第5話 覇王
英雄と白き将は、大王に再び頭を下げて王の間の出口へ進む。
白き将の口元が緩む。
「勝ったな……あの王では、英雄のおまえには敵わない」
白き将が静かに呟いた瞬間……辺りが薄暗くなった。
「何ごとだ?」
色を無くした王の部屋の中、唯一輝く色があった。
その輝く翠の光が言った。
「勝った……と思いましたか? この王になら……と、フフ」
口元を緩まして、近づいてくる翠の幼き賢者。
「おまえは……先の若者? この暗さは……他の者は何故動かない!?」
白き将がここへ通してくれた青年、翠の賢者を見た。
「英雄……おまえもそうなのか……」
英雄が呟いた。
驚く白き将
「何!? こいつが、この子供のような、十代の若者が英雄だと!?」
翠の賢者、いや英雄は話し始めた。
「この者達が動けないのは、私がここを”刹那の時間”に変えたからです。この時間で動けるのは、選ばれた者だけ……貴方達二人は、資格がありそうですね」
「資格だと? なんの資格だ!」
白き将の問いに、翠の英雄は嬉しそうに言った。
「私と戦う資格ですよ……地方の豪族であった、私の父に3つの国を与える。それは私にとって、二年の退屈な戦いの時間……でも、貴方達なら、私に深い満足を、与えてくれそうです」
翠の英雄の顔は、落ち着き払い、まるで数百年を生きたようで、その身体からは、全てを圧する翠の気が溢れていた。
「雲の蒼き英雄よ。私を倒さねば、おまえの望みは叶わないぞ……ククク」
翠のその流れる気が風を起こす。王の間はざわめき、木枯らしになっていた。
「バカな……こんな事が……出来る人間がいるわけない」
後ろに下がる白き将
「覇王……千年に一人現れる、全てを支配する英雄」
英雄は呟いた。
翠の英雄……覇王は両手を、天高く挙げた。
「さあ、始めよう……おまえ達が負ければ、この国の住人は全て殺す。ククク……負けられないよなあ……百年に一人の英雄よ」
覇王が言い終わり、両手を下げた時、全てに光は戻った。
再び動き出した、王と配下の者達。
英雄は振り返り、王の間を後にした。
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