第22話 「……ありがとう。□□□」
「シオリ、これ……」
俺は自分の鞄から小さな包紙を取り出した。
大したものではない。
シオリは不思議そうな様子で俺が渡した包みをみつめる。
「あけてみてよ」
俺がいうと、シオリは頷き、爆弾でも処理するかのような丁寧な手つきで俺の渡した包みをあける。
「これって……」
俺が渡した包みの中をみてシオリがはっと息をのんだ。
普段のお礼というか、ちょっとしたサプライズだった。
小さな硝子のなかに桜の花びらが閉じ込められたペンダントだ。
シオリには普段つけている青いペンダントより、こう言うもっと淡い暖色系の色が似合うと思ったんだ。
「つけてみる?」
俺が聞くと、シオリはこくりと頷く。
俺はシオリに渡したネックレスをあずかる。
シオリはというと、俺がネックレスをシオリの首に上手くかけられる世に、しゃんと姿勢をのばし、両手で髪をもちあげていた。
そのときのシオリの首筋は本当に怖いくらい白くて華奢で綺麗だった。ほっそりとした首に銀色のチェーンをかける。
ちょっと冷たかったのか、シオリはチェーンがふれた瞬間ぴくっと体を一瞬硬直させた。
ネックレスをつけるのはちょっと手間取ったけれど、想像ほどは酷くなかった。
「できたよ」
俺がそういうと、シオリが髪をまとめていた手を離した。彼女の白く滑らかなうなじはふわりと亜麻色のベールに包まれた。
「どうかな?」
シオリは俺のほうに体ごと向きなおして聞く。
「似合ってる」
もとから着けているネックレスよりは大分チェーンが短いおかげで、桜を閉じ込めたペンダントトップはシオリの肌の上で上品に輝いていた。
シオリはにっこりと笑う。
「俺さ、シオリのおかげでいろいろ変われたんだ。本当にありがとう」
本当はこの言葉でも足りないくらい感謝している。だけれど、今の俺はこれを言うので精一杯だった。
やりすぎかな。アルバイトの彼氏なのに、そこまで踏み込むなんて「きもい」と思われたらどうしようという不安もあった。
「ああ、やっぱりいまのなしで」そういいたい衝動に駆られた。
シオリはなにも言わなかった。
だけれど、なにも言わない代わりにすごくやわらかくて温かいものが俺の胸のなかに飛び込んできた。
「……ありがとう。
シオリは消え入りそうなくらい小さな声でそういった。
どんな精密な機械でも聞き取れないくらい小さな声だけれど、「大好き」っていう言葉が俺の胸の中に音というより、小さな波になって伝わった。
嬉しくてあたたかい気持ちで胸がいっぱいになる。
ずっとこのままこうしていたい。そう思った。
しばらくそうやった、あとシオリは急に立ち上がって走り出す。
「あっちまで競争!」
そういってどこか遠くの方を指した。
「あっちってどこだよ」なんて俺のツッコミを聞かずにシオリはどんどん遠くに走って行く。
俺もしかたなく、
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