第18話 「……海がみたいな」
それから、俺たちはしばらく、今まで通りにデートした。
お互い、シオリの言った「秘密」については触れずに過ごした。
シオリは約束通りうちのレシピでも卵焼きを作ってくれた。
すごく丁寧に巻いてあってだしがじゅわっと染みる卵焼きで、うちの母さんが作るよりも美味しかった。
子供のころに想像した味、そのものだった。
一緒に朝ご飯を食べたり、散歩をしたり、買い物に行ったり、図書館で勉強するなど楽しい日々をすごした。
シオリのおかげで母親と話すようになったり、少しずつだが家族で食事をとるようになった。
テストもシオリに山を教えてもらえたせいか、結構いい結果を残すことができた。
普通、高校生が恋愛するっていうと、親や教師は勉強がおろそかになるとかいっていい顔をしないけれど。
俺はシオリと出会ってから変わった。
なんせ、朝はきちんと早く起きるようになったし。放課後にデートすることもあるので、早退せずにきちんと授業をうけるようになった。
前ほど自分のことを落ちぶれたダメ人間だと思うことが減った。
色んなことが良い方向に向かっている気がした。
全てシオリのおかげだ。
「日曜日のデートだけど、どうしようか?」
とうとうその日が来たと思った。休みの日は俺のテストだとかシオリが忙しくかったりしてなかなか丸一日デートすることが無かったのだ。
その分平日に、場合によっては一日二回デートをすることもあったくらい。
なんとなく、シオリの顔も緊張しているように見えた。
「シオリはどこか行きたいところある?」
俺が聞くとシオリは少し考え込む。
いつもの耳のあたりを抑える癖がでているので、なにか真剣に悩んでいるのだろう。すくなくとも、答えをあらかじめ用意していたわけではないようだった。
「……海がみたいな」
「じゃあ、海に行こう」
間髪なく答えたが、海に行きたいというのはよくよく考えると不思議だった。今は夏ではないのだ。
海に入ることなんてできないのに。
俺たちの通う高校のある街は車でなら簡単に海にいけるような立地なので、海というのはそんなに珍しくない。
ただ、海の近くには水族館やショッピングモールそれに小さな遊園地があるのでそれなりに遊ぶ場所はある。
すごく近い訳でも遠いわけでもない海。
ちょっと不思議だった。だけれど、人に聞かれたくない話をするのにシーズンオフの海ならば、風と波が声を消し去ってくれてちょうどいいのかもしれない。
「はりきって、お弁当つくるね!」
シオリは明るい感じでいうけれど、なぜだかその笑顔は無理して居るみたいで寂しげだった。
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