第32話 教会の町の喫茶「ベル」





 動物たちがみんな二足歩行になったとしたら……。🐕🐈🐻etc

 そんな世界を想像すると、めっちゃ楽しくありませんか?!


 

     =^_^=


 

 開け閉めのたびに、チリリンとかわいらしい音で鈴が鳴るので、その喫茶店は「ベルの店」と呼ばれています。本当の名前? さあて、なんだったかしらねぇ。

 

 高原の町に出来た教会に、ひどく重そうな革のトランクを下げたドイツ人の神父さんがやって来た年の創業といいますから、かれこれ170年になるでしょうか。


 その神父さんが親しい友だちを呼び寄せ、その友だちがまた諸国の友だちを呼び寄せて外国人が増えて行き、やがて国際避暑地として知られるようになりました。


 ところが、この国が列強諸国を相手に戦争を始めたので、ある時期、その町の外国人は敵国人と見なされ、ずいぶんきびしい環境に置かれることになったのです。

 

 

     🏁

 

 

 無謀で無益な長い戦いの末、案の定この国が負けて、英字看板の珍しくない町に平和がもどって来ると、それまで鳴りを潜めていた「ベルの店」にも灯りがともるようになり、この国の人と諸外国人が肩を並べてくつろぐ光景が再開されました。


 漆喰しっくいの壁のポートレートは、そんな店の歩みを黙って見守って来たのです。

 

 

     ☆彡

 

 

 話は一気に飛びます。

 ときは令和20数年。


 穏やかで知的な人柄が国民の尊敬を集めているエンペラー夫妻が揃って品のいい白髪になられたころ、「ベルの店」の情景は、すっかり様変わりしておりました。


 この町で初めての教会とともに古びた建物の外観や、ハイカラ好みの初代オーナーがフランスから取り寄せたロココ調のソファ、山小屋風に高い天井でゆっくりまわるファン、零下20度にもなる真冬に欠かせない暖炉などはそのままですが、なんと申しましょうか……スタッフやお客さんがいっせいに変容しているのです。

 

 小じゃれた蝶ネクタイでビシッと決めたマスターは、どこからどう見てもキツネのジェントルマンですし、くるぶしまである黒エプロンをきりっと着けた店員さんは、ヒトやタヌキ、ツキノワグマ、とりわけのおチビさんはシマリスのようです。


 みんな滑らかな二足歩行で「いらっしゃいませ」「かしこまりました」「どうぞごゆっくり」と丁寧な応接をし、溌剌はつらつとした笑顔で生き生きと仕事をしています。


 かたや、お客さんはといえば、これまたいろいろな目の色や髪の色をしたヒトをはじめ、イヌ、ネコ、サル、アライグマ、ラッコ、カワセミ、キツツキなどなど。そういえば、壁の店主のポートレートも、何代か前から変わって来ているみたい。

 

 

     ☄

 

 

 いつからこうなったのか。

 もしかしたら、争ってばかりの人間に愛想を尽かした神さまが、この際、地球のかたちを変えようと決意なさったのか……そんな野暮はだれも訊こうとしません。


 お客さんはみんな絶品の珈琲を飲みながら、これまた初代オーナーがドイツから取り寄せたスタンウェイ社のグランドピアノに耳を傾けながら(言うまでもなく、ピアニストはヒトだけでなく、いろいろな類や科にわたっています)、本を読んだり書き物をしたり、静かな会話を楽しんだり、思い思いの時間を過ごしています。


 もちろん、この光景はこの町に留まらず、東や西、北や南の大都会にもおよび、哺乳類サル目ヒト科が社会を支配していた時代は過去のものになりつつあります。

 


     💕                      



 かくて世は事もなし。

 チャンチャン。(^.^)

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