第155話 白あぢさゐ 🌼




 今年も真っ白な花鞠をこんもり咲かせた白紫陽花ですが……どこかさびしそう。

 

 ――どうしてうちの紫陽花はこう地味なのかしら。(゜.゜)

 

 この家の奥さんが内心で思っていることを知っているからです。数年前に苗木を求めたときは、青や紫、濃淡の紅に変わる「七変化」だと思っていたのにと……。

 

      *

 

 美しいと褒めてもらえない花ほど、つまらない思いをするものはありません。

 どうせあたしなんかと諦めていましたが、あら? 今年は少しちがうみたい。


 梅雨の晴れ間に庭へ出て来た奥さんが、「まあ、きれいだこと! あなたってウェディングドレスみたいにピュアな純白だったのね」と驚いてくれたから。(^.^)


 少し前から俳句を詠んでいる奥さんは、「あなたには漢字の"紫陽花"より、旧仮名の"あぢさゐ"のほうが似合うわね。"白あぢさゐ"ってステキじゃない?」そう言って気恥ずかしくなるほどマジマジと花弁のひとひらひとひらを見詰めてくれました。


 白あぢさゐはいま、この家の子になってよかったなと、しみじみ思っています。

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