第43話 「……お守りだから」

「ここにしましょう。実は父から株主優待券もらったんです」


 今日はしーちゃんはお洒落なカフェに誘われた。

 最近出来たばかりなのか見たことのないお店だった。


「新しいお店なのに、もう株主とかあるの?」


 俺が素朴な疑問を口にすると。


「ここ、チェーン店ですよ。ほら、あのファミレスとかのグループ会社です」


 そういって、スマホでカフェのホームページを見せてくれる。

 確かに、画面のしたのほうに関連として大手のファミレスのホームページなんかがリンクされて、会社のグループ名が書いてあった。


「へえ、色んなお店が実は同じ会社で運営されていたりするんだね」

「結構こういうのみると面白いですよ。やっぱり、会社によって得意不得意とか、あとは経営する店舗のターゲットによってメニューがちがったりとか」


 しーちゃんの話は面白かった。

 なんというか今まで見てこなかった角度で世界を見ている。

 ちょっとずれているときもあるけれど、俺より大人みたいな視点で世界をみたり、洋書を読んだりしていて面白い。


 しかし、お洒落なカフェっぽいお店というのはどうしてこうみんな高いのだろうか。

 前にシオリと来たパンケーキ屋も高かったのを思い出す。たしか、一皿が千円以上して俺は固まっていたんだっけ。結局、あのときはシオリがおごってくれたけれど。

 アルバイトもしていない学生にとって気軽に入れるようなお店ではなかった。

 でてきたものは美味しいし、女の子が喜びそうなお洒落さはあったけれど、やっぱりちょっと高校生には贅沢だなと思っていた。


 きっと、ここも高いのだろうなと重いながらメニューを開く。


 すると意外にも、あのときのパンケーキより安かった。

 しーちゃんにその話をすると、


「あのパンケーキ屋は雰囲気とか立地重視してるからコストが結構かかるのかと思います」


 なんて返事が返ってくる。たしかに、あの店は駅前のビルにはいっていて立地がよくて女子高生やOLさんなど、通りすがりのひとが吸い込まれるように入っていっていた。

 なるほどなあと俺はおとなしく頷く。

 しーちゃんは大人っぽい。

 すっごく真面目な箱入りのお嬢様かと思えば、こう言う話になると大人みたいな分析をする。


 だけれど、メニューを前にしたしーちゃんは違った。


「あ~、どれも美味しそう。決められなーい」


 なんて言って、眉間に皺をよせて、メニューを胸のあたりに引き寄せて真剣に考えている。


「ねえ、アキラ君」


「もう無理~」といって、メニューをいったん閉じたしーちゃんは畏まった感じで俺に話しかけてきた。


「はい、なんでしょう」


 俺は何をいわれるのかと思って緊張して姿勢をぴんとさせる。

 それくらい、しーちゃんは深刻な雰囲気がただよっていたのだ。


「私は今ものすごーく、頑張って食べたいメニューを二つまでしぼりました。なので提案です。ここは私がおごりなので、私が好きなモノをふたつたのんでまえみたいに二人でシェアするのはどうでしょう。ちなみに拒否権はありません」


 ツッコミどころまんさいなことをしーちゃんはいう。

 でも、その様子があまりにも真剣なので俺はおかしくてわらってしまった。どうせ、お洒落メニューなんてそんなに分からないのでしーちゃんの好きにしてと返事をする。ただし、激辛と激甘だけは簡便知って欲しいとだけ伝えて。


「んー。この一番フルーツがたくさんのっているのと。あとはアボカドのってるこれを」


 しーちゃんは、そうやって店員さんに注文するとご満悦だった。

 なんだか親に休みの日にパフェを食べに連れてきてもらった子供みたいで可愛かった。


「今日はいい天気ですね」

「ハイ、トッテモ、ヨイ、天気、デス。最高気温ハ……」


 最高気温なんてしらないのでそこでとまる。


「何ロボットになってるんですかっ!」


 しーちゃんはすかさずツッコミをいれてくる。


 以前の俺だったら、女の子とふたり料理が来るまで手持ち無沙汰で、この時間を苦痛に感じていただろう。

 どうやって、逃げ切ろうと必死に頭を巡らせていただろう。


 だけれど、今は違う。

 しーちゃんとの会話は心地がよかった。

 なんというか、昔から知っているみたいにしっくりとなじんだ。


 それにしても今日は暑かった。

 いつもはきちっと制服のブラウスを第一ボタンまできっちり留めているしーちゃんも、さすがに扱ったのかブラウスのボタンを一つあけていた。


 あれ?


「ねえ、しーちゃんでもアクセサリーって着けるんだね。学校とかで禁止されてないの?」


 俺はしーちゃんの首のあたりに、キラッとネックレスのチェーンが光ったので聞いてみた。ボタンが一つしかあいてないのでほとんど目立たないし、どんなデザインのものをつけているか見えなかったけど。


 俺はしーちゃんの胸元と耳のあたりを指さす。


「えっ? あっ……」


 しーちゃんは俺の指先を追って自信の胸のあたりをみて、あわててブラウスのボタンをとめた。

 悪いことをしちゃったなと思った。

 箱入りの女の子の胸当たりを指さすとか。


 そういえば、シオリもすごく自由奔放だったけれど、箱入りのお嬢さんだった。

 あれだけ一緒の時間をすごしたのに、俺たちはキスさえもしていなかった。

 たぶん、箱入りのお嬢さんとはそういうものなのだ。


 しーちゃんはもっと真面目そうだから、きっと将来大変だろうなあなんて他人事のように考える。

 そんな真面目で男に免疫がないしーちゃんがどうして俺と友だちになりたがったのかは謎だけれど。


「……お守りだから」


 しーちゃんは、しばらくしてからすっごく小さな声で言った。

 しーちゃんの通う学校では、お守りとかで普段、見えないようにするならアクセサリーもゆるされるということだった。

 校則が厳しいのかと思ったら、おっとりした女の子が多い分、随分そういうところはゆるいらしい。


 そんな会話をしていると、店員さんが「おまたせしました」とできあがった料理をを運んできた。

 早い!


 俺の前に料理がささっと置かれる。パンケーキの時と比べてかなり早い。これでおいしかったら最高だ。そうおもって、フォークに手を伸ばした瞬間、シオリが俺の手を握った。


 えっ、なに急に?

 俺が驚いていると、


「取り皿お願いします」


 しーちゃんは、店員さんにそうお願いしていた。

 ああ、そうかシェアするって約束だったもんね。


 俺はしーちゃんの意外な一面をみたきがした。

 そして心の中にメモをした。

 しーちゃんと、ごはんに行くときは食べる前に細心の注意をはらうことって。

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