第4話 宿敵

「何処へ行く気だ?」


 今や英雄の最高の将軍であり、最高の友の白き将が聞いた。

 英雄は答えた。

「もう一人の英雄に会いに」


 白き将が再び聞いた。

「もう一人の英雄だと!? 誰なんだ?」


 二人は馬を飛ばし、この国の南西の大きな都に向かった。

 南西の都は、隣国の領地となっていた。

 この国の黒き将軍が裏切り、隣国の力を借りて、この国を奪った代償であった。


「どうやって、隣国の王と会うつもりだ?」

 白き将が、英雄に再び聞いた。

 何度も質問する白き将に、笑いながら英雄は答えた。


「ふふ……わからん」

 その答えに呆れ気味に、ため息をつく将軍。

「いつもおまえは……冷静そうに見えてこんな感じだ……付き合うのも大変なんだぞ!」

「ふふ……ハハハハハ」


 大いに笑いはじめた英雄につられて、白き将も大きな笑い声を立てた。


 その時、後ろから声がした。

「あの……この国の王に会いたいのですか?」

 その声は涼やかで、小さくても良く通った。


「おまえは?」

 白き将が振り向くと、まだ十代であろう、知的な瞳を持つ青年が立っていた。


 青年は二人に丁寧に、頭を下げ言葉を続けた。

「お二人は高名な武将とお見受けしました。我が王は、今お二人のような、優秀な武将を求めております。どうでしょうか、仕官を求めてはいかがですか?」


 白き将は確認した。


「仕官の話をおまえが通してくれて、オレ達を王に会わせてくれるのか?……だが必ず王に、仕官するわけではない。我々も仕える者は選びたい」


 再び丁寧に二人に、礼をした青年は答えた。


「はい、それは正道です。王を見て聞いて、覇者たる才覚無し、と判断されたなら、ご自由にしてください」


 英雄は青年の、吸い込まれそうな翠の瞳をじっと見た。

 青年は微かに笑いながら、同じく英雄の蒼い瞳を見ていた。

 しばらくして視線を外し、馬の方向を変えながら英雄は言った。


「……解った。よろしく頼む」

 青年は瞳を閉じた。

「はい……お任せください……英雄」

 青年の均整な唇が、微かに綻んだ。



「陛下……この者達です」


 翠の瞳を持つ、若き賢者が言葉を発した。

 巨大な王の間、十段もある階段を登った先に、この大陸の半分を制した王が座る。

 この大陸は六つの国からなり、この王は英雄の国も含み、3つの国を力で制覇した。


「ほう……いい面構えだな」


 王の言葉に頭を下げる翠の賢者……その姿はまだ幼さが見える。

 賢者に続いて、頭を下げ静かに王へ視線を移す、英雄と白き将の二人。


 三人の視線が重なった。

 暫しの無言の時間が経ってから、王は言った。


「……ご苦労だった。結果は追ってしらせる、下がって良い」


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