第27話 「   」

 世界が終わったあとの世界。

 そんなものを考える人間などいるのだろうか。


 終わった世界に取り残されるのは最悪だということだけは伝えておこう。

 世界の終わりがくるなら、ちゃんとその最後の一日、夕陽が落ちるのを慈しみ星空を眺めながら目をとじ世界と一緒に消えるのが幸せだ。


 まちがっても、宇宙人だか神様に「君だけは生き残らせてあげよう」なんて言われても、生き残ろうとか生きたいとか願うべきではない。


 終わった世界のそのあとなんてなんの意味もないのだから。

 世界と一緒に終わりを迎えておくのが一番幸せで穏やかな人間としてのだ。


 シオリが居なくなったあとの世界で俺は一人、どうやって生きればいいのかそれさえも分からなかった。

 ただ、シオリがいたころの習慣を繰り返していた。


 朝早く起きて一緒にいった公園で散歩をして、学校に行った。

 学校にいっても、前のように早退することはなくなっていた。別に真面目に授業を受ける気があるとかではなくて、頭を使ってなにか自分で行動することができなかったんだ。


 放課後もシオリがいたころに行った場所を歩いた。

 図書館に行って手持ち無沙汰なのでついでに宿題や予習をした。

 街をあるいてシオリが好きだった鯛焼きの店で季節限定の味を購入する。

 シオリのオススメだった古書店の棚をのぞいてみる。

 夜はやることもないので家に帰ると大抵両親の食事の時間とあうので一緒に夕食をとった。

 ただ、なにも考えずにシオリがころの習慣を繰り返した。


 そうそう、例の公園の近くの喫茶店の店主は相変わらず糸目で無愛想だけれど、前よりすこしだけはげた。

 とにかく、俺の日常にはすっかりシオリの存在が染みついていた。


 何を見てもシオリを思い出す。


 なのに、俺の生活は至ってまともで健全な高校生だった。


 周りからの評判はシオリと出会うまえよりも良かった。

 他にやることもないので、成績も上がった。

「やっと元通りの西宮アキラに戻ったね」って。

 でも、元通りと言われる俺は空っぽだった。


 何かをする気力もない。

 ただ、シオリがいたことを忘れなくて、シオリがいた生活を繰り返すだけ。

 そうしていれば、もしかしたら何かのまちがえでシオリが戻ってくるんじゃないかと心のどこかで思っていた。


 そんな歪みはとうとう俺の心を壊したらしい。

 そう、最近、俺はシオリが見えるようになったのだ。

 まるで俺の願いが通じたみたいだ。


 日常のふとした場面でシオリが現れるのだ。

 そのときによって姿が見えたり、声が聞こえたり、シオリの匂いがしたり、いろいろだ。

 だけれど、俺の世界に少しだけシオリが戻ってきたのだ。

 自分がおかしいのは分かっている。

 死んだ人間は戻らない。


 だけれど、それが幻覚だったとしても俺はその幻覚にすがらないといられないのであった。

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