第2話 捕人

そよぐ風は、全てをくるんで遠くまで届く。


晴れ渡ったこの青い空下。

私は囚われの身。


この国は私の祖父が興し、父が後を継いだ。

娘として私は産まれ、幸せな日々を繋いでいた。

あの日までは……


あの日、私の父の一番信頼する男が、隣国と結びこの国を攻めた。

黒き将軍のまさかの裏切りと、その執念のような計画性。


私の国は一夜にして滅び、そして父と母と兄は殺された。

私だけが残され、ここに幽閉されている。


ここ……かつての父の居城……今は荒れ果てた牢獄。


私には何も残されていない、この窓辺から鉄格子を通していく風以外に。


そして心を風に乗せて、祈りを捧げる以外に何も残されていない。


「誰か……助けて……私をこの国を……」



「全軍の準備が整いました」


 英雄は、その報告を小高い丘の上で聞いていた。

 風が抜けてくる、その先に荒れたかつての王の城。


「出撃は何時にいたしますか……」

 配下の将軍の声を止めて、英雄は風を右手に集める。

 全員が英雄の右手を見た。


 ゆっくりと開かれた英雄の右手……そこに白き風の結晶が集まる。


 皆が自分の目を疑う、風に色など形などあるわけがない。

 目をこらす、その目に今度ははっきりと風の姿が見えた。


 英雄の周りに集まる白き小さな……蝶

 英雄は目を閉じ、風の想いを聞いた。


 暫しの時間……風と白き蝶が英雄の周りを舞う……


 英雄は目を開けて、静かにそして力強く命令を下した。


「これより戦いに進む……命を捨てよ……風の想いを叶える」

 英雄は、剣を抜き天に掲げる。

「全軍先進!」



 幽閉された私に手に、蒼き蝶が一つ、とまった。

 その時小さな窓から見える、空の雲が流れを変えた。


「そう……私の想いは、貴方に届いたのですね……あとは……」


 かつてこの国の全ての憧れであり、その美しさを誇った囚われ人は決心した。


 隠していた、小さな瓶を取り出す。

 そして、それを飲み干した。

 英雄がこの国を救うために、自分が邪魔にならないように。


 草原を駆け抜けてくる白き軍隊

 その姿は私には、白き蝶が自分を迎えに来たように思えた。

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