第20話 「罰ゲームとして、アイスクリームをおごってください」

 海に行くには、電車にのって一つ隣の街にいってから、そこからローカル線に乗る必要があった。

 隣町までの電車は何本もあるのだけれど、そこからのローカル線は一時間に一本。

 結局、俺とシオリは隣町の駅までいって、ローカル線のホームにあるベンチに腰掛けて、電車が来るのを待っていた。


 さっきまで乗っていたJRのホームは人で溢れているのに、ローカル線を利用する人は少なくみんな時間調整になれているのか、俺たち以外だれもホームにいなかった。


 ただ、そんな時間も俺たちにとっては、楽しい時間だった。

 ベンチに座ってるくせに、俺とシオリは手を繋いだままだった。

 ただ、それだけなのにふわふわとした嬉しさがあふれ出てきた。


「お弁当作ってきたの。当ててみて」

「いきなり、無茶ぶり?」

「無茶かなあ……」


 シオリはちょっと頬を膨らます。彼氏なら分かるはずとでも言いたいようだった。

 これは無茶ぶりではないのだろうか。それならきっと何か俺の好きなものを作ってくれているとかそういう話しだろうか。


「うーん。じゃあ、卵焼き」

「ブー、はずれー!」


 シオリは嬉しそうに口の前にバッテンのマーク「×」を作って、楽しそうに笑った。

 ちょっと待って、ノーヒントでシオリの持っているバスケットの中を当てろということか。もしかして、俺、超能力者か何かと勘違いされているの?


「正解は~、サンドイッチでした!」

「俺の好きなものとか関係ないじゃん」


 子供っぽく笑うシオリに俺は思わずツッコミをいれた。

 シオリはすっとぼけて、「え~、好きなものだよ」なんて言っている。俺が答えるのを渋るとシオリはだめ押しのように、


「好き……だよね?」


 と俺を下から覗きこんで聞いた。

 ずるい。

「好き」で一回とめるなんてずるすぎる。

 そんなこと言われてしまったら、俺のことを好きって言われているみたいでドキドキして頭の中が熱くて溶けたキャラメルみたいになってしまう。


 案の定、灰色の脳細胞ではなく、溶けたキャラメルの脳みそをもった俺は、「うん」と頷くしかなかった。

 それを聞いて、シオリは悪戯っぽく笑って、


「では、敗者の罰ゲームとして、アイスクリームをおごってください」


 そう言って、俺たちの背中側、JRのホームにあるアイスクリームの自販機を指さした。

 背中側といっても、そもそも線路が違うのでホームも別だ。金網を越える訳にもいかないので、一度改札口で駅員さんに声をかけてローカル線のホームをでる必要があって結構めんどくさい。

 きっと、シオリは最初からこのつもりだったのだ。

 でも、こんな小さなワガママがたまらないくらい可愛かった。


「はい、はい。お嬢様はどんなアイスクリームがお好みでしょうか」

「うーん、ソーダ味」


 間髪いれずにシオリは答えた。


「了解」


 ソーダ味か。アイスクリームのソーダ味って別に本物のソーダみたいにしゅわしゅわしないのに、なぜか子供ころから好きだったなあなんて考えながら、近いのに遠回りしなければいけないアイスクリームの自販機に向かった。


 だけれど、残念ながらソーダ味は売り切れだった。

 どうしようと思って、金網越しにシオリに声をかけようとする。

 しかし、シオリはそのとき誰かと話しているようだった。一人でいるのになにか喋っている。


 これじゃあ、話しかけてもだめだし、スマホにメッセージを送っても気づかないだろう。

 俺は適当にメロン味のボタンを押してシオリの元に戻った。

 なんだかパッケージが緑にサクランボの絵がかいてあって、クリームソーダみたいだから近い味かなって思ったのだ。

 前にメッセージのやりとりしているとき、シオリは好きな果物はメロンだといっていたし。

 きっと喜ぶだろうと思った。


「ごめん、ソーダ味うりきれてた」


 俺は戻たとき、シオリは電話を終えていたみたいなのでアイスクリームを私ながらあやまった。


 シオリはアイスをみた瞬間、ちょっとだけ顔を強張らせた。


 ふたりでアイスを食べていると、電車の時間はあっというまにやってきた。

 だけれど、シオリはアイスクリームを食べ終えることができなかった。「ごめんなさい……」シオリはすごく悲しそうな顔をしながらアイスクリームを捨てることになった。


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