第3話 旧友
野党の中を一人で進む英雄。
野党の数は多く数千以上。
その奥に一人の男が待っていた。
長い髪と均整のとれた顔立ち、強い意志を湛えたその瞳。
野党の首領、だがその気品は隠せない。
「いまさら……何をしにきた?」
首領は英雄に問いただした。
「力を借りに」
英雄の答えに、首領は笑った。
「今更か?……おまえが居れば、この国を奪われる事など無かっただろう……絶対にな」
英雄は黙っていた。
「おまえが、王と姫の側に居れば、全員を助けられたんだよ!」
英雄の脳裏に過去が立ち上がる。
英雄はこの国の将軍であり、王の信頼も重かった。
しかし……
「……知っているさ」
首領が英雄の目を見て言った。
「おまえを姫が好きになった……そしておまえもな……身分の違い、結ばれない愛。そしておまえは身を引き宮廷から去った。その結果がこれだ……おまえが……この国を……姫を奪えば良かったんだ!」
そこまで言った首領は、首を振った。
「できるわけないよな……おまえにそんなことは……わかっている」
英雄は呟き、首領の前から去った。
「すまぬ」
翌日……
英雄の野営の陣が騒がしい。
テントから出た英雄の目に、懐かしい情景が見えた。
広い高原に白き蝶が舞う、その数は数千。
白き蝶……この国を守った、最強の軍隊。
白い鎧を身に纏い、白いバンダナを「迷いの無い証」として頭に巻く。
一つのひときわ、白く輝く大きな蝶が近づいてくる。
白き軍隊の隊長である「首領」が英雄の前に立った。
「おれは、国が襲われた時に、遠征に出ていて、王を国を救うことが出来なかった。
それがおれに悪夢を見せる……忘れるために野党になり、自由に生きようとした」
首領……嘗ての「白き将軍」……旧友は英雄に言った。
「だが、違うのが解った。傷ついた心は、亡くした気持ちは、自分で取り戻すしかない」
白いバンダナを、英雄の前で締めた将軍は誓った。
「おまえと戦おう。もし敗れても”悪夢”は見なくて済むだろうから」
英雄は呟いた。
「すまぬ……」
続けて何か話そうとした英雄の前に、白き鎧の将軍は跪いた。
「共に参ります。命が尽きても、心はあなたと有ります……大望を必ず叶えて下さい」
英雄は言葉を止め黙って肯いた。
空の雲がまた流れを変えた。
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