別世界

「それで?」

警官がため息混じりにつぶやいた。

「君はいったい誰なんだ?君の顔は、この国のデータベースに載ってない。ここにいないってことは君は外国籍の男だ。パスポートもなければ在留証明チップもないときた。明らかに不法入国者だ、君は見るからに未成年だし一人で来たとは思えない。それとなぜあの家の警備システムが途中まで作動しなかった?協力者がいるのは明らかだ。ナカジマとの関係性も疑わなければならないな。死人を出したくなかったら答えるんだ、お前は何者だ。」

激しい息遣いでベラベラと捲し立てた。

「いや、お巡りさん。さっきも言ったけど俺の名前はカケルだよ。福岡のF番地1-10に住んでる。であんたが言うにそこはナカジマってやつの家なんだろ?俺も何が起こってるかやっと理解したばっかりなんだ。あんたに協力したい気持ちはいっぱいなんだよ」

「大人をからかうなクソガキめ!今度ふざけたこと抜かしてみろ、俺たちがお前ら犯罪者の命をその場で左右できる権利があることを忘れるなよ!」

警官は今にも腰につけた武器みたいなものを取り出しそうとしていた。

「怖い時代だな、落ち着けよ。じゃあこいつは知ってるか?同じF番地1-10に住んでる、いや住んでたスバルってやつだよ。」

警官は少し落ち着いてからデータベースを開いた。

「スバルか、スラム街出身のクズだな。今は麻薬治療のため精神病院に入院している。ん?息子の名前はカケル、、まさかこの顔!いやそんなはずは。どうなってる?」

「お、やっと進展?いいね、矢のような速さだ。わかったらさっさと解放してくれるか?」

彼はうってかわって動揺していた。

「もしこれが事実なら、俺の手におえない。この処理は上からの指示待ちだ。お前は一旦留置所に入れる、大人しくしとけよ?少しでも変な気を起こしたらレーザーで消し炭にするからな?」

「レーザーなんてあるのか、夢みたいだ!いつか出してみたかったんだよね。やって見せてくれない?」

警官は俺の服を乱暴に掴み鉄格子の部屋にぶち込んだ。

 さて、これからどうしようか。どうやらたった20年でこの国はまるでデタラメな世界になってしまったらしい。だけど流石に時間を飛んだやつは現れてないらしいな、それなら俺は今からどうなる?こんな貴重な実験台、タダで済むはずがない。体をいじられたらどうしよう。今まで純潔を守ってきたのに初体験がレーザーなんて勘弁してほしいね。ここは逃げるしかないか。

でもどうする?

鉄格子をためしに揺らしてみた。

なんだこれ、鉄ってこんな固かったっけ?10000年は持ちそうだな。

その時どこからともなく声が聞こえてきた。

「無駄ですよ。この鉄格子は10000年持つほどの丈夫さが売りですから。」

 俺は初めてではない経験にまた心臓が飛び出るかと思った。

「おい、この世界はなんでもしゃべるのか?」

「なんでもはしゃべりません。一般的な価格になりますと言語機能はついておりません」

その声はすらすらと話した。

「そうか、喋るやつが一番高価なんだな。お前もAIなのか?ってことは留置所AI?」

「その通りです。私は留置所に入れられた方の監視及び相談役です。あなたは何をされて入ったのですか?」

留置所AIか。もう次は驚かないぞ。絶対だ。

「いや俺は何もしてないんだ、免罪だよ。だから今すぐ出してほしいんだけどな。」

彼女は食い気味に答えた。

「そう答えた方の96.4%が免罪ではありませんでした。ですから、私としてはここで大人しくして然るべきところで証明することをお勧めしますよ。」

だめか。先輩たちも苦労したんだな。こいつと話しても出してくれそうにないなら、何かないか、、、、もし俺が時間を飛び越えられるならこの鉄格子の時間も飛び越えさせることもできるんじゃないか?やってみる価値はありそうだ。あの時は何を考えてたんだっけ、そうだ、単純に時間の経過を考えてたな。じゃあこの鉄格子の時間だけ経たせれば、、、

「この世界の方は鉄格子が好きなんですねえ。皆それを揺らしたり叩いたりしますが、楽しいんでしょうか。」

AIは皮肉った。

「いや、これは時間を進めてるんだよ。この鉄格子だけね。ダメ元だけど、やってみる価値はあるだろ?」

「どうやらあなたは典型的な常用者みたいですね。鎮静剤を注入しましょうか。」

天井の扉が開いてありえない大きさの注射器が出てきた。冗談じゃない!

「待て待て待て!落ち着けよ!ただ遊んでるだけじゃねえか!大人しくしてるんだからほっといてくれよ!」

「興奮状態ですね、注射いたします」

太い針が近づいてくる。あと1m、50cm、1cm。

とうとう針が背中についてしまった。

ダメだ、次起きた時には実験台の上か。

その時、鉄格子が勢いよく倒れた。

けたたましい音と一緒にブザーが鳴った。

「まさか鉄格子を破るなんて!本来なら射殺許可が降りるのですが私にはその機能がありません。相当の怪力の持ち主ですからA級警官を2人派遣します。逃げ場はありませんよ。」

落ち着いた雰囲気を放っていた声は激しい口調に切り替わった。

「ははっ、お前も最高値ってわけじゃないみたいだな。そうか、なら俺は逃げるよ。そいつらが来れない場所までな」

「無駄ですA級警官から逃げ切れた脱獄犯は0%です。諦めなさい。」

俺は念じた。10日後の未来、ここから離れた場所ならどこでもいい!白い光に包まれ、そのあとあたりは真っ暗になった。

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