第33話 「あのー、……」

 どうしてシオリは死んでしまったのだろう。

 俺はまた公園にいた。シオリと出会った場所。

 俺は毎日のようにここに通ってこの場所に座りシオリのことを思い出す。


 ため息をつきながら、俺はだらんと体の力をぬいて公園のベンチに体を預ける。

 姿勢を崩したせいで、手すりに肘をぶつけてる、鈍い痛みが体の中を電気のように駆け巡るが、悲鳴さえもあげられない。ただ、だるくてため息をつくだけ。


 シオリとはなんどもここに座って話をした。

 朝の澄み切った空気のなかで、世界には俺とシオリの二人しかいないみたいでそれがとても心地よかった。永遠にあの時間が続くと思っていた。

 ただのアルバイトの癖に。

 最初はシオリのことを変な女の子だとおもっていたことが懐かしい。

 だって、どこにもバイトが決まらないで公園のベンチに座ってふてくされている俺に、


「あのー、アルバイトをお探しですか?」


 なんて急に話しかけるのだから。

 ハシバミ色の瞳はキラキラとして、その瞳に映っているこの世界は、俺が直接みている正解よりもきれいだった。

 亜麻色の髪はまるで西洋の人形のように柔らかなカールがかかっていて、真っ白な肌はまるで骨から発光しているのかと思うほどはっとするほど美しかった。


 可愛い女の子だなあと思った。


 しかも、あのときシオリは真っ白なワンピースを着ていた。

 たっぷりのレースに美しいリボンで飾られたワンピースは現実離れしていた。いまこうやって思い出すとまるでシオリとの出会いは俺の妄想なんじゃないかと思うくらい現実ばなれしていた。


 まるで、絵本か映画から抜け出てきたみたいな美少女が、


「アルバイト、探してるんですよね? もしよかったら、で私の恋人になってください」


 なんていうのだから。


 もし、俺にそんな妄想をする力があるならば、もう一度はじめからでいいから妄想を始めたい。

 また、再びシオリとはじめからやりなおすのだ。


 シオリが何も覚えてなくたっていい。

 二人の楽しい思い出も忘れていたっていい。

 俺のことを好きじゃなくたっていい。


 また初めから出会いなおして、知り合って二人で少しずつ時間をすごせればそれだけで幸せだ。


 俺は再び脱力する。

 体がずりずりとベンチから落ちかけて、また肘を手すりにぶつける。

 これだけは何度もやっている。全く学ばないダメな人間なんだ俺は。


「あのー、……」

「えっ」


 一瞬シオリの声が聞こえた気がした。

 聞き覚えのある女性の声だったから。





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