第51話 「というわけで、ネタばらししちゃった。お疲れさま。あのね、シオリからあずかっているものがあるの」

 頭の中がぐるぐるとする。

 なぜ、俺はいまこの瞬間に目の前にいるしーちゃんが別な人間にみえるのだろう。


「その幼馴染の名前ってもしかして……?」


 俺はやっとのことで言葉を取り戻したとき一番に聞いた。

 もしかしたら、質の悪い作り話かもしれないと期待していた。

「設定が甘いね」そういって、にやりと笑えれば良かったのに。

 だけれど、しーちゃんはこくりと頷いた。


「志桜里はね。普通の毎日を送りたかったの。こう、どこか遠くに旅行に行くとかじゃなくて、病気がちでいけなかった学校とか。家は女子校だからって理由でずっと恋とかもしてこなかったの。そういう日常でやりたいけれど、ちゃんとやれてなかったことをぜーんぶ、やりたかったって私にベッドの中で言うの。どうしてもっと早く言ってくれなかったの。言ってくれてたら、なんだって手助けしたのに。どうして、ベッドから起き上がることもできなくなってからそんなことをいうのって」


 しーちゃんはそう言ったあと苦しそうにしゃくりあげた。

 しーちゃんの目は真っ赤で、涙がぼろぼろと流れてつづけていた。

 その涙には見覚えがあった。

 俺がシオリを思って流す涙と一緒だった。

 今、目の前にいるしーちゃんは大切な人の死を受け入れられないでいた。

 俺がハンカチを渡すとしーちゃんはメガネをはずして、涙を拭いた。


「じゃあ、俺と君があったことあるって」

「そう、志桜里つながり」


 俺は、必死で思い出そうとする。

 ふと、シオリのお葬式で友人代表としてスピーチをしていた真っ黒な紙が艶やかな少女を思い出した。

 しーちゃんは俺の表情から、思い出したことが分かったらしい。


「というわけで、ネタばらししちゃった。お疲れさま。あのね、シオリからあずかっているものがあるの」


 しーちゃんはそう言って一冊のノートを俺にわたした。


「志桜里の日記。私があずかってたの。両親とかにみられたくないからって、あとこれも」


 そういって、封筒がノートの上に置かれた。


「こっちは志桜里からあなたに渡してってお願いされてたの。おそくなってごめんね」


 そういうと、しーちゃんは立ち上がった。


「さて、友情ごっこはおしまい。一ヶ月おつかれさまでした」

「その程度かよ」

「えっ」


 俺は怒っていた。


「ふざけるな! 人の心を雑に扱うな。もっと大事にしろ」


 気が付くと俺はしーちゃんに怒鳴っていた。

 びっくりして目を大きく見開いて、しーちゃんはこちらをみている。けれど、とまらない。


「俺もしーちゃんも志桜里を失って悲しいのは一緒じゃないか……」


 俺は必死に言葉をさがすけれど上手く見つからない。

 しーちゃん、いや、本城詩織は静かに首をふっただけだった。

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