英雄
こうえつ
第1話 誓い
私が子供の頃から敬愛する老師が言った。
この国を救う運命にあると老師言う。
そして私は今立っている。
この国最大の河に。
見上げる高き彼方から、轟音と共に砕け落ちてくる水の龍。
その勢いは身体を振るわせ、その圧は先へ進むのを拒む。
「力……英雄ならば全てを飲み込む力を得よ……そうなのですか?」
私は心の中の老師に聞いた。
老師は黙ったまま、私を見通すように透き通った目線で見ている。
……数日が経った
水の龍の前に座って自分に聞いてみた。
「力が全てなのか?」
答えは出ない。
私は立ち上がり歩き始めた。
……数週間が経った
私はついに大河の本筋を知る。
それはチョロチョロと流れる”わき水”
大河の始まりは、幾つもの小さな水の筋。
「調和……全てを統べるのが英雄……そうなのですか?」
私は再び心の中の老師に聞いた。
「そうではない」
答える言葉が聞こえた。
”シュン”
……私の命を狙って、振り下ろされた刀。
身をかわし、その刀を弾き、暗殺者を切り捨てる。
暗殺者に近づいたとき、私は驚き、そして涙を流した。
そこに倒れていたのは……私の老師だった。
老師は嬉しそうに私に言った。
「これがおまえの最後の涙。情けを持つな……その度に多くの血が必要となる」
老師の血が、汚れを知らない小さな、わき水を汚していく。
「数百万人を殺し……数億の民を救え……流した血は偉大な功績で消える。わしが汚した水も、大河が飲み込んで、薄めてくれる。さあここに、英雄が生まれた……行かれよ」
私は自分の手を刀で傷つけ、流れる水に自分の血を混ぜた。
「たとえ、我の功績が偉大であろうとも、恩師を殺した罪はここに残そう」
誓いの言葉は、もう老師には聞こえていないだろう。
でも私の心の老師には届くだろう。
「英雄に必要なのは……力でも才能でもない……”覚悟”なのですね」
私の呟きに、雲がその流れを変えた。
英雄となった男は立った。
かけがえのないもの失い、国を取り返し、そして大事なものを再び亡くすために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます