夢を断たれた学生の話
2121年5月12日。例の隕石が落ちてから20年経った。町は周年記念のお祭り騒ぎでひっきりなしだ。普通隕石なんて落ちたら大災害で、喜ぶことなんて一つもないのに。それから技術が大きく発展したもんだから、日本は一気に金持ちになってみんな口々にあれは神からの贈り物だと言った。その時生まれてないから分からないけど相当大きな岩だったそうだ。東京の隕石跡地に行けば明白だし、ガイドの人が説明してくれるだろう。学生としても今日は祝日だから喜ばしい点といえばそこだ。入院中の俺にとっては関係ないことだが。
コンコンと病室を叩く音がする、また来た。
扉を開けて現れたのは同じサッカー部のタケだ。
「よお、具合どうだ?」
「昨日も来ただろ、1日で変わるかよ」
「そりゃそうか、ごめん」
きまり悪そうにする彼とは以前、最強ツートップとも言われた仲だ。俺が足の怪我をしてから暇さえあれば来ている。
「祭りには行かないのか?」
俺は早くこの場から離れてほしい気持ちを全面に押し上げて言った。
「いや、今から行ってもまだ早いからさ。夜に行こうと思うんだ。お前とも一緒に行きたかったよ。」
俺はいけない前提かよ、と思ったが言わなかった。
「そうか」天井を見上げながらそっけない返事をした。足を釣り上げている留め具が軋んでいる。
気まずさがいよいよ絶頂を迎えた彼は、なにか覚悟を決めたような表情で俺の方を向いた。
「ユウジの足、もうサッカーはできないのか?」
答えたくなかった、心の中でまだ認めてない自分がいるからだ。
「噂を聞いたんだ。あの隕石、あれのかけらを持つとなんでも願いが叶うんだって。ほら、学校でいじめられてたオオバヤシゴウって知ってるだろ?あいつが急にいじめられなくなったのってあの岩のおかげらしいんだ。俺の親父が昔あれのかけらを取りに行ったらしくて家に残ってるの見つけたんだ。お守りみたいなもんだよ。ここに入れとくから...」
俺の返答を待ったのかしばらくの沈黙の後「俺、昔約束した一緒にサッカー選手になる夢。諦めてないからな。」と言った。
また来るよ、とタケはかけらの入った菓子折りを置いて部屋を後にした。
日が落ち始め、外が一層騒がしくなった。菓子折りを手に取りながら、さっきのタケが言ってた事を思い出す。
夢を諦めてないだと?元はと言えばお前がボールを片付けなかったせいでこうなったんだろ。あの日の当番はお前だったよな、罪滅ぼしのためにほぼ毎日来てるのはわかってるんだ。夕日も沈んだグラウンドで1人シュート練習をしていた時に、置いてあるボールに気づかず利き足で思いっきり踏んでしまった。警備員さんが見つけてくれなかったらもっと酷いことになってただろう。いや、いっそ見つけてくれなくてよかったかもしれないな。足首の粉砕骨折に靭帯断裂。医者には完治することはない、以前のような激しい運動はできないだろうと言われた。光が消えるには。充分すぎる理由だった。
願いが叶う隕石か。たしかにあの岩が不思議な力を持っていることは確かだった。20年前の話を聞く限りじゃ、テレビや時計はあるし、喋らない家電が普通だったらしい。変な話だ。
もしも本当に願いがかなうなら絶対に怪我をしない最強の足を手に入れたい。そうしたらなんの心配もなくサッカーが出来るし、友達を失うこともないだろうな。学校で見た大昔のアニメみたいに足から火が出たりして誰も止められないんだ。高校生にもなって何妄想してるんだ。我に帰った時に、最後の菓子を食べ終わったことに気づいた。
「あれ?岩なんてあったか?」
まさか、考え事に夢中になってお菓子と間違えて食べてしまったのか?そんなバカな。口に入れた瞬間気づくはずだ。いやそういえばなんの味もしない不思議な食感の飴を飲み込んだ気がする。笑いが込み上げてきた。バカバカしい。岩を飲み込んでしまった俺も、こんな迷信を信じてしまうタケも。なんだか体が軽くなり、こんなことで悩む自分がバカらしく感じた。間接的だがタカのおかげで元気をもらった、足の違和感も無くなった気がする。
「いや、足の違和感なくなってね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます