第7話 軍師

「わたしに、虐殺の手伝いをしろと?」


 金色の瞳で英雄を見つめる少女。

「虐殺ではないぞ。この国を救うのだ」

 白き将軍は少女に言うと、金色の瞳は憂いを帯びた。


「誰がこの国を治めるか? ばかばかしい権力争い。ばかは覇権でもなんでも、目指せばいい。だが民はそのばかな戦いに巻き込まれ、家を焼かれ肉親を殺される。見てみろここにいる子供達は、先の戦いでみな親を亡くした」


 白き将軍は言い返す。

「ばかとはなんだ。この国は我々のもの。それが力で奪われた。取り返すがあたりまえだ」

「まったく、英雄とかいってもその程度か。有史上、この国の支配者など、何度代ったか数えきれん。お前達が今の支配者、黒き将軍を倒したところで何になる」


 英雄がここで初めて口を開いた。

「おまえは、姫の妹か?」

 それまで人形のような固い表情に、戸惑が浮かぶ。

「おまえは私を知っているのか?」


 視線を少女に止めたままで英雄が続ける。


「姫には母が違う妹がいると聞いた事がある。先王が異国の国へ遠征したときに、その国の姫と恋に堕ち、生まれた子供がいると」

「ふん、知らぬな。もしおまえの話が本当なら、その子供は自分の国を蹂躙したこの国を、憎んでいるだろう」

「そうだな。それは叶えられた。王も親族も殺された。そして姫もな」

「なに? 姫が死んだと言うのか? そんな事はあり得ない、黒き将軍は姫を生かすはず」

「自分で毒を飲んだそうだ。私は、姫に託された。この国を救えと」

「姫がそう言ったのか?」


 英雄は紙の包みを取り出し、丁寧に包みを開けた。包みの中には動かない白い蝶。

 金色の瞳の少女は白き蝶に指先で触れた。


「……想いが伝わってくる……そうか、姫はこの国をおまえに託したのか……」

 瞳を閉じた金色の瞳。一陣の風が蝶を空中に舞い上げる。


「もう自由に生きていいのよ……姉さん」

 少女の言葉で風に白い蝶は、高く飛ばされ、窓から外へと流れた。


「おまえたちの協力はしたくない」

「なんだと?」

 白き将軍が膝を立てた。

「だがこの国は取り戻す」

 金色の瞳を開いた少女。

「わたしは姫君の意志を継ぐ、道徳として軍師として、お前達と一緒に行こう」


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