第46話 「まあ、高校生のデートとしては健全ですね」
それから、俺たちはしばらく、今まで通りに一緒に遊んだりした。
お互いの秘密というか、触れられないでいる話については触れずに過ごした。
一緒に朝ご飯を食べたり、散歩をしたり、買い物に行ったり、図書館で勉強する、普通っぽい生活を再び取り戻した。
「最近元気そうね。ちょっと前まで元気なかったから心配してたのよ」母さんはそんな俺をみて、ほっとしたように微笑んだ。
しーちゃんと出かけたりするようになっても、相変わらず時間をもてあました俺は地道に勉強を続けていた。数学の問題を解いているときは色んなことが忘れられるし、頭の中が片付いてすっとする感じがここちよかったから。落ちこぼれていた俺がうそのように、成績もあがっていた。
俺は、自分ではシオリを失ったショックでボロボロでまともじゃなくなっているとおもっていたけれど、周りからみると、真面目に生活をして、成績もあがったまともな人間らしい。
皮肉なことだ。
シオリに出会う前、必死に自分が何者でどうすればいいか分からず毎日、必死に考えていたころは問題児だったのに。
シオリを失って無気力になったとたん、またいい子に戻れたのだから。
だけれど、俺はまだシオリのことが忘れられない。
シオリと出会ったおかげで俺は変われたのだ。
シオリと一緒に未来をあるきたかった。
ずっと、一緒にいたかった。
アルバイトの彼氏なんかじゃなくて、本物の彼氏としてシオリの側にいたかった。
今でもときどきシオリの幻覚が見える。
しーちゃんと毎日話すようになってから、家の壁とか何もないところをみてシオリを思い出すなんていう、人から見られたら心配されるような行動は減ったけれど。
俺は次第にしーちゃんをシオリと見間違えることが増えていった。
しーちゃんとシオリは似ていないのに。
「日曜日のデートいかない?」
気が付くと俺はしーちゃんにそう言っていた。
なんだろう、しーちゃんがシオリに見えたのだ。
ぼーっとしていた俺は気が付くとそんなことを口走っていた。
慌てて、「友だちとして」って付け加える。
だけれど、しーちゃんは特に慌てた様子もなくあっさりと、
「オッケー、いいですよー」
と返事をする。女子同士で遊びに行くことを「デート」って表現をすることもあるらしいので抵抗がないのかもしれない。
間違ったとはいえ、箱入りのお嬢様がデートに誘われたのだからもうちょっと緊張した顔をしてくれた方が可愛げがあるのにと、俺は勝手に残念がった。
「しーちゃんはどこか行きたいところある?」
一応さそって「オッケー」をもらったものの、誘っておいてプランは何もなかった。まあ、友だち同士あそびにいくだけだし。
俺が聞くとしーちゃんは少し考え込む。
しーちゃんは腕を組んでわざとらしく「うーん」と悩む仕草をしたあと、
「遊園地がいいです」
「じゃあ、海に行こう」
間髪なく答えてしーちゃんから、バシイっと「なんでやねん!」ってツッコミが入る。
つい連想ゲームをしてしまったのだ。
隣の街には海浜公園という海のすぐちかくにある公園という名はついているけれど、遊園地にサイクリング施設に植物園が合体したみたいな場所があるのだ。
花の季節になれば、全国から観光客がくるという。
まさか、高校生の身。交通費をかけて、ネズミーランドにいくほどのお金はもっていない。だけれど、海浜公園なら隣の街だし、国営なので入場料はべらぼうに安い。
そうやって、弁明すると「なるほどね」としーちゃんはめずらしく感心してくれた。
しかも、公園といってもレストランや休日になれば屋台村もできていろんなご当地グルメなんかも食べられる。
これが結構おいしいという噂だ。
「まあ、高校生のデートとしては健全ですね」
しーちゃんは上から目線でそんなことを言って自分で吹き出す。
シオリが死んで以来はじめて、ちょっと先のことを楽しみにすることができた。
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