第11話 残香

戦いは続いた。


徐々に英雄の軍勢は、覇王の軍を押し始めた。

勇猛な白き将軍、最強の武である黒き将軍。

そして金色の髪の軍師。

人々は集まり力を成す。


この国の姫の面影を強く残す軍師の姿。

多くの者が「姫の生まれ変わり」と慕い、英雄の軍勢は大きく強固になっていく。


 英雄より人々へ語りかける事が多くなった、軍師を見た白き将軍。


「まったく普段の、つっけんどんとした雰囲気とは別人だな」

 くるりと白き将軍に振り返った軍師は少女に戻っていた。


「私が無愛想だと言いたいのか?」

「そうだ子供達とは笑顔で接するがな苺花」

「馬鹿、こんな時に名前で呼ぶな! 軍師と呼べ……一応」

 文句を言いかけた少女の髪に手をやった白き将軍。

「それにこんなに美しい」

 普段見せない動揺した姿、それを嬉しそうに見る白き将軍。少女は本音を漏らす。


「……どうしよう」


 幼き軍師の呟きに、思わず白き将軍は自分へ少女を引き寄せた。

 その胸に抱かれた苺花。白き将軍が呟く。

「おまえは良い香りがする」

 白き将軍の腕の中で苺花が小さく頷く。


「これは私の国の香水。この国に滅ぼされ、伝えられた品もあと少しだけ」

 陶器のような艶やかな顔が赤く染まる。

「もう残りは少ない。今度は会う時は良い香りはしない」

「いいさ。たとえ枯れ草や馬の匂いでも」


 視線を上げて白き将軍を見た苺花。


「分かっている。そして……そんなおまえを好いている」

 金色の長い髪を撫でながら、白き将軍は言った。

「この戦いが終わったら、おまえを故郷に連れて行く。そこで香水も探してやる」


 今度は視線を上げずに苺花が答えた。

「……おまえが一緒に居てくれれば、そこが私には故郷になる」


 頷いた白き将軍。そっと苺花を離した。

 歩き出した白き将軍の後ろ姿を見る苺花。

 苺花の故郷の残り香が微かに周りに広がる。


 強い風の中で雲は大きく動き出した。



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英雄 こうえつ @pancoo

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