロネスのために色々整えられてるのを感じるよぉ。」
ヴォロネスはハンメイの言葉に一瞬にやけるが、息を整えポーズをとる。
「私も『準備』をしようかな。
着装‼」
そう言うと麻婆豆腐太郎はスーツの形に変形しヴォロネスはそれを装着した。
「これで私の準備は終わりだ。」
この状況に対しアルドは困惑していた。それはもういつもは表情豊かなアルドが真顔しかできなくなるくらいに。
「ん⁇⁇俺がおかしいのかな….これって麻婆豆腐太郎が料理する流れじゃないのか?….」
「まぁ対調理“補助”って言ってたからねぇ。さしずめこんなことが起こってもおかしくはないよぉ。」
「これより品質試験を始める。お題は麻婆豆腐だ。用意につけ。」
試験の題目は奇しくも太郎の名前と同じ麻婆豆腐だった。ヴォロネスは調理台の前に立つ。
「制限時間は35分。それでは用意、はじめ!」
試験が始まるとヴォロネスの顔に赤いラインが走り麻婆豆腐太郎との中枢神経のリンクが凡そ一秒で完了する。そして間髪入れずにヴォロネスは豆腐を直感的にベストな形に切り鍋に入れる。続いて長ネギと青ネギ的確かつ程良い速度で小口切りにしてゆく。そして直ぐにニンニクを擦り下ろし中華鍋にオリーブオイル油をひき豆板醤と豆鼓醤、そして味噌にさっき下ろしたニンニクとさっき切った長ネギを入れこの時代では珍しい火のコンロで炒める。一瞬のスキをついて豆腐を取り出し、中華鍋に豚の挽き肉を入れひき続き炒める。タイミングを見極めた彼は鶏がらスープと醤油と酒、それからオイスターソースを殆ど同時に中華鍋の具と絡め混ぜ合わせる、それも彼の頭くらいの高さの業火をつけながら。そして少しずつ火を弱めつつ片栗粉を加えながらとろみを追加させる。
最後の仕上げだ、火から完全に離した麻婆豆腐を皿に盛り付け、アクセントに青ネギを乗せれば超本格麻婆豆腐完成である。
「ストップ‼これより実食に入る!」
そういって試験官は皿に盛られた麻婆豆腐をアルドとハンメイと自分の席の前に並べる。そして彼らは麻婆豆腐を口に運び各々の感想を口にする。
「多大なる辛みの中に一筋のコクがある。まろやかだ。」
「熟成された豆板醤の辛みが直にくる。それに豆鼓醤のまろやかなコク味が合わさってもう最強ォだよぉ。
「生地に腰があって豆腐に汁がうまい具合に絡んでる。素材の味が伝わる辛さだ!」
審査員たちの好評を受けたヴォロネスの目にはうれし泣きの涙があった。
「尺ではあるが実力は本物だ、いいだろう、合格だ。」
「やった!やりましたよヴォロネスさん!」
「あぁ、ありがとう麻婆豆腐太郎。」
AD1100年 idaシティ セントラル・パーク 時計塔前
フードを被った男が時計塔の前まで歩くが警備員に呼び止められる。
「シティズンナンバー未登録の人間を発見!何者だ!」
「君たちは随分手荒な真似をするんだな。私か?そうだな、会いたい人がいるんだ。
麻婆豆腐太郎っていうね。」
AD1100年 時計塔 試験会場
「なんだこの揺れはは!」
時計塔の外で大爆発が起こりその余波が中にもやってきて一部の天井が崩れおちる。そこにやってきたのは黒フードの男だった。
「お前もしかして、あの時の商人か?」
「確かにイレギュラーではあったがアルド、お前とは会ったことがあるな。だが今の本題はそこじゃない。ヴォロネスそして麻婆豆腐太郎、恥ずかしくは思わないか?そのような道具に頼っていては技術をわざわざ身に着けるようなことは無くなり伝統は失われてゆく。ましてやそれを量産するなど先達の積み上げてきた歴史に対する冒涜でしかないだろう。」
「黙れ。言わせておけば的外れなことばかり。第一、私が太郎を作ったのは若手が料理の世界に入る為の間口広げる為だ。
そして第二に、食文化は文明の利器を少し使ったくらいで壊れるほど脆いもんじゃない。」
「ヴォロネス….お前….」
ハンメイは虚しくも遮られる。
「まぁいい。どっちが正しいかは力の差が決めることだ。やれ。」
そう言うとアルドとハンメイの体が何者かに締め付けられる。
「やめろぉ放せッ!」
「何をするんだ!この卑怯者‼」
「悪いがヴォロネス君には我が大義のために犠牲になってもらおう。
ホワッ‼ハー‼‼」
「ヤメロ――――――ッ‼‼」
混沌の力を纏った正拳突きがヴォロネスの腹部に炸裂する。誰もが彼はもう助からないと悟った。だが彼は生きていた。麻婆豆腐太郎がすべての衝撃を吸収しヴォロネスを守ったのだ。
「麻婆豆腐太郎、どうして….」
「どうしてって、将来有望な大・大・大天才を守る….タメ……デ……ス………ヨ………」
「麻婆豆腐太郎ォ――――――」
太郎の体が役目を終えたかのようにヴォロネスの体から外れてゆく。
「製作者の命を救って即退場とは、陳腐な。死に際までずっと厚みの無い存在だ。」
「黙れこのド畜生が‼人に対して厚みが無いだのと言っておいて何が伝統だ‼」
アルドの言葉には耳もくれずフードの男は太郎の残骸からリユース・ゼノ・プリズマを取り出し男はフードを外す。そのうえ隣にはアルドにとって忌まわしく見覚えのある存在が現れた。
「兄さん⁈」
「それにお前まさか….ファントムか⁈」
「フン!私をあんな下賤な奴らと一緒にしないでほしいね!我こそはハイパーファントム!ズヴァイババヴァー!」
「そして私はニィウホウ。まぁそういうことだ。」
ニィウホウはアルドの腹に無言でジャブを放つ。
「うあ˝あ˝あ˝あ˝あ˝‼‼」
「ハンメイ!今こいつの体に呪いを刻んだ!お前がクックスデュエルに出て私を打ち負かせなければ!こいつの魂は即煉獄域だ!」
アルドとハンメイは一先ず拘束から解放される。だが、この状況で二人にあったのは深い絶望のみであった。
「兄さん………どうして…………..」
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