第24話  「というわけで……今日でアルバイトは終了。お疲れさま、一ヶ月にはまだ早いけど報酬はお支払いしますね」

「なんの病気なの?」


 俺はやっとのことで言葉を取り戻したとき一番に聞いた。

 もしかしたら、質の悪い作り話かもしれないと期待していた。

「病気の設定が甘いね」そういって、にやりと笑おうと思ったけれど、彼女が説明するシオリの病気の状態はとても淡々としていて、素人なので病気の内容までは分からないけれど、少なくとも矛盾はなさそうな話ぶりだった。


「私ね。できるだけ今ね出来るだけ人生をやりきりたいの。こう、どこか遠くに旅行に行くとかじゃなくて、サボっちゃった学校とか。家は女子校だからって理由でずっと恋とかもしてこなかったの。そういう日常でやりたいけれど、ちゃんとやれてなかったことをぜーんぶ、やってるの。死ぬとき、ああ私ちゃんと頑張って生きていたな。楽しかったって思えるように」


 シオリはそう言って笑った。

 だけれど、シオリの目は真っ赤で、涙がぼろぼろと流れていた。

 ここで「死にたくないよ」とかそんなことを言ってくれれば良いのに、そうすれば俺はシオリを抱きしめて、なんとか治療法を探そうとやっきになれるのに。

 今、目の前にいる彼女は死という運命を受け入れきっていた。

 せっかく、静かにその場所に向かう準備ができている以上、俺は彼女と一緒に悲しむことが許されない。

 俺が悲しめばシオリのきっと長い時間かけて決めた覚悟が揺らぎ、彼女をもっと悲しませることになってしまうから。

 だれだって、あきらめたくてあきらめるんじゃないんだ。


「というわけで、ネタばらししちゃったし今日でアルバイトは終了。お疲れさま、一ヶ月にはまだ早いけど報酬はお支払いしますね」


 最後にシオリはにかっと笑って言った。


「その程度かよ」

「えっ」

「俺のこと、その程度にしか思っていないのかよ。バイト代はらえば縁が切れる便利な彼氏。そんなのいるわけないだろ」


 俺は怒っていた。

 短い期間でアルバイトとはいえ、俺はシオリの彼氏だった。いや、今も彼氏だ。そんな彼女が病気だからって別れる男なんているわけがない。


「ふざけるな! 人の心を雑に扱うな。もっと大事にしろ」


 気が付くと俺はシオリに怒鳴っていた。

 びっくりして目を大きく見開いて、シオリはこちらをみている。けれど、とまらない。


「俺は、明日からもシオリの彼氏だ。死ぬとかそういうの関係なく。アルバイトなんて言われてはじめたけれど……俺はそういうのじゃなくても、シオリが好きだ」


 言ってしまった。

 つい、かっとなってではなく。言ったとたん、頭の中が恥ずかしさでぶわっと熱くなる。まるで、冬になると売っている洋酒入りのチョコレートを割って中身を流し込まれたみたいに頭の中がかあっと熱くて甘い気持ちと苦い気持ちが入り交じっていた。


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