第6話 三清

「おい! どこへ行くのだ! また勝手に……そろそろ、陣に戻らないとまずいぞ」


 白き将が、英雄に大きな声で言うが、英雄は振り返らない。


「道徳に会いに行く」

「道徳!? 誰のことだ?」

「前に老師に、言われたことがある……人知で敵わないなら、三清を捜せと言われた。


老子は、この世界を変える者を、三清に例えた。

「太元」を神格化した「最高神」元始。

「道」を神格化した霊宝。

「老子」を神格化した道徳。


 白き将が尋ねた。

「どんな奴なんだ元始って?」

「わからん、オレも会ったことがない」


「じゃあ、霊宝とは誰の事なんだ? おまえ事じゃないのか?」

「それもわからん」


「うう、じゃあ、道徳も誰の事なのか、解らないのか?」

「ああ、そうだ。ただ、これから行く村に、道徳と呼ばれる者がいる」


……その村は小さいながら、子供の声が響き、畑で働く者の顔は明るかった。


「こんな時代なのに……この村は活気がある、道徳のおかげか?」

 白き将が呟いた。


 そして一件の古い大きな家についた。再び白き将が呟く。


「ここか……どんな奴なんだ……道徳……」

 玄関を開けると、奥の方から声が聞こえる。

「この声は……」

 奥から聞こえる声色に、白き将が英雄の顔を見た……その時、スッと目の前の襖が開いた。


「招かざる者よ……何の用だ?」


 現れた”道徳”見て、驚く白き将、英雄も平静ではなかった。


 奥の方から、沢山の幼き声が聞こえた。


「先生、お客様ですか?」

 ここは、庵のようで、多くの子供が勉強していた。

 白き将と英雄の前に立つ、この庵の先生”道徳”は再び聞いた。


「何の用だ? お前達の血の臭いで、この庵がざわめく……そして元始まで連れててくるなんて」

 その時、英雄と白き将は、その特別な気にやっと気がついた。


「ククク、後ろが甘いですね……英雄と”霊宝”」


 振り返った二人を、吸い込まれそうな翠の瞳がじっと見た。

 白き将が、自分の腰の太刀に手をかけて、叫んだ。

「おれが”霊宝”!?……そして”翠の覇王”……おまえが”元始”なのか?」


 白き将の言葉には答えず、不思議な笑みを浮かべる翠の覇王。


 三人を見ていた道徳が、小鈴のような声で話し始めた。


 その姿は、白い透き通る着物、腰まで有る長い髪、そして陶器のような白い肌。

 年齢は十四歳、そしてなにより、似ていた。この国の姫君に。


 ただし、その髪の色は金色に輝き、その力強い瞳も、金色であった。

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