第9話 開戦

三度の敗退に引かれて、城から出た黒き将軍の軍勢。

城に残った守備兵は僅かだった。


「一気に門を打ち破る、全軍突撃!」


 英雄が馬上から指揮をとる。英雄の軍は白き将軍を戦闘に進軍を開始。

 白い馬に乗った道徳も金色の髪をなびかせて続く。

 城の門は程なく破れられ、城内へ侵入した英雄の軍。


 城内の広場には黒き将軍が一人立っていた。


「待っていた英雄よ。さあ、ここで決着をつけよう」

 その名の通り、漆黒の鎧に巨大な両手剣。

 前に出ようとする白き将軍を止めて英雄が進む。


「大丈夫か? あいつは強いぞ。おれが向かったほうがいいのでは」

 心配する白き将軍。黒き将軍は一騎当千、その戦闘力は単騎でも軍勢を率いても、この国では並ぶ者はいない。ただ、それは英雄がいなかった時代。


 馬上から降り、右手で銀色の流麗な片手剣を抜き放つ英雄。


「いざ!」

 英雄の言葉に答える黒き将軍。

「尋常に勝負」


 巨大な両手剣を持つ黒き将軍の間合いは広い。

 そして撃ち出される剣風は強烈。


 英雄はギリギリの間合いを掴み、歩を進める。

 上段に構えた黒き将軍は、微動だにせず、自分の間合いに英雄が入るのを待つ。

 一線を越えようと英雄が最後の歩を進めた時


「なぜ、白き将軍に俺の相手をさせない?」

 かけられた言葉に歩を止め、黒き将軍を見た英雄。黒き将軍が言葉を続けた。


「英雄、おまえでは俺は倒せない。人には固有の秀でた力がある、それにより、天から立場が与えられる。おまえには『義』白き将軍には『勇』そしてオレは『武』だ、役割が違う。おまえは国を成す、それは人を直接殺す事ではない。それはオレの『武』の役割」


 黒き将軍を見据えながら、英雄は返答する。


「生まれ持った役割だけが人を作るのではない。新たなものを得る事も有る」


 強く踏み込み、一気に距離を縮めた英雄は黒き将軍の前に出る。

 上段から巨大な剣が振り下ろされる。

 英雄は下段から、両手で掴んだ長剣を強烈な速度で撃ち出す。

 二人の剣が打ち合わさり押し合う。


「なるほど……おまえは大事な物を捨てたのだな。そして『武』を身につけた」

「オレは国を失い、老子を殺し、姫を救えなかった」

 剣を横に払い、後ろに飛び距離をとった英雄。

「捨てのではなく、守れなかったのだ」


 再び黒き将軍の間合いに歩を進める英雄。

「それも違うな」

 黒き将軍は悠然と再び上段に大剣を構える、そこへ英雄の一撃。


「今の一撃で分った。おまえは覚悟が無かっただけだ」

 黒き将軍の右腕から血が流れ落ちる。

「今のおまえは迷いがない。おまえの剣は俺の『武』も越えた」

「ああ、だか黒き将軍、おまえの『武』覚悟しても越られる者などいない」

 剣を降ろして戦闘態勢を解いた英雄は、無防備に歩を進める。


「おまえの剣には気力が感じられない」

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