第10話 結集

「分っているなら、剣を構えろ……俺を斬れ……英雄」


 黒き将軍の言葉とは逆に、剣を鞘に収めた英雄。


「おまえは、姫を愛していた。そして姫への想いを行動で現した。何もせずに逃げた俺より人間らしいよ」

「フッ、それはおまえの『義』がさせた事……俺の想いは通じず姫を失った。その時オレは心を失った」


 黒き将軍は大剣を英雄に向けた。


「ここにいるのは『武』以外を捨てた者……おまえもただの殺し合う相手」


 一気に振り下ろされた黒き将軍の剣。

 それは英雄をかすめて、地面を砕いた。


「想いは捨てても、忘れる事は出来ない」


 鈴のような声、広場に入ってきた、金色の髪の少女はその美しい瞳を閉じた。


 動揺を見せた黒き将軍。


「おまえは姫? いやその髪の色は……」

 英雄の軍師、この国の姫の妹、金色の髪と瞳を持つ、道徳は黒き将軍に問う。

「なあ、『武』に生きる者よ、私は『智』に生きると決めていた。そして見誤ったのだ。その結果、姉上を殺してしまった……」


 自分の目の前に立った小さな軍師を見た黒き将軍。


「噂は本当だったんだな……姫に妹君がいるというのは。同じ魂を持っているのだろうな」

「そうかな……だがまんざらでもない、そう言われるのは」


 大剣を床から引き抜いた黒き将軍は、英雄を見た。


「どうも俺の負けらしい、英雄、おまえは無くしたものも多いが、得たものも多いようだ」

 剣を肩にかけ、広場から出ていく黒き将軍。

「やっと自分の『武』を思い出した。愚直なまでに真っ直ぐと自分を貫く事を」

 白き将軍が笑った。

「自分の国を滅ぼしても、真っ直ぐにか……フッおまえらしい」


 流れる長い髪に手をおく少女に、膝を屈した黒き将軍。

「千年に一人の覇王との決戦、姫君を守る為に戦う名誉、感謝します」

「ありがとう黒き将軍……出来れば死なないで欲しい」

 軍師としてではない言葉に頷き、振り返り空を仰ぐ黒き将軍。


「なんて青い空。こんな清々しい気持ちは久方ぶりだ」

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