第8話 約束

「おれは負けたことはない! 一度もだ。いつも勝ってきたんだ!」

 白き将軍の言葉に、金色の瞳の少女、英雄の軍師になった道徳が答えた。

「一度も負けたことがない? 最高だ。三回は負けろ」


 顔を真っ赤にして怒る白き将軍に、道徳は表情を変えない。

「敵の黒き将軍は、疑り深く用心深い、一度や二度の敗退では、城からは出てこない。だが全戦全勝のおまえが、三度負ければ、必ず誘いに乗り外に出てくる」

「おまえには相手の考えが読めるのか?」


 白き将軍の問いに、道徳は金色の長い髪を、右手でとかしながら頷いた。


「ああ、読める、正確には、相手を私の考えに誘導出来る」

「ふん、それならこうなる前に、お前の作戦を聞けば良かったよ」

 鼻を鳴らす白き将軍に道徳が首を振る。

「その時はおまえと英雄は、どちらもこの国にいなかった。私の作戦でも勝てないだろう。おまえ達をこの国から遠ざけた、黒き将軍の作戦勝ちだ」


「なぜおまえは動かなかった?」

 白き将軍の問いに、金色の髪の少女はその美しい瞳を閉じた。

「黒き将軍は、姉上を愛していた。私の国を蹂躙し母を攫った男の国など滅びるが当然の報い。私は黒き将軍が愛故に、姉上を殺さないと考えていた。そして英雄が愛故に必ず立つと考えた。しかし英雄は愛ではなく義で立ち、姉上も英雄に愛ではなく、この国の為に死を選んだ」


 道徳が閉じた瞳から涙を流す。

 強気の言葉と大粒の涙に狼狽える白き将軍。


「道徳おまえ……後悔しているのか?」

「違う! 自分の思慮が足りない事への悔しさだ。だから、安心しろ、これから私が提言する作戦に、二度と間違いなどありえない」


 金色の髪が風に流され、太陽の光を受けて輝く。


「綺麗だ……」

「え?」

 金色の瞳が開き、白き将軍を見た。

 思わず気持ちを述べた白き将軍が、慌てて少女から視線を外した。

 そして少女の前に膝をついた


「道徳……いや、軍師よ。おまえの言葉を信じよう。そしてこれからはおまえを守る」

 軍師の手をとる白き将軍。


「ふ、それは英雄に言ってやれ……私など守るに値しない。安心しろ、この戦いが終わるまでは、私は死なない。それも作戦として組み込んである」


 それでも白き将軍は立ち上がらず答えた。


「英雄には既に忠誠は誓った。おまえを守るのは忠誠ではない……この戦いが終わったら、おれはこの国を離れる。その時におまえを故郷の国へ連れて帰る」


 ハッとして白き将軍を見た道徳。


「私には道徳の二つ名意外に、名前がある。苺花(マイカ)これからは二人の時は……その名で呼んで欲しい」


 頷いた白き将軍。


「苺花、約束しよう。おまえの作戦で勝ち、守り、遙かなる故郷へ連れて帰る事」

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