第47話 「エスコートよろしくお願いしますね。なんせデートですから」
日曜日、待ち合わせの場所にいくとしーちゃんは既に待っていた。
俺も、待ち合わせの時間より随分早く着いたはずなのに。
「おはようございます。今日は宜しくお願いします」
しーちゃんは畏まった感じでそう言ってふかぶかとお辞儀をした。
今日のしーちゃんは、すごく綺麗だった。
白いワンピースにに紺色のボレロ。ワンピースの裾の部分には銀色の糸で目立たないけれど刺繍がされていて、太陽の光にあかるとときどき、キラキラと光った。
今日のしーちゃんはなんだかいつもとちがった。
というか、最近しーちゃんは綺麗になっている気がする。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺はしーちゃんがしたのと同じように深く頭を下げる。
「ふふ、今日はエスコートよろしくお願いしますね。なんせデートですから」
「あ、いや。あれは言葉のあやで……」
俺が慌てると、しーちゃんはぷっと吹き出す。そうして二人で我慢できなくなってお腹を抱えて笑う。
なんか、まるでつきあいの長いカップルがデートするみたいだった。普段はともだちのように仲がいいけれど、わざと「デート」って言っていつもよりちょっとだけ畏まるのだ。だけれど、よそいきの相手をみなれないからそれがおかしくて仕方がなくなるみたいな……くすぐったいような気持ちがいいような変な感じだ。
「ねえ、これって……デートでいいんだよね……?」
しーちゃんの声はちっちゃかった。まるで泣き出すんじゃないかとおもうくらい、無理矢理絞りだしたような声。
笑っていたのに次の瞬間には泣きそうになっている。
今日のしーちゃんはなんか変だった。
「イヤだった?」
俺は慌てて聞く。
俺としーちゃんは友だち。
だけれど、今日こうやってデートしている。
女の子同士で遊びにいくこともデートというらしいけれど、男と女の友だち同士でデートに行くというのはやっぱりそういう意味になるのだろうか。
だけれど、しーちゃんの返事はいがいなものだった。
「いやじゃない……嫌じゃなくて、嬉しかったの。だって……なんでもない」
今日のしーちゃんはなんだか変だった。
俺の知っているしーちゃんは真面目なお嬢さんで、でも話すと面白くて話しやすくて、他人と喋っている気がしない存在。
だけれど、今日のしーちゃんはなんか、なんというか、女の子だった。
俺は女の子と友だちになるなんて子供のころから有り得ないと思っていた。
だって、女の子なんてよく泣くし面倒くさい存在だ。
実は小生意気な子供のころから俺にとってすぐに泣く女の子は面倒くさくて、だからこそ子供のころの俺は誰にでも優しくしていたのだ。トラブルに巻き込まれたり泣かれたりするのが面倒くさいから。
それに大抵の女の子は、マンガやアニメのよう泣き顔が綺麗なんてことはない。顔は赤くなるし、目だって赤く充血して翌日には瞼まで腫れてしまう。だから、俺は女の子の泣き顔というのが苦手だった。
だけれど、しーちゃんはすごく話しやすくて、楽しくて一緒にいるとすごく安らいだ。一緒にいるときはシオリのことを思い出さなくなるなんていうことはもちろんない。
だけれど、しーちゃんと一緒にいるとすごく落ち着いた。
もし、この後の人生で誰か女の子と過ごさないといけなくなったら、俺は間違いなくしーちゃんを選ぶだろう。
しーちゃんがそっと俺に手を差し出す。
「ほら、行こう! 予定より早いけれど」
「ああ、行こう。しーちゃん」
そう言って俺は少し照れながら、しーちゃんの手に触れた。
冷たく、ひんやりとした指先が俺の手のひらをくすぐる。懐かしい感覚だった。
俺はしーちゃんの手をぎゅっと握った。
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