僕と彼女の恋愛がたとえ偽りだったとしても……
第25話 「世界が明日終わるっていわれても、みんな今までどおりの一日をすごして、いつもより余分にひとつかふたつ“ありがとう”を誰かに言うくらいだと思うの」
第25話 「世界が明日終わるっていわれても、みんな今までどおりの一日をすごして、いつもより余分にひとつかふたつ“ありがとう”を誰かに言うくらいだと思うの」
それからの日々、俺とシオリは今までと変わらず穏やかな日々を過ごし続けた。
今まで通りデートをした。
いや、今まで以上に残された時間を慈しむように俺たちは一緒にすごした。
本当は学校に行くのなんかやめて、ずっとシオリと一緒にいたかった。残されている時間が限られているのならば、それを全力ですごしたかった。
だけれど、シオリにいったらあっさりと断られた。「ちゃんと学校はいかなきゃだめだよ。というか私も学校あるし」って。
特別なことなんかしなくていい。ただ、ありきたりの一日を大切に生きることにシオリは価値があると思っているらしい。
「世界が明日終わるっていわれても、みんな今までどおりの一日をすごして、いつもより余分にひとつかふたつ“ありがとう”を誰かに言うくらいだと思うの」
それがシオリの残りの人生の過ごし方らしい。
シオリは自分が死ぬことを「死ぬ」って言葉は使わずに、「世界が終わる」って言い方をしていた。
「独特のいいまわしだね」って指摘すると、「だって、世界の中心は私だもん」とシオリはふざける。
「私がみている世界は私が観測するからあるだけで、私が見なくなればそれは別の世界だもの」
当然のことのように言う。たぶん本音ではない。
何時もは謙虚なシオリがこんな風にいうのは、たぶん一種の強がりだと俺は思っていた。
誰だって、「あなたはもうすぐ死にます」といわれたら、それくらいに思わないとやっていけない。
今まで大切にしていたもの。大好きだったもの。
それらを置いて、自分だけ消えてしまうなんて悲しいから。
自分がいなくなったあとの世界を考えるのはまるで自分だけどこか暗い遠くの洞穴に閉じ込められるような気分だ。
だから、少しでも救われるように。
少しでも寂しくないように。
自分が死んだときに世界も一緒にしんでしまえばいいと思っても不思議ではない。
もちろん、人が世界と一緒に消えることまでは願わないし、想像もしてないだろうけど。
俺とシオリは「世界が終わる」までの残りわずかな日々をできるだけたくさん一緒にすごした。ただ、シオリの体調が悪くなったりすることもあってだんだんとデートの回数が減ったり、一緒にいられる時間は短くなったけれど。その分の時間はメッセージのやりとりをした。
ただ、シオリは前とちがって意識が混濁することもでてきて、メッセージでやりとりした話を繰り返したり、忘れていることも増えてきた。普通のカップルだったら、喧嘩もするのだろうが、悲しいことに俺たちに喧嘩をする時間なんか残ってなくて、俺はただシオリが不自然に繰り返すのを静かに聞き続けることしかできなかった。
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