第49話 「ねえ、これが……今この瞬間が夢だったらどうする?」
隣の街にある遊園地というか海浜公園には子供のころから何度もきたことがあった。
ただし、遊園地というより公園施設の方がメインだけれど。
土日なんかに母さんがお弁当をつくって、ボールをもって念に何度か遊びに来る場所だった。
広い芝生もあるし、ちょっとした卵をテーマにした遊具コーナーやアスレチック、イベントをしているとミニ動物園も来たりする。
子供を遊ばせるのにちょうどいい場所だった。国立だから入園料もかなりやすいし。
ただし、遊園地の方は乗り物にのるのに別に乗り物用のチケットを買う必要があったのでほとんど連れてきてもらった覚えはない。
しーちゃんにその話をすると、
「そんなに乗り物に乗りたかったなら、今日はたくさん乗ってきていいよ」
と可哀想な子供をみるような目で言われた。
もちろん、冗談だろう。
久しぶりにきた、遊園地は子供のころとは随分違って見えた。
もっと広くて大きいのかと思っていたけれど、どれも記憶の中にあるよりも小さくてしょぼかった。
まあ、俺が大人になったということなのだろう。
しょぼい遊園地でも、しーちゃんと一緒だと楽しかった。
子供だましの遊園地だから、あっというまに見終わってしまうけれど。
海浜公園自体は巨大なので少し散歩してみることにした。お昼を買う必要もあったし。
海がすぐ近くなので海風が吹いて爽やかだ。
なんと、公園の外れのほうまで行くと地面は海岸とおなじ砂になっているところもあるという。
季節はずれの海なんて、潮風がべたっとしてにごった色をしているのかと思っていた。
だけれど、今俺の前に広がる海は、すごく綺麗だった。
子供がのっぺりとするような青じゃなくて墨を流したんじゃないかと思うほど色の濃いところもあれば、さっとチューブから出したばかりの絵の具を水で溶いたのを筆で一撫でだけしたような明るい青が不規則に混ざっているのが遠くに見えた。
しーちゃんと適当に園内を散歩する。
砂だったり、砂利だったり、庭園だったり、景色は次々と変化していく。
まるで映画の中に入ったみたいだった。
ハーブ園やら、芸術広場や噴水。
ドラマなんかの撮影につかったら、この公園一つで色んな場所にいったことにできてしまいそうだった。
しーちゃんと俺はつぎつぎと変わっていく様子を眺めながら適当に歩く。
「ねえ、これが……今この瞬間が嘘というか、夢だったらどうする?」
ふと、しーちゃんは振り返っていった。
唐突なのに、すごく大事な話をしているときみたいに深刻な顔をしていた。
「夢? どうしたの急に……」
「いいから、もしもの話。子供の頃はもしもの話ってよくしたじゃない」
「まったく……そうだね、夢っていうのはどこまでのことをいうの? 今日、二人でこうして遊んでいること。それとも、俺たちが出会ったこと」
俺がきくとしーちゃんは考え込む。
そして、「一番最初から」と言った。
一番最初ってどういうことだろう。
よく分からない。
せっかくだから、こう言うときは何時もの仕返しをさせてもらう。質問に質問返しだ。
「しーちゃんはどうする? 目が覚めたら俺はまだしーちゃんのことを知らないの」
そう尋ねるとしーちゃんは悲しそうな顔をして黙ってしまった。
「今と変わらないかな」
しーちゃんはそう小さく吐き出した。
まるで、とんでもなく苦いものを噛んでしまったけれど、どうしようもないときのような顔をしていた。
俺にはなんでしーちゃんがそんな表情をするのかまったく分からなかった。
「えー、ちょっと酷くない? 普通、そしたらまた知り合えるように頑張る的なこというんじゃないのー。俺たちの友情はそんなものだったのね」
俺はどうすればいいのか分からなくてわざとおちゃらけて「よよよ」と無く振りをしながら言った。
だけれど、しーちゃんは首を振るばかりだった。
どうして、しーちゃんはそんなに悲しそうにするのだろう。
ただの“もしも”の物語なのに。
俺たちは無言で歩き続けた。
「ねえ、アキラ君。お腹すかない?」
しばらく無言で歩きつづけて、息が苦しくなったころ、しーちゃんはとうとつに言った。
キッチンカーやお目当ての屋台はどこも今居る場所からは遠かったので、一番近くにある、軽食がとれるレストランに向かう。
レストランといってもメニューはカレーとピラフとケーキくらいのカフェテリアとか休憩スペースというのが相応しい小さなレストランだった。
しかも、供給をまにあわせるために飲み物は自販機で買えるように自販機がずらりとならんでいた。
だけれど、そこからの眺めは最高だった。
そのレストランは硝子張りになっていて、庭に当たる部分には広い池があった。そして、遠くには海が見える。
上手く角度を調整すると、レストランの前の池から海までずっと続いているように見えるのだ。
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