第65話 トラジロウくん 🐕





 満開の楊貴妃桜の下に、ビーグルの老犬がたたずんでいます。

 

 ――おおい、トラジロウくん、おっはよう!

 

 ゴミ出しに行ったオバサンが手を振っても、老犬は知らん顔。

 それもそのはず、御年16歳、お耳のほうが、ちょっとね~。


              🐶

 

 飼い主のお兄さんが大の寅さんファンゆえ、そう名づけられたという老犬にも、可愛がってくれたお母さんとの永訣、結婚によるお姉さんとの別居など、いろいろありましたが、すべてを受け入れたいま、お兄さんひとりを頼りに生きています。

 

 ――トラジロウく~ん、今日も楽しくお昼寝してね~。

 

 近所の耳も憚らない性質(笑)のオバサンは、いちだんと声を張り上げました。

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